湧永製薬「健康寿命を延ばす構想」──熟成ニンニク抽出液研究と世界展開の70年

「人間が本来持つ自然治癒力を高め、元気で長生きできる社会をつくる」。戦後間もない1955年に創業した湧永製薬株式会社は、この理念を一貫して掲げてきた。主力製品である滋養強壮剤「キヨーレオピン」シリーズの主成分である熟成ニンニク抽出液の研究は、今も深化を続け、世界市場にも通用するエビデンス獲得に挑んでいる。4代目社長・湧永寛仁氏に、理念を継承しながら進化する事業構想を聞いた。
創業理念と原点
1955年、戦後から10年を経た日本は、栄養不足や感染症により病に倒れる人が多い時代だった。創業者・湧永満之は、治療に頼るだけでなく、人が本来持つ自然治癒力を高めることで健康を取り戻すべきだと考えた。
「平均寿命と健康寿命の差をなくし、天寿を迎えるその日まで元気で過ごせる人生を支えたい」。この思想が湧永製薬の原点となり、以来70年にわたり経営理念として受け継がれている。
熟成ニンニク研究と「レオピン」誕生
満之の理念は、ドイツの研究者オイゲン・シュネル博士との出会いで具体化する。博士は古来より滋養強壮に用いられてきた「ニンニク」に着目し、その有効成分を最大限に引き出し、ニンニク特有の刺激臭を抑える加工法を探求していた。
試行錯誤の末に確立したのが、約2年かけて熟成・抽出を行う方法であり、ここから当時の「レオピン」が誕生した。以来、薬局と薬剤師によるカウンセリング販売を通じて全国に広がり、日本専門薬局同志会との学び合いの場も形成された。
「医薬品は“効きそう”というイメージではなく、一人ひとりに合った処方と専門家のカウンセリングが不可欠」。湧永氏は、創業以来の販売哲学をこう語る。
事業承継と理念の継続
寛仁氏の父親であり、初代・満之の後を継いだ二代目会長・儀助の急逝は突然のことだった。
「家庭では会社の話をほとんど聞いたことがなく、理念を直接教わる機会はありませんでした。それでも、自然治癒力を高めるという考え方には、何の違和感もなく共感できたのです」。
寛仁氏は、受け継いだ理念を軸に、変えるべきことと守るべきことを見極めてきた。例えば、顧客と直接つながる「メンバーズカード」の導入はIT技術を活用した新たな試みだが、研究や販売の根幹は揺るがせにしていない。
研究の深化と新たな知見
湧永製薬の研究は「創薬」「診断薬」「ヘルスケア」の三本柱から成り立つ。その中核にあるのが熟成ニンニク抽出液の研究だ。
基礎実験や臨床研究を通じて、健康維持に関する多角的な知見が蓄積されてきた。国内外での学術発表も1000件以上重ねられており、熟成ニンニク抽出液の研究は新たな科学的エビデンスの獲得へと歩みを進めている。
「単に“元気になる”という感覚的な表現ではなく、科学的根拠を示すことができれば、世界中で大きなインパクトをもたらすはずです」。
グローバル展開と地域医療貢献
「医薬品に国境はない」という創業者の信念のもと、1972年に米国法人を設立。現在は世界60か国以上に販売網を広げ、海外では「Kyolic」(キョーリック)ブランドとして展開している。成功の鍵は、理念と研究姿勢に共感する現地ディストリビューターとの協業にある。
「価格や条件ではなく、エビデンスを重視し、ユーザーに正しく価値を伝えてくれるパートナーと二人三脚で進めることが重要です」。
同時に、国内では薬局や薬剤師と連携し、地域住民の健康を支える取り組みを続けている。日本専門薬局同志会との協働による月例の勉強会やゼミを通じ、生活習慣改善を含む幅広いカウンセリングを重視する姿勢は、地域包括ケアの担い手としての薬局の役割を後押ししている。
進化する構想──未来への挑戦
寛仁氏が描く未来像は明確だ。
第一に、熟成ニンニク抽出液の研究を深化させ、自然治癒力の解明に世界規模で貢献すること。現在審査中の重要な研究論文が発表されれば、同社の業績にも大きな変化をもたらすという期待も込められている。
第二に、難病領域の治療薬研究を推進し、治療法が確立されていない疾患に挑むこと。
「すべての人が“元気で長生き”できる社会を実現したい。そのために研究投資を惜しまず、一つでも多くの病気の治療法を確立したいと考えています」。
信じて深めることで新しいものが生まれる──「信深之新」という言葉に象徴される湧永製薬の姿勢は、創業70年を超えてなお、進化を続けている。
