環境省 地域脱炭素の基本は官民協働、地域・企業価値を向上
国と地方の協働・共創で2050年までにカーボンニュートラルを達成するため、国は昨年6月に「地域脱炭素ロードマップ」を策定するなど、様々な施策を進めている。今年4月には26件の脱炭素先行地域を選定し、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」などで重点対策を支援している。
脱炭素を通じて地域課題を解決し、地域価値も向上
「脱炭素の目標は、温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量を差し引きゼロにし、気候変動による追加的な気温上昇を喰い止めることです。排出削減対策の基本は、事業者(工場・事業場・発電所等)、個人・家庭(住生活)、移動など排出者・排出源・場面単位ごとに、全国的に共通して取り組む対策であり、それは引き続き重要です。一方で、地域脱炭素は、同じ地域の中で活動する多様な排出者・排出源が、エネルギー融通やインフラのシェアリングなどで連携協力して地域単位で排出量を削減するアプローチです。地域脱炭素は、地域脱炭素は、脱炭素のカギとなる地域の分散型エネルギーや資源を活かして経済を活性化し、地域課題を解決し、地域価値を向上させる『脱炭素型地方創生』でもあり、国・世界全体の脱炭素社会実現に向けて非常に重要なアプローチになると考えています」。
環境省地域脱炭素政策調整官補佐の飯野暁氏は、基調講演でこう語った。市町村別のエネルギー収支と再生可能エネルギーのポテンシャルを見ると、地方や寒冷地において灯油やガソリンへの依存度が高くなっている。一方、再エネの基になる風況や土地などでは、それらの地方に優位性がある。
「これまで地域外に流出していたエネルギーに関する支出を地域内で循環させられれば、地域経済が好循環し、収益は持続可能な開発目標(SDGs)につながる地域活動にも使えるはず」と飯野氏は期待する。
2021年6月に国が策定した「地域脱炭素ロードマップ」は地域や国民のライフスタイルに関わる分野の取り組みで、まずは100カ所以上の脱炭素先行地域を作り、全国に「脱炭素ドミノ」を拡げていこうとするものだ。
「地域価値の向上につながる脱炭素事業では、まず再エネを導入し、その収益を地域内にとどまらせることが大切です。そのためには資本や原材料、雇用などで、地域が事業に関わる必要があります。特に原材料以外の出資や雇用は地域が関わりやすく、それによってリターンが地域内に返ってきます」。
「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」などで
重点対策を支援
脱炭素先行地域に関しては、2022年春に行われた第1次公募で79件の応募があり、26件が選定された。今後も年2回程度の公募を行い、2025年度までに少なくとも100カ所の先行地域選定を目指す。第1回公募で選ばれた地域では、例えば、北海道上士幌町は畜産の糞尿の処理過程で発生するメタンガスを有効利用していく。また、人口集積エリアの神奈川県横浜市では、住宅の屋根置きの太陽光発電やデマンドレスポンスによる需要調整を広く導入して脱炭素を目指す。
「重要なのは地域の強みを活かして地域を元気にし、人や賑わいを呼び込んでいくことです。今後、先行地域を目指す地域では、地元にどんな強みがあり、どんなエネルギー・資源を活かすポテンシャルがあるか、そしてどんな地域課題を解決していきたいかを考えていただけると良いです」。
一方、ロードマップには、自家消費型の太陽光発電設置や地域共生・地域裨益型再エネの立地、住宅・建築物の省エネ性能向上など様々な重点対策が盛り込まれている。これらの取り組みを支援するため、国では様々な予算を用意している。
地域脱炭素化事業に合わせて活用が考えられる地方財政措置
まず、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」は、脱炭素先行地域づくりや先進的な重点対策として、再エネ電気・熱設備や基盤インフラ(蓄電池、自営線等)の整備に取り組む自治体を継続的・包括的に支援し、設備投資を後押しするものだ。実施期間は2022年度~30年度で、22年度予算は 200億円となっている。交付金は、複数年度にわたって柔軟に活用できる。
また、設備導入に至る前の段階で、地域の強みやポテンシャルを把握したり、体制を組むなどの支援では、「地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業」がある。実施期間は昨年度から来年度で、昨年度補正予算は16.5億円、今年度予算は8億円となっている。
取引機会や融資の獲得にもつながる中小企業の脱炭素
環境省では出資や劣後ローン等のメザニンファイナンスなど、収益性がある形でのビジネスベースの支援も準備している。それらの資金供給を行うため、官民ファンド「脱炭素化支援機構」の今年秋の設立に向けた準備を進めている。前例が少なく認知度が低いなどの理由から、資金供給が難しい脱炭素事業活動への資金供給をする予定で、今年度は最大出資枠200億円を確保している。
また、地域脱炭素化事業に合わせて活用が考えられる地方財政措置もいくつかある(左ページ表参照)。22年度、新たに追加されたものには「公共施設等適正管理推進事業のうち脱炭素化事業」があり、起債充当率90%、交付税措置について財政力に応じて元利償還金の3~5割を基準財政需要額に算入できる措置を用意している。
さらに、今後は人材の拡充も重要になることから、内閣府は「地方創生人材支援制度(民間専門人材派遣)」の中でグリーン分野を新設。エネルギー事業の調査や地域計画、ファイナンス面に取り組める人材を派遣していく。他には、総務省の「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」の制度を使い、専門的な知識やノウハウを持つ人材の自治体への派遣を促進する。「環境省でも、地域再エネを担う中核人材の育成事業で、専門人材の育成やネットワーク構築、相互学習などに関する様々なプログラムを支援しています」。
事業の第一弾として、TSUBASAアライアンス(地域トップバンク10行による国内最大規模の広域連携の枠組み)参加行向けにワークショップ型研修を実施したところ、「参加者の多くから高い評価が得られました」と本川氏。今後も継続してワークショップを開催しながら、2~3ヶ月にわたって一連のデザインプロセスを経験する中長期的なカリキュラムも提供していく考えだが、最終的に目指しているのは、Fintechサービスの企画から開発、設計までを内製化できるデジタル人材を育成することにあるという。
一方、地域企業の脱炭素経営支援では、特に中小企業による脱炭素を支援する様々な施策を用意している。飯野氏は、「中小企業の脱炭素は、大企業を含むサプライチェーン全体での取引機会や売上、融資の獲得といった攻めの要素にもなります。まずは日本商工会議所の『CO2チェックシート』を活用し、排出源や排出の実態を見える化した上で、省エネやエネルギー源の転換、ガス化、電化、再エネ利用を検討していただきたいです」と勧めた。
環境省では他にも、脱炭素経営の具体的な取り組みを促進するためのガイドブックを策定しているほか、中小企業を対象とする脱炭素化支援事業も行っている。さらに、特設サイト「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」も開設し、脱炭素経営をサポートしている。