迫られる温暖化への適応、期待の新素材「SPACECOOL」

SPACECOOLは、ゼロエネルギーで外気温より温度を低下させることができる放射冷却素材『SPACECOOL』で脱炭素への貢献を目指す。熱中症対策やコンテナ、屋外機器の温度上昇緩和など、幅広い用途での利用を想定している。

夘瀧 高久 SPACECOOL アライアンス本部長

エネルギーを消費せずに
涼しさを実現

「世界に木陰の涼しさを」というビジョンを掲げるSPACECOOLは、大阪ガスが開発した放射冷却素材『SPACECOOL(スペースクール)』の事業会社として、今年4月に設立された。

「夏の暑さの課題には、これまでエアコンやスポットクーラーのようなアクティブな手段のほか、断熱材や日射反射塗料などパッシブな手段で対応されてきました。これらはいずれも非常に有効ですが、限界もあると思います」

SPACECOOL・アライアンス本部長の夘瀧高久氏は、こう指摘する。一方、放射冷却素材のSPACECOOLはエネルギーを消費することなく、人にも地球にも優しい、新たな涼しさを提供する製品だ。

『SPECECOOL』は粘着剤付きフィルム(画像)と縫製できる帆布の2種類を展開。さまざまな用途に応用できる

「私たちは、この新しい涼しさによって地球温暖化やエネルギー枯渇問題の解決に貢献できると信じ、現在、その事業化を進めています」

SPACECOOLは高性能、高耐久のしなやかな光学フィルムで、その特長は2つある。第一に、太陽光と大気からの熱を反射する形でブロックし、熱吸収を抑える。

「一般に、日射反射塗料や遮熱材として知られるものも同じ反射の原理ですが、SPACECOOLでは、特に高性能な材料を使用しています」

第二に、独自の技術で放射冷却の原理を活用し、宇宙空間に赤外線の形で熱を輻射(ふくしゃ)することで熱を捨て、ゼロエネルギーで外気温より低い温度を実現できる。使用方法は簡単で、フィルムを貼るだけでさまざまなものや空間を冷やせる。

放射冷却は赤外線の形で地球の熱が宇宙に輻射されて逃げていくことで、例えば、冬の夜間にこの現象が起きると翌朝は特に冷え込む。また、太陽光は0.5~1マイクロメートル周辺の波長域で地球に熱を放射しており、特に夏場の日中はこの熱が非常に強く、地上が温められる。このため、人はほとんど感じないものの、夏場の日中も赤外線は地上から宇宙に向けて放たれている。

一方、放射冷却では8〜13マイクロメートルの領域が一般に『大気の窓』と呼ばれ、この領域ではほとんど光を吸収しない。大気の光の透過率が非常に高い領域であることから、光が大気を通り抜けて宇宙空間に到達することが可能になる。宇宙空間はマイナス270℃と超低温で、この原理を利用すれば、地上の熱を宇宙に逃がすことができる。

「私たちはこの原理を活かし、この波長域で熱輻射が非常に大きい材料を選定してSPACECOOLを作りました。さらに太陽光の波長域の光をできるだけ反射できる材料を組み合わせ、日中も外気温より冷えた状態を保つことに成功しました。一般的な材料では、太陽光から届く熱の方が大きくなってしまいますが、逆に赤外線で出ていく熱の方を大きくできないかとチャレンジして成功したのです」

高性能な遮熱と放射冷却で
温度低下を可能に

例えば、外気温が約35℃の猛暑日に、直射日光が当たる環境下に鉄板を置くと表面温度は80℃程度まで上昇し、卵が焼けるレベルまで熱くなる。このような温度上昇を防ぐためには通常、日射反射塗料を塗るが、その場合も表面温度は45℃程度まで上昇する。

一方、同様の状況で鉄板にSPACECOOLを貼り付けた場合には、外気温より6℃近く低い温度まで冷やすことが可能になる。

「これを活用すれば、熱中症対策や建物の内部空間の空調費削減など、さまざまな場面で効果を生み出せるはずです」

SPACECOOLの使用例。普通の白テント、放射冷却白テント、放射冷却銀テントでの比較。
10℃ほどの差がみられた

SPACECOOLが高性能な遮熱と放射冷却を組み合わせて作られた素材であることから、このような温度低下が可能になっている。

例えば、SPACECOOLと遮熱素材や断熱材の違いは、以下のようなものだ。

熱の伝わり方には熱伝導・熱伝達・放射の3種類あり、遮熱素材は一般的に太陽光からの放射を反射してブロックする。また、断熱材は熱伝導率の低い材料を用い、熱伝導によって内部に熱が伝わることを抑える。これに対し、SPACECOOLは遮熱の機能に加え、放射冷却の原理を活用して、太陽光や大気の熱をブロックし、さらに素材自体が冷えていく。

SPACECOOLのラインナップは現在、貼り付けができるフィルムと帆布の2種類で、それぞれシルバーとホワイトの2色がある。帆布はフィルムを貼り付けたもので、縫製や加工でテントなどを作ることができる。

熱中症対策や機器の故障防止
など幅広い用途に

SPACECOOLの利用を通じて快適性や安全性が向上すれば、地球温暖化に伴う温度上昇の影響が緩和されることが期待される。用途としては、ユニットハウスやプレハブの建屋、仮設住宅、テントなど、さまざまな場所での熱中症防止や空調費の削減が挙げられる。

他にも、トラックの荷台や船舶で運ばれるコンテナの温度上昇を抑えることや、屋外機器の故障や劣化などのトラブル回避への利用も可能だ。

「現在は、国内向けに有償サンプルとして販売を開始しています。また、ディフューザーとなっていただける共創パートナーも募集しています」

2025年大阪・関西万博などのイベントにおける熱中症対策や、屋外に設置された機器の故障を防止するための冷却、産業ガスボンベの温度上昇抑制など、現在もさまざまな課題解決に向けてパートナーとの共創活動を進めている。猛暑が続く中、今年の夏は製品に関する非常に多くの問い合わせが寄せられたという。

同社では今後、事業を通じてSDGs(持続可能な開発目標)達成やカーボンニュートラルへの対応、そして働く人の労働環境や権利を擁護する人権デューデリジェンスといった世界共通の課題を背景とした事業環境において、課題解決に貢献するビジネスを展開していく構えだ。

 

お問い合わせ


SPACECOOL株式会社
TEL:06-7175-8599
E-mail:info@spacecool.jp
URL:https://www.spacecool.jp/

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