蓄光機能搭載のLED照明を開発 波長で社会貢献するメーカーに
FKKは、電力供給が遮断されても暗闇の中でも明るく発光する、蓄光機能を搭載したLEDライン照明を開発。防災や発明に関する表彰を相次いで受賞している。避難誘導など防災・減災用途だけでなく、住宅の防犯用途などにも展開し、LED照明の可能性を広げていく。
京都市に本社を置き、LEDライン照明メーカーとしてLED基板実装から、モジュール製品、照明器具完成品までを一貫して手掛けるFKK。同社が2020年1月に発売した「蓄光機能搭載LEDフレキシブルライト」は、照明本体のシリコーン製チューブに蓄光顔料を練り込み、電力供給が遮断されても暗闇の中でも明るく発光する、非常にユニークなライン照明だ。本製品は今年、公益社団法人発明協会の「令和3年度近畿地方発明表彰」で近畿経済産業局長賞に輝き、一般社団法人防災安全協会の「防災防疫製品大賞2021」でも特別賞(防災安全協会賞)を受賞。防災用途を中心に大きな注目を集めている。
FKK代表取締役社長の川田一力氏は、2016年に父から社長を承継(代表権は2019年より)。「弊社は1954年創業で、当初から手掛けていた点火プラグ・点火ヒーターに続いて、1998年から照明応用製品事業(現LED事業)を開始しました。現在は商業施設やホテルを主な対象に、意匠性・デザイン性の高いLED照明機器を提供しています」
経営は安定していたが、川田氏は「会社の将来を見据えると、新たな市場の開拓や、意匠・デザイン以外での製品の差別化が必要でした。また、承継者として新しいことにチャレンジしたいという気持ちや焦りもありました」と振り返る。こうした想いを胸に、2019年4月に事業構想大学院大学大阪校に入学する。
停電時でも役立つ照明を
防災のほか防犯・防疫にも展開へ
「蓄光機能搭載LEDフレキシブルライト」は入学時点ではすでに特許取得や商品化のメドが立っている状態だったが、用途開発は道半ばだった。入学後川田氏は、防災・減災を中心に住宅防犯や防疫など、照明の持つ“照らす”こと以外の幅広い可能性を検討していく。
そもそも本製品は2018年7月の西日本豪雨が開発のきっかけだという。「私の故郷である岡山県総社市下原も被害を受け、地元住民から夜間災害や停電の恐ろしさを聞きました。照明は電気が止まると何の力も持てません。そこに問題意識を持ちました」
既存の蓄光塗料や蓄光テープは電源を必要とせず施工性は高いが、蓄光(燐光)輝度が設置環境に左右され、期待する輝度を得られなかったり、輝度がばらつく点に課題があった。照明本体に蓄光顔料を練り込めば、確実に蓄光し、あらゆる設置環境でも設計された燐光性能を発揮できると考えた。
開発チームを率いた常務取締役技術開発本部長の吉田和貴氏は、「川田から『蓄光し停電しても光る照明をすぐに開発したい。思いつきで、営業先に開発中と伝えてしまった』と電話を受けました。急遽100円ショップで蓄光顔料を買い込み、3日でサンプルを仕上げました」と笑いながら振り返る。
試作を繰り返し、蓄光性能を高めた結果、60秒LEDを点灯すれば、消灯後10時間経過後も蓄光部が視認できる輝度(3mcd/m2以上)を持続させることに成功した。「国内工場を持つ強みを活かして試作・検証をスピーディーに進められました。今回の防災防疫製品大賞の受賞は、全社一丸となったチャレンジの成果です」と川田氏は胸を張る。
防災・減災用途では、複数の自治体での試験導入が始まった。災害時の避難場所にも使われる自治体公共施設で、市民の安心・安全確保を目的としたものだという。このほか全国の事業者を通じて、試験導入が進んでいる。
また、住宅分野では住宅内の防災用途だけでなく、防犯用途にも展開を目指している。「ホームセキュリティとは異なる発想で、照明や蓄光で住宅外壁等を照らすことで侵入抑止を実現できないかと考えています」。2020年9月には『FKKルミナスギャラリー』を京都府福知山市に竣工。カタログや写真ではわかりづらい蓄光性能やその他照明機器を実際のモデルハウス内で体感できるほか、防犯用途の検証も進めていく。住宅メーカーや住宅設備メーカーの蓄光LEDへの関心は高く、ルミナスギャラリーは工場が近隣にあり、モノづくり工場見学も同時に行える事が、製品への信頼性にもつながっているという。
“波長”で社会に貢献する会社に
事業構想大学院大学での学びについて、川田氏は次のように語る。
「幅広い分野の教授やゲスト講師から知識を得られたことはもちろんですが、一番心に響いたのは『事業を何のために行うのか、なぜあなたが行うのか』と問われ続けたことです。私自身、小さい頃から次期社長と期待されていましたが、承継への抵抗はありましたし、理由を見つけきれていない面もありました。自分自身を見つめ直し、『社会に資する覚悟がなければ、経営を引き受けてはならない』と考えられるようになりました。
また、同期たちは業界も年齢も様々で、教授や講師の言葉を鵜呑みにしない人ばかりで、多彩な視点は非常に勉強になりました。研究論文の作成は、専門家教授陣の指導・牽引と、同期とのセッションがなければ不可能でした。40代でこの経験ができたことは、今後の社会人、経営者としての礎になると信じています」
川田氏はFKKの未来像について、「照明だけに固執せず、“波長”で社会に貢献できるメーカーになりたい」と話す。「例えば、コロナ禍の中で防疫に社会の注目が集まりましたが、弊社では光触媒と紫外線LEDを組み合わせた除菌・防疫照明の製品化に取り組んでいます。また、紫外線LEDを活用し、独自の波長で害虫駆除(誘引)灯の検証も進めています。このようにLEDの波長を活用した新ビジネスを模索していきたいと考えています」
LEDの製造は海外移転が進んでいるが、FKKは国内生産を貫いている。「国内生産の強みとは、製品の信頼だけでなく、デリバリー供給に責任が持てること。国内でものづくりを維持していきたい。そして、次の世代へと会社を繋げていきたいと思っています」と川田氏は語った。