地域社会で重要性を増す金融新技術 SBI金融経済研究所

SBI金融経済研究所は、FinTechやブロックチェーン技術を活用した新しい金融商品・サービスの動向等の調査研究に取り組んでいる。一見、埒外にも思える地域社会、コミュニティに対してこれらの新技術が与える影響も、今後、注目すべき点だという。一体どういうことだろうか。

ビットコインの技術を活用した
地域活性化の取組み

北海道上士幌町、同余市町、岩手県紫波町、茨城県桜川市、大阪府泉佐野市、兵庫県加西市──今年度に入り、地方自治体でNFT(エヌ・エフ・ティー)を活用した地域活性化の取組みが増えている。

図表 NFTを活用した地方自治体の地域活性化の取組み(2022年)

出典:公表資料等を基に執筆者が作成

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、暗号資産(仮想通貨)のビットコインの技術、すなわちブロックチェーン技術を活用した仕組みだ。この仕組みを使うことで、従来は困難とされてきたデジタルデータの販売などが可能になると言われている。

上述の各自治体は、地域の名産品や特徴的な景色・施設等を個性的なキャラクターと組み合わせたデジタル画像(デジタルアート)や、地域で開催されたイベントの動画を、NFTの仕組みを用いてふるさと納税の返礼品とし、寄付金を募っている。地域の認知度やイメージの向上、「ファン」の形成などの狙いもあるようだ。

新潟県長岡市の山古志地域(旧山古志村)の取組みは一層本格的なものだ。2004年の新潟県中越地震で甚大な被害を受け、2005年に長岡市と合併した同地域の現在の人口は約800人、65歳以上の高齢化率は55%を超えているという。地域の「消滅の危機」(山古志住民会議プレスリリースより)に対し、地域住民等が自ら「山古志住民会議」を立ち上げ、長岡市公認のプロジェクトとして、地域の存続・復興をかけた様々な活動に取り組んでいる。

山古志住民会議は同地域発祥の錦鯉をシンボルとしたデジタルアートをNFTにし、2021年12月と2022年3月に世界に向けて販売した。同NFT公式サイトでは、山古志地域の紹介、同プロジェクトの背景・趣旨などを英文で発信し、人々に理解・共感を訴えている。同NFTは、地域復興の取組み等に必要な資金(寄付金)の調達手段としてだけでなく、山古志への共感者、仲間の証(「電子住民票」)とも位置づけられている。また、同NFT保有者を対象に、専用のコミュニティチャットを通じた復興・活性化プランの提案の募集や、デジタル投票による、それらのプランの採否決定なども行われている。

NFTの留意点・課題

ブロックチェーン技術は、暗号技術を活用しつつ、コンピューターやインターネットを介してやりとりされるデータを、いつでも誰でもみることができるデータベースに記録する──言い換えれば、衆人環視の下で記録する──こと等により、不正なデータの記録や過去の記録の改ざんを防ぐものだ。ビットコインなどでは、こうした仕組みを用いることで、個々のビットコインの「持ち主」が誰であるかを、不正や改ざんのない、「正しい」記録として確定させる。

元来、デジタルデータで作成した画像・動画・音楽などは容易にコピーできるため、そうした複製が難しいリアルの美術品等と異なって、「本物」あるいは「一品もの」として販売することは難しい。NFTは、ブロックチェーン技術によってデータベース上で確定した「(ただ一人の)持ち主」と、デジタルアートなどのデータを紐付けることで、「デジタルアートなどを『唯一無二のもの』として販売することができる」と言われている。

しかし、紐付けられるデジタルアートなどのデータは、通常は、ブロックチェーン技術によるデータベースとは別のデータベースに管理されている。このため、不正や改ざんを回避するブロックチェーン技術の効果は、デジタルアートなどのデータには及ばず、コピーや改ざんのリスクが残っているのが実状だ。従って、NFTの発行者や購入者等がデジタルアートなどのデータをしっかり管理する必要がある(ただし、上述の各自治体の取組みでこうした問題が生じたとは聞いていない)。地域活性化の取組みへの活用も含め、NFTの取引や市場を健全に育成していくためには、こうした留意点や課題に適切に対処していくことが必要だ。

一段と重要性を増す金融経済教育

欧米の中央銀行のアンケート調査(2021年実施)や日本の金融広報中央委員会のアンケート調査(2019年実施)によると、ビットコインなどの暗号資産に投資したことのある人の割合は全体の1割前後だ。いずれも20歳代や30歳代が占める割合が多いとの結果になっており、これらの年代層における投資経験者の割合は1割前後よりは高い水準にあるとみられる。また、日本の調査では、投資経験のある人の約4割が暗号資産についての理解不足を自覚している(ちなみに、SBI金融経済研究所も今年度にアンケート調査を行っており、遠からず調査結果を公表する方針だ)。

株式や社債等に投資する場合、それらを発行する会社の業況や財務状況、それらの金融商品や取引の仕組みをよく理解することが重要だ。同様に、暗号資産についても、その仕組みやそれを発行するプロジェクトの内容を十分に確認する必要がある。

また、暗号資産の市場価格は株式などよりも大きく変動することが多い。ビットコインの市場価格は2021年11月の過去最高値(700万円強)から、本稿執筆時点(2022年10月)では半値以下の水準にまで下落している。昨年来の米国をはじめとする海外諸国の金利引き上げが影響を及ぼしているが、その背景にある世界経済の動向も含めて、金融経済の知識が必要とされている。今年度から高校の学習指導要領でも金融教育の重要性が謳われているが、暗号資産やFinTechなどの新しい金融商品・サービスも視野に入れてリテラシー向上を図ることが重要だ。

私どものSBI金融経済研究所では、暗号資産やFinTechなどの新しい技術を使った金融商品・サービス等について、①国内外の動向を丁寧に調査すること、②多くの学者や実務家の方々と連携させて頂きながら、それらの可能性や課題を明らかにし、広く世の中に発信していくこと、③そうした課題の解決策の検討・提言などにも取り組んでいくこと等により、それらの取引や市場の健全な発展に貢献していきたいと考えている。

また、本稿で述べたとおり、こうした新しい技術の活用は、今後、地域の経済・社会にも相応に影響を及ぼす可能性がある。地域社会、コミュニティにおけるそうした動きも丹念にフォローし、有益な情報発信を行っていきたい。

 

杉浦 俊彦(すぎうら・としひこ)
SBI金融経済研究所 研究主幹

 

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