トカゲの舌がハエを捕まえる動きを模倣する綿花収穫ロボット 過酷な手作業の代替に

米国で栽培される、付加価値の高い作物のひとつは綿花だ。その収穫価値は年間約70億ドルにも上る。バージニア州からカリフォルニア州にかけての17州にまたがる地域で栽培され、ほぼすべての種類の衣服や医療用品、家具の張り地などに使用されている。

綿花は、綿殻(わたがら)と呼ばれる硬くて繊維質の殻の中で育る。植え付けから約100日後、綿殻は成熟して割れ、中から何千ものふわふわした白い繊維が現れる。綿花1つあたりには20~40個の種が入っており、それらに繊維が付着しているため、綿の植物の果実は「種綿(たねわた)」と呼ばれる。

いくつかの主要生産国で今でも行われている、手作業での綿花の収穫は緻密な作業だ。作業員は綿花に手を伸ばすためにかがみ、植物の硬く乾燥した部分で手を傷つけることもある。種綿を収穫するためには、綿殻から繊維を残さず収穫するため、綿花をつかんでひねる必要もある。

米国では、1930年代に多くの綿花農家が手作業から大型の綿花収穫機へと移行した。そして今、業界はより効率的で正確な、新しい段階に入っている。

筆者はエンジニアであり、農業機械に関する研究の経験が20年近くあり、現在の焦点は農業ロボティクスと自動化だ。ミシシッピ州立大学での博士課程中から、筆者は農業および生物工学部門を率いるアレックス・トマソン氏とともに、製品と土壌への損傷を最小化しつつ綿花を摘める、綿花収穫ロボットの開発に取り組んでいる。

綿花収穫ロボットのプロトタイプと、ミシシッピ州立大学工学部教授 フセイン・ガラカニ氏。copyright: Hussein Gharakhani, CC BY-ND

綿花収穫ロボットのプロトタイプと、ミシシッピ州立大学工学部教授 フセイン・ガラカニ氏。copyright: Hussein Gharakhani, CC BY-ND

綿花の収穫に、なぜロボティクスを使うのか

経済的にも、環境的にも、そして農業的にも、綿花農家にはよりよい収穫作業用のソリューションを求める理由がある。従来の綿花収穫機は長さが14フィート(約4.26m)、重さは30トンを超えることがある。これらは植物を傷つけることなく、効果的に綿花を収穫することはできるが、同時に問題も引き起こすのだ。

まず1つめの問題は、「繊維の長期間の露出」だ。綿花はすべて同時に成熟するわけではなく、最も成熟が早い綿花が開いてから、周囲の綿花が熟し開くまで、最大で50日間もの差が発生することがある。

もう1つの問題は巨大な綿花収穫機だ。その重さによって綿花収穫機は土壌を圧縮してしまい、水や肥料が植物の根まで浸透するのが難しくなってしまう。そして、これらの機械は年に2〜3ヶ月しか使われないのに、購入するには約100万ドルもかかる。

ロボティクスは、果物や野菜など他の作物ですでに採用されており、解決策としてのポテンシャルがある。ロボットであれば、カメラとセンサーを使用して農作物が収穫可能かを検出し、植物を傷つけることなく収穫できる。

綿花栽培においても、ロボティクスであれば開いた綿花だけ的確に摘むことができる。綿花が開いた直後に種綿を摘むことで、雨風にさらされることなく、より良質な綿繊維の生産が可能になるのだ。ロボットは種綿をターゲットにし、植物の他の部分には触らない。

またロボットで摘み取れるなら、現在では当たり前のように使われている、収穫前に植物から葉を取り除くための除葉剤も使う必要がなくなる。そしてもちろん、小さくて敏捷なロボットであれば土壌圧縮を防ぎ、良質な農地の維持に役立つ。

