デジタル・ディバイトを乗り越えるための「学び」の保障

社会教育がつくる
「つながる技術」の学び

デジタル技術が社会のあらゆる領域に浸透する中、現代の社会教育が向き合うべき重要な課題の一つに「デジタル・ディバイド(情報格差)」がある。これは単に、パソコンやスマートフォンを「持っている/持っていない」というハード面の問題にとどまらず、情報機器を「使える/使いこなせる」能力、さらにはそれらを活用する「機会や環境」における格差までを含む、より複雑で深刻な社会的分断を指す。

情報格差は、経済的・地理的・世代的な要因に加え、教育歴、言語能力、障害の有無、家族構成など、さまざまな社会的条件と結びついている。したがって、単なる技術支援やICT教育を行えば解消されるという単線的な問題ではなく、より根の深い課題が横たわっていると考える必要がある。

こうした中で、社会教育には単なる「デジタルリテラシー」の普及にとどまらない、より根源的な役割が求められている。それは、「誰もが安心して学び、つながり直すことができる」環境の設計者としての役割である。

たとえば、ある自治体の公民館では、高齢者向けのスマートフォン講座が定期的に実施されている。通信アプリで孫と連絡を取りたい、オンラインで買い物をしてみたいといった、生活に根ざしたニーズに寄り添いながら、受講者同士の助け合いや世代間交流が自然に生まれる。機器操作のスキル習得だけでなく、「わからないことを遠慮せずに聞ける空間」という、社会教育的に極めて価値ある場となっているのだ。

さらに、スマートフォンの活用を通じて、買い物や移動といった日常生活の自立性が高まり、高齢者の社会参加の意欲や自尊感情の回復につながった事例も報告されている。

外国ルーツの住民や障害者にとっての
情報アクセス保障

情報格差の問題は、高齢者だけでなく、外国にルーツを持つ住民や障害者にとっても深刻である。災害時の避難指示が日本語のみで発信された場合、外国人住民が理解できずに取り残される可能性がある。そこで、「やさしい日本語」や多言語による情報提供、翻訳サポートといった社会教育的取り組みが、図書館や地域NPOを拠点に行われている。

一方で、視覚や聴覚に障害を持つ人々にとっては、そもそもデジタル端末にアクセスすること自体が困難な場合もある。音声読み上げソフト、字幕機能、画面拡大など、技術的な支援の整備が重要であると同時に、それらを「使えるように支援する人材」が地域に存在しているかどうかも、学びの保障にとって決定的である。

さらに、知的・発達障害のある人に対しては、複雑な操作や専門用語のハードルをなくす必要がある。社会教育の現場では「わかりやすくする工夫」=ユニバーサルデザインの教材開発や支援体制の設計が求められている。

地域インフラとしての
「情報へのアクセス保障」

都市部ではオンライン学習が進展する一方で、地方や過疎地では、通信環境そのものが不安定な場合も少なくない。家庭にパソコンやWi-Fi環境がない子どもや若者が、コロナ禍における遠隔授業から取り残された事例は記憶に新しい。このような「情報インフラの地域格差」もまた、社会教育が正面から向き合うべきテーマである。 公民館や図書館での無料Wi-Fiの整備、タブレット端末の貸出や、リモート学習サポートの出前講座など、柔軟で創造的な実践がすでに始まっている。

このように考えると、社会教育とは、「学ぶ内容」だけでなく、「学ぶ権利をどう支えるか」という問いそのものに応答する営みであることがわかる。社会教育士や社会教育主事は、必ずしもICT教育の専門家である必要はない。情報へのアクセスが保障されて初めて、すべての人に学びの権利が開かれる。この認識こそが、社会教育におけるデジタル・ディバイドへの対応の出発点であり、また到達点でもある。