変化を味方に、多様性を競争力に AI時代におけるポールトゥウィンの価値創造

ポールトゥウィン株式会社の現社長、橘鉄平氏は2004年の入社以来、14カ国に海外展開を進め、ポールトゥウィングループを成長させてきた立役者だ。AIの進化を見据えた事業ポートフォリオの再構築と人材育成にも早期に着手し、変革のスピードを加速させている。激動の時代においていかにして変化し続けるか。多様性を原動力に進化し続ける組織づくりの哲学について、橘氏に聞いた。

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橘 鉄平(ポールトゥウィン株式会社 代表取締役 CEO)

事業ポートフォリオの再編で、
幅広いソリューションを獲得

 ポールトゥウィンの歴史は1994年、日本初のゲームデバッグ専門企業として始まった。橘氏は2004年の入社以降、国内外での事業拡大を通じて会社を成長させてきた。「名古屋から始まり、福岡、京都、札幌と拠点を広げ、2009年には海外進出も果たしました。私自身も8年間、米国と英国を拠点に海外事業の立ち上げと経営に携わりました」と橘氏は振り返る。
 2018年に帰国後、まず橘氏が主導したのが組織再編だった。ゲームデバッグのポールトゥウィン、ネット監視のピットクルー、ソフトウェアテストのクアーズという3社を統合し、橘氏は新生ポールトゥウィン株式会社のCEOに就任した。大規模な組織統合の根底にあるのは「幅広い解決策を提供できるパートナーになる」という明確なビジョンだった。「クライアントに多面的なソリューションを提示することが最大の目的。統合によって、複雑なニーズに応えられる会社になろうと考えたのです」。橘氏はこう説明する。
 それまで、グループ各社は中小企業規模単位で分かれていた。クライアントからすれば案件ごとに異なる会社とやり取りする必要があるうえに、細かなニーズに柔軟に対応しきれていない実情があった。
 橘氏が理想としたのは、いわば業務支援のマルチツール。コンピュータのコマンドキーのような存在だ。「『ポールトゥウィン』というボタンひとつで、ゲームデバッグやソフトウェアテスト、カスタマーサポートなど、必要なサービスがワンストップで提供される。プロフェッショナルとして質の高い答えを、手間のかからないプロセスで返す。そんな会社を目指しました」と語る。
 事業再編の結果、新生ポールトゥウィンは国内20拠点に約5,000名の従業員を擁する体制へと拡大した。各事業部門は専門性を維持しながら、多様なBPOサービスをワンストップで提供できる体制を構築。橘氏のリーダーシップの下、クライアントの多様なニーズにより的確に応えられるシナジーを生み出す会社へと進化した。

図 ポールトゥウィンの国内BPOサービス

AIが浸透する新たな時代を見据え、
品質保証・ソフトウェアテスト事業を強化

 今後、グローバル展開やAI時代を見据え、同社は改めてソフトウェア品質保証事業に注力していく方針だ。「私たちの海外14カ国に広がるネットワークを活かせば、グローバルに事業を拡大するうえで最も可能性のある分野です。また、ソフトウェアテストの領域では自動化が進んでいます。この分野を弊社におけるAI活用の試金石とし、会社全体をけん引する存在にしていきたいと考えています」。
 AI人材の育成も始まっている。2025年2月には「先端技術研究室」を新設し、元マイクロソフトの久保雅之氏を責任者に迎えてAI活用を本格化させた。すでにこの半年余りで約200~300名の自動化テストエンジニアを育成。今後も、大規模なリスキリングプログラムを数百名規模で展開する予定だ。
 ターゲットとして特に注目しているのが、DX化が進む新たな市場だ。橘氏は事業の展望についてこう語る。「外食産業や教育分野など、これまでデジタル化が遅れていた業界にこそ、大きなチャンスがあると考えています。レストランのタッチパネル式注文システムからオンライン教育プラットフォームまで、品質保証に対するニーズは急速に広がっている。従来の産業にテクノロジーが入り込む局面こそ、我々の出番だと捉えています」。

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多様性を原動力に
時代の変化に対応し続ける組織へ

 橘氏の経営哲学の核心は「多様性」だ。これは単なるこだわりではなく、実践的な組織戦略でもある。「自分と違う意見の人、違う能力を持つ人が周りにいた方が、しなやかな組織になれると思っています。ニーズや価値観の変化が激しい今、多様な視点があったほうがリスクやチャンスも見えやすくなるし、経営の可能性も広がります」。
 多様性と組織の一体性を両立させるために、橘氏が最初に着手したのはHR部門の強化だった。「組織はどうしても一部のエース人材が正義とされ、他の人材がそれに従うだけの構造になりがちです。現場が多様性を受け入れ、様々な人材が価値を発揮できるような体制を作りました」。
 従来は中途採用が中心だったが、4年前から新卒採用も開始。新卒ならではの視点を組織に取り入れたいという狙いからだ。社内で定期的に実施している新規事業コンテストへの参加も新卒研修の重点プログラムに含めており、新卒だからこそ持てる発想を会社の成長に活かそうという姿勢がうかがえる。
 この多様性重視の姿勢は、事業戦略にも反映されている。スモールビジネスの集合体として各事業部門の専門性とスピード感は維持しながら、全社的なガバナンス統一を両立する。
 クライアントのニーズに柔軟に応えるために大きな規模を維持しつつ、進化を続けるために組織の多様性を担保する仕組みを作る。これが、橘氏が描く、変化の激しい時代に対応できる組織のあり方だ。
 今後もAIの活用による業務効率化や短納期化を進めながら、これまで培ってきたゲームデバッグの強みに加えソフトウェアテストや品質保証サービスにも注力、事業ポートフォリオの多角化を図っていく。30年の歴史を誇るゲームデバッグ分野のパイオニアは、クライアントにとって多様な「引き出し」を持つパートナーであり続けるために、次のステージを見据える。 

サシカエ_新規事業コンテスト写真
新規事業コンテストでの発表

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橘 鉄平(たちばな・てっぺい)氏
ポールトゥウィンホールディングス株式会社(証券コード:3657) 代表取締役社長
ポールトゥウィン株式会社 代表取締役 CEO