地域の産業を持続可能に、AIがつなぐ技能と知識の伝承

AIで伝統技能を次世代に引き継ぐ取り組みが始動している。卓越した技があるにもかかわらず、少子高齢化で産業の継承が難しくなっている地域は多い。言葉を鍵にノーコード型AIで熟達者の思考を汎用化する技術を用いて、この課題に挑戦するLIGHTz代表取締役社長の乙部氏に話を聞いた。

技術継承を補完する、
「小さなAI」

伝統工芸の技をAIを用いて継承し、地域創生につなげる取り組みがスタートしている。手がけるのは、筑波研究学園都市内に本社を置くLIGHTz(ライツ)だ。「私たちが提供するのは、熟達者のものづくりの思考を引き出し、わかりやすい形に変換して次世代に伝える仕組みです」と代表取締役社長の乙部信吾氏は話す。

乙部 信吾 LIGHTz 代表取締役社長

キヤノンの技術者としてキャリアをスタートさせた乙部氏。その後、製造業向けの技術コンサルティングを行うO2(オーツー)社で技術継承の分野に携わる。現場のスペシャリストにヒアリングし、その思考を体系化されたマニュアルなどに落とし込んでいたが、書き起こされた思考をAIという動的なエンジンに代替し、汎用性を高めることを構想。2016年に社内ベンチャーとしてLIGHTzを起業した。

目指したのは、各地の現場を支えるスペシャリストが考えていることを、同僚や後進に伝える手助けとなる、分散型の「小さなAI」。

「熟達者の思考をAIに落とし込むことで、時代と場所を越え、他の人がその技術と出会い対話をする。個人から個人へ小さく届くような仕組みを考えました」

こうして開発された〈ブレインモデル〉は、スペシャリストの言葉を軸とするのが特徴だ。ビデオ分析や視線を追うアイトラッキングなど、身体の動きから知見を読み取り活用するAIは数多くある。しかし、ブレインモデルのような思考そのものを知見として取り出し、言葉とそれを取り巻くニュアンスをネットワークとして可視化する仕組みは今までにはなかったものだ。

例えば熟達者に質問を投げかけると、思わぬ視点から回答が返ってくることがある。これは熟達者が、問いの内容から質問者の理解度やつまずいている箇所まで推測できるためだ。同社では、ブレインモデルを埋め込んだ〈ORGENIUS(オルジニアス)〉という独自のAIで、熟達者の思考を再現。若手に気づきを与え、成長を促すことを可能とした。

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