転出者と「ふるさと」を繋ぐ 関係人口創出サービス「FAVTOWN」

クラウド型CRM(顧客関係管理)を手掛けるシナジーマーケティングは、地域創生を目指して関係人口創出のコミュニケーションサービス「FAVTOWN(ファボタウン)」を開始した。開発を手掛けた平手和徳氏(事業構想士)に、事業構想の経緯や大学院での研究について聞いた。

平手 和徳 シナジーマーケティング ビジネスクリエーション部
部長、FAVTOWNプロダクトオーナー、
事業構想大学院大学大阪校4期生(2022年度修了)

「転出者」をターゲットに
地域の関係人口を創出

進学や就職を機に地元を離れても、お気に入りのまち(Favorite Town)とつながり続けてほしい――。そんな地域の思いを具現化したのが、関係人口創出の無料コミュニケーションサービス「FAVTOWN」だ。高校卒業時に会員登録をすると、進学・成人・就職のタイミングに合わせて、特産品が届く「ふるさと便」のほか、まちの最新情報、はたちのつどい(成人式)や同窓会の案内、地元の店舗で使えるクーポンを配信。会員同士が気軽につながれる仕組みも備えていく。第一弾として和歌山市でのサービス実証を2023年2月にスタートした。

関係人口創出のコミュニケーションサービス「FAVTOWN」

進学・成人・就職のタイミングに合わせて特産品が届く「ふるさと便」

「FAVTOWNの目的は、地域の出身者を、地域を支える原動力にすることにあります。転出者との関係をつなぎ、地元をもっと好きになってもらい、最終的には地元を応援してくれる関係性を構築していきます」とサービスを開発したシナジーマーケティングの平手和徳氏は話す。

平手氏は通信系営業会社を経て、2010年にクラウド型CRMを手掛けるシナジーマーケティングに入社。クライアント企業へのCRM導入ディレクターやYahoo! JAPAN との新規事業開発を担当したのち、2020年にビジネスクリエーション部の部長に就任した。

「新規事業開発の責任者になったことで、事業立ち上げの難しさを改めて実感し、事業構想の手法を体系的に学びたいと考えていた時に、事業構想大学院大学の存在を知りました。新規事業開発では外部と連携して、新たな価値を創出することが重要となりますが、コロナ禍で外との接触機会が減ったのを機に、大学院で同じ志を持つ人とつながりたいと思ったことも入学の決め手になりました」

多彩な教授陣や仲間との交流で
事業アイデアに磨きをかける

2021年度に事業構想大学院大学に入学した平手氏は、実務家教員として新規事業開発の豊富な経験と実績を持つ小宮信彦特任教授と早川典重特任教授のゼミに所属した。二人の教授との出会いが、平手氏の意識を大きく変革させたという。

「会社の既存アセットを起点にする発想からどうしても抜け出せずにいたところ、主ゼミの小宮先生からは『どんな世の中を作りたいのかを自らに問いかけ、事業コンセプトを磨き上げることが重要だ。良き事業コンセプトが、良き仲間を集める。』との助言をいただきました。また、当初は自前主義が前提で、何でも自社で完結しようと考えていたのですが、副ゼミの早川先生から『仮に利益が半分に減ったとしても協力者を集めて大きく広げていくことが、社会に根付く事業に育てる鍵になる』と言われたことも印象に残っています。そのおかげで、和歌山市での実証事業ではたくさんの方のご協力を集めることができました」

同期たちも大切な財産になったと平手氏は話す。

「起業家や経営者、医師、学校の校長、市議会議員など、異業種交流会に行ってもなかなか出会うことができないような人が多かったですね。多様性溢れる同期たちと語り合うことで大いに刺激されましたし、事業アイデアのブラッシュアップにも役立ちました」

転出者に着目した、過去に類を見ない新サービスのアイデアは在学中に生まれた。

「同期の和歌山市議会議員の紹介で和歌山市のワークショップに参加した際、県内には大学の数が少ないため、高校卒業後に地元を離れる学生が多いと知ったことが着想のきっかけです。問題は地域を離れることよりも、離れた後に地元と縁が切れてしまうことだと捉え、当社が20年以上にわたって培ってきたCRMやファンマーケティングの知見を活かし、観光や転入促進といった外から呼び込む戦略だけではなく、転出者とつながり続ける戦略で関係人口創出に貢献しようと考えたのです。また、外出自粛期間中、帰省できない出身者に地元の特産品を送る取り組みをしている自治体の存在を知ったことが『ふるさと便』のアイデアにつながりました」

在学中の2022年2月、和歌山市に最初の提案をし、10月には和歌山市とシナジーマーケティングの間で連携協定を締結。そして2023年2月15日、FAVTOWN第一号として「FAVTOWN wakayama」をリリースした。

他地域にも横展開し
全国の関係人口創出に貢献

リリースから2ヶ月を経て、登録者数は約1300人を越え、FAVTOWNの想いに共感し、活動をサポートする応援パートナーは50団体以上に拡大した。順調な滑り出しを見せるFAVTOWNだが、平手氏は今後の課題をこう口にする。

「現状はふるさと便が登録のフックになっているので、出身者と地域の企業・行政などが『地元が好き』という共通項で、より強くつながるためのサービスの拡充が急務だと認識しています。また、ふるさと納税のあるべき姿として、地元にふるさと納税をすることが当たり前になるような流れも作り出したいと思っています」

最終的な目標については「Uターンという選択肢を、もっと身近にいつでも選べる状態にしたい」と平手氏は力を込める。

「魅力的な企業の存在を知らないまま転出される方が多いので、FAVTOWNがそうした企業を知るきっかけになれば。地元就職を希望する学生は一定程度増えてきているにもかかわらず、採用に苦戦する地域企業が多いのが現状なので、そのギャップを埋めるリクルーティングサービスも構想しているところです。まずは和歌山市からスタートしたサービスですが、同様の課題を抱える全国の自治体に横展開していく考えです」

FAVTOWN はシナジーマーケティングの地域創生事業「re:connect(リコネクト)」の一環でもあり、平手氏の考えはCRMを活かした地域創生に注力するシナジーマーケティングの方向性とも一致するという。

「今後はFAVTOWNにとどまらず、観光客やふるさと納税者に特化したCRMソリューションなども提供し、地域貢献ビジネスをより拡張させていきたいですね」と平手氏は笑顔で語った。