ヤマハの楽器買取サービス サーキュラーエコノミーを実践

不要になった楽器を買取る新サービス「音バトン」は、2023年度グッドデザイン賞を受賞するなど話題を集めている。サーキュラーエコノミーの実践でもある「音バトン」を実現に導いた中心人物の2人、ヤマハミュージックジャパン 事業企画部 目黒直弥氏と大藤洋子氏から話を聞いた。

文・矢島進二(日本デザイン振興会 常務理事)

 

目黒直弥(左)、大藤洋子(右) ヤマハミュージックジャパン 事業企画部レンタル・リース課主事

楽器の「新たな循環」をデザイン

環境省は循環経済(サーキュラーエコノミー)を「従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すもの」と定義している。

世界最大の総合楽器メーカーであるヤマハの国内販売子会社、ヤマハミュージックジャパンが始めた「音バトン」は、不要になった自社の楽器を買取り、丁寧なメンテナンスを施し、新たに演奏を始めたい人にレンタルすることで、気軽に音楽を楽しめる状況を創発する新事業で、環境省が定義でうたう「ストックを有効活用」し「付加価値を生み出す経済活動」と言えるものだ。

服などのリサイクルは定着し、アップサイクルを始め不用品の価値転換も進んできた。またメルカリの流通取引総額が1兆円規模となるなど、不用品の個人間取引も日常的なものになりつつある。町中でも、ファッションや家具、スマートフォンなどの中古を扱う店舗は増えてきたが、中古楽器の流通に関しては大きな動きはなかった。

しかし、環境省の『リユース市場規模調査』の最新版となる2021年度から、初めて「楽器類」が調査項目に加わった。これは、楽器の流通量が確実に増えている証と言えよう。

音バトンを始めた経緯について、担当した目黒直弥氏から聞いた。「私たちは『音レント』と呼ぶレンタル・リース事業の担当課で、初心者から上級者向けのヤマハの楽器と防音室を取り扱っています。楽器はそれなりの価格帯の商品なので、購入するにはハードルを感じる方がいることもあり、約20年前からレンタルサービスを始めました。最短1ヶ月から借りられ、結婚式での演奏や試奏など、必要な時に利用できます。また、用途などに合わせたさまざまなプランをご提供しています」

「ところがコロナ禍となり、演奏活動は原則自粛となり、プロのコンサートや、学校のクラブ活動などを含め、市場にも影響がありました。また、楽器の生産や流通が一時的に停滞したり、原材料費の高騰などで一部の製品の価格も変えざるを得なくなるなど、楽器をより手にしやすいレンタルへの注目が高まってきたのです。環境問題への対応という課題感もありましたが、状況に対応するために、既に市場に出ている楽器の『新たな循環』をデザインすることにしたのです」

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