ナレルグループが描く建設業界の未来 時代の転換点を成長機会に変える経営力
建設業界は社会インフラを支える重要産業でありながら、技術者不足という構造的課題に直面している。この状況を新たな成長機会と捉え、2008年に創業したナレルグループの中核会社であるワールドコーポレーションは、独自の人材育成モデルで業界に革新をもたらしている。未経験者を建設技術者として育成する同社は、創業から16年で売上高216億円、従業員4,000人規模の企業へと成長を遂げた。代表取締役の小林良氏に、時代の潮流を読み解く経営眼と、建設業界における人材育成の新たな可能性について聞いた。

(ナレルグループ株式会社 代表取締役社長)
父の姿とやりきる信念 二つの原動力で実現した創業
ナレルグループ代表取締役の小林良氏の原点は、蔵前で玩具問屋を経営していた父の姿だったという。「父の姿に強い憧れを抱いていました。いつか自分も経営者として事業を興したいという夢を、子供の頃から持ち続けていたのです」と小林氏は語る。
小林氏が最も重視するのは、やりきるという信念だ。「誰もが『いつか起業したい』と口にしますが、実行に移す人は稀です。私は35歳までに独立すると決め、34歳で行動しました。期限を決めて、必ずやりきる。これが成功への第一歩だと考えています」。
2006年頃から事業構想を練り始めた小林氏は、父との対話の中で建設業界の可能性に気づく。「父から建設業の派遣は収益性が高いと聞き、改めて市場を分析しました。建設業界はGDPの約1割、40兆円規模(※創業当時)の巨大市場でありながら、若手人材が少ない。この需給ギャップこそが最大のビジネスチャンスだと確信しました」。
2008年11月、リーマンショックの渦中での創業は、一見すると最悪のタイミングに見える。しかしながら、小林氏は持ち前のポジティブさでこう振り返る。「あの厳しい環境からスタートしたことで、経営に関して謙虚な姿勢を持ち続けることができています」。
文系・未経験者も建設技術者に 業界の常識を覆す独自のスキーム
創業から4年後の2012年、ワールドコーポレーションはさらなる転機を迎えた。「東日本大震災後の復興需要により、経験者採用が困難になっていました。この状況を逆手に取り、未経験者を育成して派遣するモデルを開始したのです」。同社専務取締役・柴田直樹氏との議論から生まれたこのモデルは、時代のニーズに完璧に合致していた。
このスキームは、建設業界への人手不足を解消するのみならず、未経験の人材に門戸を開く画期的な仕組みだと小林氏はいう。「従来、建設業界で働くには、建築系の学校を卒業するか、建設会社で長年修行を積むしか道がありませんでした。しかし我々は、文系出身者でも、未経験者でも、やる気さえあれば一から建設技術者として育成する仕組みを確立したといえます」。
さらに、ナレルグループの優位性を支えるのが、グループ団体である「全国建設人材協会」の存在だ。同協会は、職人の人材紹介が可能となる「建設業務有料職業紹介事業許可」を保有している。この許可は日本で3団体のみ認められており、実際にサービス展開できているのは同協会だけだという。この独占的な優位性を活かし、人手不足が深刻な職人分野で新市場を開拓している。
そして2013年9月、東京オリンピック開催決定の瞬間、小林氏は即座に行動を起こした。「オリンピック決定のその日に、専務に電話をかけました。『これで2020年まで東京は建設ラッシュになる。今こそ全力でアクセルを踏む時だ』と」。この決断の速さと大胆さが、同社の飛躍的成長の原動力となった。実際、2013年の売上9億円から2016年には42億円と、わずか3年で4倍以上の成長を実現した。
創業時の挑戦から成熟した責任感へ 時代に沿った組織変革を推進
企業規模の拡大に伴い、コンプライアンス強化にも取り組む。「今、一つの不祥事で企業は崩壊する時代です。約4,000人の社員とその家族、約1万人の生活に責任を持つ仕組み作りが重要です。上場企業として、社会的責任を果たす経営が不可欠だと認識しています。」という小林氏の言葉には、創業時の挑戦的な姿勢とは異なる、成熟した経営者としての責任感が表れている。
さらに注目すべきは、建設業界では先進的な女性活躍推進の取り組みだ。現在、社内の約4割を女性社員が占め、執行役員にも女性を登用。「建設現場も男女別のトイレや更衣室が標準装備となり、施工管理という緻密な段取りが求められる仕事は、むしろ女性の強みが発揮される分野です」と小林氏は語る。これらの時代の変化を単なる義務ではなく、成長の原動力として捉える経営姿勢が、同社の持続的成長を支えている。
社会を支える誇りを若い世代へ 業界No.1へのロードマップ
ナレルグループの成長戦略の原動力となるのが、退職率の改善と人材育成の深化だ。
その第一歩として、さらなる情報発信を行い、建設業界のイメージ向上と若手人材を呼び込むことが必要だと小林氏は説く。「建設業界にはネガティブなイメージを持たれがちです。しかし、インフラを支え、災害時には真っ先に復興を担う、社会の安心と安全を支える仕事です。そんな魅力ある業界の実像を特に若い世代に伝えていきたいと思っています」。
加えて、業界全体の課題でもある退職率の高さにも取り組んでいる。同社は待遇の継続的な改善と、キャリアパスの提示などきめ細やかなフォロー体制により、業界トップクラスの人材定着を目指す。
小林氏の経営哲学には、人にかける想いがある。「AIやDXが作業効率を革命的に向上させる時代だからこそ、人間にしかできない部分がより価値を持ちます。AI活用やDX化も進めていきますが、人間の深みと呼べる部分も大切にすべきだと思っています」。
建設業界の未来について、小林氏は明確なビジョンを持つ。「建設業は社会インフラを支える重要な仕事です。我々は未経験者に門戸を開き、技術者として育成することで、業界全体の人材不足解決に貢献していきます。職人分野へのさらなる展開、DX化の推進、そして退職率の改善。これらを着実に進めることで業界No.1を目指します」。時代の潮流を読みチャンスをつかむ力、やりきる覚悟、そして人材への深い信頼。小林氏の経営哲学が、建設業界の新たな未来を切り拓いていく。
- 小林良(こばやし・りょう)氏
- 株式会社ナレルグループ 代表取締役
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