2017年、アラバマ州で綿花を収穫する機械収穫機

2017年、アラバマ州で綿花を収穫する機械収穫機。copyright: Katie Nichols / Alabama Extension / Flickr

バイオミメティクス ―― 生物にヒントを得た「摘み取りアーム」

筆者たちの研究は、ロボットによる綿花の収穫用エンドエフェクタの設計に焦点を当てている。エンドエフェクタとは、ロボットが他の物体に干渉するためのロボットアームの手先部分にあたるパーツのことだ。筆者たちが開発しているエンドエフェクタは、繊細で効率的な綿摘みのために設計された「3本指」パーツだ。これは自然からインスピレーションを得ており、トカゲの狩猟能力を模倣している。

エンドエフェクタの「指」は、ピンが取り付けられたベルトコンベアを含む3Dプリントによる構造物だ。ピンは「指」が種綿をつかんで引っ張るためにある。トカゲが粘着性のある舌で獲物を捕らえるように、筆者たちが開発したエンドエフェクタの3本の「指」は繊細に種綿に近づく。種綿に接触すると綿の繊維が「指」にくっつく。これは昆虫がトカゲの舌にくっつくのと同様だ。

次に、「指」はベルトコンベア部分を動かし、トカゲの舌のように素早く種綿を引き込む。こうしてエンドエフェクタは種綿を「飲み込む」作業を続け、植物からそれを分離させる。植物側に種綿を残さず可能な限り多く収穫できるよう、エンドエフェクタは種綿が残っている部分に何度も触れる。

効率的な綿花収穫のために、ロボットが実現しなければならないのは次の3つだ。

  1. 収穫可能な綿花を検出する
  2. それが三次元空間で正確にどこに位置しているかを特定する
  3. 種綿を摘む

検出には、綿の植物にある開いた綿花を認識できるよう、筆者たちが訓練したディープラーニングアルゴリズムを使用する。そしてステレオビジョンカメラを利用して3D空間座標を計算し、それをロボットアームに伝達する。アームが可能な限り多くの種綿を摘めるよう、収穫中もこの制御アルゴリズムは綿花を監視を続ける。

テストと結果

これまでに、筆者たちは実験室と綿花畑でロボット式綿花収穫機をテストしてきた。検出システムは熟した綿花の78%を見つけ、座標計算システムは検出された綿花の70%の座標を計算し、ロボットアームはこれらの綿花の83%をうまく収穫した。全体として、ロボットはアームが届く範囲内の綿ボールの約50%を摘み取ることができた。

筆者たちの綿花収穫機は、綿花あたり8.8秒の速度で綿を摘む。この必要な時間を0.3秒に減らし、ロボットが手の届く綿花の少なくとも90%を摘めるよう効率化できれば、システムの最適化、より多くのアームの追加、50台のロボットの同時運用などにより、現行の機械式綿花収穫機と同等のスピード、同等の収量を得ることができる。

全体的なロボットの性能向上のために、今後はより良い人工知能アルゴリズム採用、システムのカメラ改善、ロボットアームの自由度を追加する予定だ。例えばエンドエフェクタが回転できるようになれば、器用さを向上させられる。

綿花畑で見回りをする少女

綿花畑で見回りをする少女

筆者たちは中国、インド、パキスタン、ウズベキスタンなどの主要な綿花生産国で、このロボットに大きな可能性を見出している。これらの国では現在、綿花は手作業で摘まれており、しばしば女性や子供たちが、時には非人道的な条件下で働いている。低所得国の小規模農家にこの技術を利用可能にするひとつの方法は、センサーが少なくて済む小型の半自律型ロボットを作ることだ。植物や土壌への損傷を少なくして高価値の綿を生産できるようになれば、この世界的な作物を栽培して生計を立てている、何百万人もの人々の生活を改善することができるはずだ。

(※本記事は豪州発グローバルメディア「The Conversation」に掲載されたレポートを、著者の許可を得て翻訳・掲載しています。)

フセイン・ガラカニ(Hussein Gharakhani)
ミシシッピ州立大学 農業生物工学助教授