オーバルが描く“流体計測の未来”──技術と信頼を礎に次の成長へ

1949年の創業以来、流体計測技術を軸に日本の産業インフラを支えてきた株式会社オーバル。流量計の専業メーカーとして、「正しくはかる」ことを社会価値に変え続けている。創業者・加島淳氏のベンチャー精神を受け継ぎながら、DX、脱炭素、人材育成といった新たなテーマに挑む谷本淳社長に、同社が描く次の成長構想を聞いた。
創業の原点──楕円歯車の発想転換から始まった挑戦
オーバルの始まりは、創業者・加島淳氏が独自の「オーバル歯車」を流量計に応用したことにある。
戦後間もない時期、動力機械の部品として研究されていた楕円歯車を、流体をはかる計測機器へと転用した。この“発想の転換”が、同社のものづくりの原点となった。
「創業者は非常にベンチャー精神の強い人物でした。楕円歯車を使って流量をはかるというアイデアが、現在のオーバルをつくった」と谷本氏は語る。
高度経済成長期には、石油・化学プラントの拡大とともに事業が拡大。営業担当者が「煙突のある工場を回れば仕事が取れる」と言われた時代、設備投資の波と歩調を合わせながら成長を遂げた。
事業承継と上場──安定から挑戦へ
谷本氏が経営を引き継いだのは、企業として安定期にある時期だった。
「当社の市場は非常にニッチで、高価格帯。市場規模の限界を感じていました」と振り返る。
社長就任後、最初の大きな挑戦が、東証二部から一部(現プライム市場)への指定替えだった。
「当時は予算管理や子会社管理など、上場企業としての体制が十分ではありませんでした。上場審査の過程で、ガバナンスや経営基盤を整えることができたのは大きな成果でした」。
一部上場を機に、同社は経営体制の透明化と財務体質の強化を進めた。株主との対話を意識した経営への転換が、次の成長の基礎となっている。
流量計測の総合力──「はかる」を超えて支える技術
流量計測の専業メーカーとして、オーバルは業界内でも独自の地位を確立している。
液体・気体・蒸気など多様な流体に対応し、測定原理ごとに6種類、製品ラインナップは40種以上。高精度計測が求められる石油・化学・発電・食品などの現場で採用されている。
とりわけ強みとなるのが、計量法に基づく JCSS(Japan Calibration Service System:計量法校正事業者登録制度)の認定を受けた校正技術だ。
「水・気体・石油の3区分すべてで認証を取得しています。自社製品に限らず、他社製品の校正も手掛けられるのは大きな強みです」と谷本氏は語る。
また、流量計を中核に、バッチコントロールや充填・検査などを組み合わせたシステム構築、全国をカバーするサービスネットワークも展開している。製品販売だけでなく、計測のライフサイクル全体を支える「総合力」が、同社の競争力を支えている。
DXとグローバル戦略──「アジアNo.1」を目指して
営業や業務のデジタル化にも積極的に取り組む。
長年、営業情報が個人の経験に依存していたが、SFA導入を機に情報共有と分析の仕組みを整備。経済産業省のDX認定事業者としても登録された。
「デジタル化は手段に過ぎません。情報を見える化し、顧客との関係をより強くすることが目的です」と谷本氏は強調する。
海外展開では、アジア市場を重点領域と位置づける。
「海外売上比率は2割前後。これまでは欧米を含め広く展開してきましたが、今後はアジアに特化して“地域No.1”を目指します」。
現地規格や防爆認証など国ごとの要件が異なるため、展開には時間を要するが、同社は各地でのサービス拠点整備を進めている。長期的なメンテナンス・保守を含めた“信頼関係型ビジネス”の構築が鍵だという。
「Imagination 2028」──構造改革から成長ステージへ
現在推進中の中期経営計画「Imagination 2028」では、売上高170億円を目指す。
「構造改革を終え、今は成長期に入りました。半導体や二次電池、水素、アンモニアといった新分野に積極的に取り組んでいます」。
近年は、半導体製造装置やリチウムイオン電池製造ラインでの需要拡大が追い風となった。
「半導体市場の成長に加え、脱炭素の流れで電池や水素関連の需要が増えています。流量計はこれらのプロセスに欠かせません」。
また、株主還元の方針を明確化し、総還元性向70%以上(中期経営計画期間3年間平均)、DOE2.7%以上という指標を掲げた。
「企業価値を高めるには、投資家や株主の期待に応える経営が必要です。中期計画では還元策を前面に出しました」と語る。
新事業への展開──技術を横展開し、新たな価値を生む
同社では社内ベンチャー制度を活用し、新たな事業も生まれている。
その一つが、経済産業省が推進する化学物質情報伝達スキーム“chemSHERPA(ケムシェルパ)”に対応したサービス提供事業だ。
「自社での対応経験を他社にも生かせると考え、サービス提供型の新事業として立ち上げました」。
また、無線技術を応用した製品「Lock’n Lorry®(ロックンローリー)」は、食品輸送用ローリー車の封印をスマホで管理する仕組み。
「安全性の確保だけでなく、ドライバーの負担軽減やプラスチック廃棄物削減にもつながります」。
いずれも流量計そのものではないが、同社が培ってきたセンシング技術や生産ノウハウを応用した取り組みだ。
「既存技術でも、視点を変えれば新しい価値を生み出せる。それが当社の成長の源泉です」と谷本氏は話す。
人材と文化──ボトムアップの風土が次の挑戦を生む
「当社は技術者集団でありながら、家族的で風通しの良い組織です」と谷本氏。
週報やミーティングを通じて情報共有が活発に行われ、現場からの意見が経営層にも届く。ボトムアップの風土が新しい発想を生む。
一方で、人材採用は業界特性ゆえの課題もある。
「BtoBの工業製品は学生にとってなじみが薄い。だからこそ、キャラクター『おーちゃん』『ばるちゃん』やスポーツ支援など、親しみを持ってもらう取り組みを強化しています」。
クロスカントリースキーの宮崎日香里選手のサポートもその一つ。地球温暖化対策に取り組む姿勢に共感し、同社としても環境と人の挑戦を応援している。
未来への構想──“はかる”から“活かす”へ
谷本氏が見据えるのは、計測を“価値創出の起点”とする未来だ。
「AIやDXが進んでも、正しいデータがなければ何も始まりません。流量計測の精度と信頼性こそが、社会インフラの基盤になります」。
水素やアンモニアといった新エネルギー分野、さらにはスマートファクトリーの自動制御まで──その先に広がるのは「はかる」だけでなく「活かす」世界である。
「センシングの領域は決してなくならない。これからは、計測の価値を“流れに付加価値を与える”ものとして社会に広げていきたい」と語る。
創業者が遺したベンチャー精神を胸に、成熟企業の挑戦は続く。
オーバルの挑戦は、計測の未来とともに新たな社会基盤を形づくっていく。