構想を『生きたもの』にする経営 バイセル徳重社長が描く、リユース業界と循環型社会の新たな未来
リユース市場3.1兆円、潜在する「かくれ資産」66兆円。巨大な可能性を秘めながら、その社会的価値が十分に認知されていないリユース業界。2024年4月にバイセルテクノロジーズの社長に就任した徳重浩介氏は、リユースを「社会に誇れるインフラ」へと進化させるべく、業界変革の構想を実行に移している。

リクルートからリユース業界へ転身した理由
「経営者としてもっと成長したいという思いはずっとありました。会長の岩田(同社代表取締役会長 岩田 匡平 氏)との出会いを通じて、リユース市場が圧倒的に成長している領域だということ、そしてその中でも出張訪問買取というビジネスモデルに優位性があることが分かりました」。
徳重氏が着目したのは、成長市場であることだけではない。
「決め手となったのは、マネジメントで伸びる事業モデルだったことです。問い合わせ獲得から、査定・買取・販売まで、技術力やインフラではなく、人や事業のマネジメントが成長の鍵になります。これまでの経験を活かしてマネジメントを高度化することで、成長を加速させられるという確信がありました」。
業界の社会的価値の再定義
「リユース事業は本質的に社会価値の高いものです。お客様から大切なものをお預かりして、次の方につないでいく。それによって価値を最大化していくというのは、環境問題の解決に貢献しますし、経済の活性化にもつながります。お客様の資産価値を顕在化させることで、生活の質向上にも寄与できる。まさに三方よしのビジネスモデルなんです」。
しかし、現実には業界への理解は十分とは言えない。特に出張訪問買取については、訪問型サービスへの警戒感や、価格の不透明性への懸念、買いたたかれるのではないかという不安など、負のイメージが残る。
「我々がコンプライアンス体制を強化し、透明性の高いサービスを提供して、顧客満足度を継続的に高めていく。その実績を積み重ねて発信することで、リユースサービスの利用者が増え、自宅に眠っている資産を有効活用して豊かな生活を実現する方が増えると考えています」。
大胆な組織改革とマネジメント強化
構想の実現には、まず組織から変える必要があった。着任直後、徳重氏は100人以上の社員と面談した。
「現状把握だけでなく、自分の思いを直接伝えて、納得して動いてもらうための関係性づくりのためにも、直接対話することを重視しました。人として当たり前のことですが、手を抜かずやり切ることが大切です」。
対話を通して見えてきたのは、特に人材マネジメントの課題だった。
「急激な事業成長によって組織規模が拡大した一方で、マネジメントの型が無く、伸びしろが大きいことが見えてきました。現在は、外部講師や私自身も登壇する勉強会、評価・フィードバックのためのフォーマットの整備など、仕組みと場の両面からミドルマネージャーを育成しています」。
さらに、徳重氏は着任後の1年3ヶ月で、執行役員陣を全員入れ替えるという大胆な人事を断行した。
「戦略を実現するために必要な人を配する。組織構造(Structure)・制度(System)・人材配置(Staffing)はすべて戦略から逆算します。いま当社は0から1を生むフェーズではなく、10から100、1,000へと成長させるフェーズにあります。数千億円規模の企業経営を見据えて、組織を高度にマネジメントできる人材が必要でした」。
構想を組織全体で共有する仕組み
人事制度改革も早々に着手し、2025年1月から運用を開始している。制度改革も単なる仕組みづくりに留まらず、伝え方まで設計する。
「『Bet on Your Growth』という人事戦略のコンセプトを掲げています。組織として何を大切にしているのか、シンプルなメッセージで伝えることが重要です。社員一人ひとりの成長可能性に期待を寄せ、能力を発揮できる場を整備し、支援していく姿勢を組織文化として定着させていきます」。
その理念を浸透させるため、毎月の動画配信のほか、3カ月ごとの事業報告会・懇親会など経営と現場の距離を縮める仕組みを導入した。
「組織や制度のドラスティックな変革に対して、納得できる説明は重要です。デジタルツールだけでなく、対面での交流を通じて、会社が変革していく手応えを全員で共有することを目指しています」。
リユースを進化させる人とテクノロジーの融合
人のマネジメントが事業に大きく影響する一方で、事業オペレーションのマネジメントとしてテクノロジーの活用にも注力している。
「テクノロジー活用、特にAIは『業務を効率化してくれるもの』と『業務を抜本的に変革するもの』に分類できます。後者は現場から提案することは難しいので、経営主導で戦略的に推進すべきだと考えています」。
「それによって、例えば査定にかかる時間を大幅に短縮したり、問い合わせ対応をAIが担ったり。人にしかできない仕事に集中することで、働きやすさも効率性も両立できるようになります」。
循環型社会をリードする企業への道筋
「将来的には日本経済の中核を担う企業のひとつとして、より大きな社会的影響力を持ちたい。それがリユース業界全体の発展にも、社会課題の解決にも必要だと考えています」。
「『バイセル』というブランドが、安心・安全なリユースサービスの代名詞として認知される。社員が誇りを持ち、生活者が気持ちよく資産を循環できる社会を実現する。それが、私が目指す構想です」。
構想は、描くだけでは意味がない。現場の社員がその価値を実感し、日々の仕事に充実感を持てるようになって初めて、構想が組織の中で生きたものになる。徳重氏の経営哲学の根底には、この確信がある。
「私自身、会社が日々進化していく手応えを感じながら、充実した毎日を送っています。解決すべき課題が多いということは、それだけ成長の可能性が大きいということ。この挑戦を楽しみながら、構想の実現に向けて邁進していきます」。

- 徳重 浩介(とくしげ・こうすけ)氏
- 株式会社BuySell Technologies 代表取締役社長 兼 CEO
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