大和ハウス工業と奈良市 奈良市を舞台に真の共創を実装

2023年6月23日、奈良市、大和ハウス工業、事業構想大は共同で、「奈良市みらい価値共創プロジェクト研究」を開講した。地域課題を解決する人材の育成と新規事業創出を目指す同プロジェクト。開講の背景や取組について、奈良市長・仲川げん氏と大和ハウス工業常務執行役員・石﨑順子氏が対談する。

奈良市長の仲川 げん氏と、大和ハウス工業常務執行役員の石﨑 順子氏

共創が必要とされる日本

── 2025年に開催される大阪・関西万博のコンセプトに「共創」があります。奈良市、大和ハウス工業ともに共創についてのお考えをお聞かせ下さい。

仲川 ここ20年ほど、共創(co-creation)や協同(co-operation)など、「co」のつく言葉が重視されるようになりました。人口と資源の限られている国が何かしようと思えば、個々が1つの器に収まっていたのでは回らない。マルチタスクなり、A面B面なりで、クリエイティビティを活かして1人が1人以上の価値を発揮する必要があります。現在の日本は、特に「co」の部分を必要としている国であるといえます。共創という言葉の重みを改めて感じています。

奈良市役所ではいま、2500人の職員が500人になった未来を想像した上で、どうオペレーションを見直す必要があるかを職員に問いかけています。 日本は真面目で勤勉、労働時間が長いと言われてきました。しかし、量で勝負する時代ではもうない。質的な転換が問われています。当然、賃金も上げていく必要がありますし、誰もが自分たちの専門、業界、職制に閉じこもるのではなく、周りと認識や課題、ノウハウを共有し、個性を発揮しながら効率の高い仕事をしていく必要があると考えています。

石﨑 大和ハウス工業は、100周年を迎える2055年に向け、「生きる歓びを分かち合える世界の実現に向けて、再生と循環の社会インフラと生活文化を創造する。」という将来の夢(パーパス)を新たに策定し、全ての事業活動を展開しています。

住宅事業から物流施設やデータセンターなどの事業施設建設、太陽光発電、海外展開と様々な事業を展開していますが、2055年へ向けてはさらなる新事業も必要であり、また今ある事業のかたちを変えていく必要もあります。大和ハウスグループだけではどうにもならない世の中がやってくると思いますので、他企業や行政、海外企業等も含め、いかに連携しながら一緒に課題を解決していくかが、非常に大事だと思っています。

共創を通じて地域課題を解決

── 2023年から開講している「奈良市みらい価値共創プロジェクト研究」についてお聞かせください。

仲川 大阪・関西万博のコンセプトである「未来社会を『共創』」を踏まえ、地域課題を共創により解決する人材を育成する事業です。

事業構想を計画する能力を共創を通じて培うため、地域の今後を担う若手人材を多様な主体(民間企業、NPO法人等の各種団体、個人事業主、自治体職員)から募集。新規事業開発に特化した事業構想大学院のカリキュラムのエッセンスを活用し、テーマに基づき参加者の新たな事業構想と構想計画構築を行う9カ月間・20回開催の研究会となっています。

2023度は第1期生として社会人・学生など22名が参加しています。万博が開催される2025年までの3年間にわたり継続し、卒業生等から成る『奈良共創チーム(仮)』を構築し、地域課題解決を目指していきます。

石﨑 共に創る「共創」と言うのは簡単ですが、実際に成果を出せているケースは少ないかと思います。

本プロジェクト研究でかたちを作り上げ、共創プログラムの成功モデルとして全国各地域ごとにアレンジしながら横展開できればいいのではないかと考えています。

── 大和ハウス工業と奈良市との関わり、同事業における役割は?

石﨑 奈良は、当社の創業者である石橋信夫ゆかりの地です。今回のプロジェクト研究では、企業版ふるさと納税を活用し、奈良市へ研究会開催の財源を寄付するとともに、研修施設「大和ハウスグループ みらい価値共創センター(コトクリエ)」を会場として提供しています。

大和ハウスの研修施設「コトクリエ」

「コトクリエ」は、あらゆる世代が共に学び、考え、成長する場として2021年10月に開所した研修施設です。「何をすれば儲かるかではなく、世の中のためになるからやる」という創業者精神を体現する人財育成のための施設として、地域住民の皆様やさまざまなステークホルダーと新しい価値を創出していくことを目指しています。

仲川 奈良市には歴史的にフロンティアスピリットというか、0からコトを起こす土地の力、場の力があると思います。大和ハウス工業が、奈良市にコトクリエのような新しい切り口での人材育成の拠点を作ってくださったというのは、非常に画期的なことだと思っています。

オール奈良をプロデュース

── 奈良市としての、企業との共創への期待感をお話しください。

仲川 コンパクトなまちでありながら、いざという時に一枚岩になれないことが奈良の弱みです。奈良市役所としては、1つの行政組織としての守備範囲を考えるのではなく、民間セクターも市民セクターも地縁団体も全部含めて、「オール奈良株式会社」のようなつながりをマネジメント、プロデュースしていく必要があります。そういう意味で、企業は重要なパートナーだと思っています。企業の持つノウハウ、先進性が、まちに住む方にどうプラスに働くかが大事で、事業セクターとの連携の必要性は、今後ますます高まっていくかと思います。

奈良市では移住×起業プロジェクト「ならわい」を進めています。奈良に移住して起業したいという人材が、地元企業にインターンシップで入り、新規事業を立ち上げるプロジェクトです。

人も予算も限られているなかで、課題解決へ向けたDOをいかに増やしていくか。日々、事業に向き合う究極のプレイヤーである企業の力を借り、相乗効果を求めていくことが、極めて重要なアプローチだと考えています。

石﨑 ビジネスの観点からは、何か1つのビジネスモデルが量で一気に展開できる時代ではなくなってきています。課題が複雑化、個別化するなかで、一社でできることは限られています。社外の多様なステークホルダーとの繋がりなくして新しいビジネスは展開できないと思っています。そういう意味で、当社にとって共創は、今後ますます重要になっていくかと思います。

仲川 共創という言葉を、上辺だけでなく、いかに実装していくかが大事だと思います。行政は、共創の軸、基礎になれる立ち位置にいます。市民の生活の隅々にまで関わる仕事をする行政として、企業やスタートアップと組むことで、最も現場に近い、ビビットな社会課題をテーブルにのせていく。そういった役割を果たしていきたい。そういう意味で、今回の「奈良市みらい価値共創プロジェクト研究」は、非常に意味のある事業です。未来社会の実験場、社会課題解決の加速という意味では、この事業こそ、万博と言えるかもしれません。

※2024年4月より奈良市みらい価値共創プロジェクト研究の2期生を募集予定(奈良市議会での予算案の議決が条件)。詳細は事業構想大学院大学のホームページにて掲載予定。