属人的な広報から脱却し、組織全体を底上げする教育投資

世界各地に展開する食品企業、味の素。同社の広報部門の大きな特徴は、社内の多様な部署から人材が集まってくる点にあり、配属される人は企業コミュニケーションの専門人材とは限らない。執行理事 グローバルコミュニケーション部長小笠原和子氏は、部下の石川有紀子氏の「広報を理論として学びたい」という申し出を受け、会社としてサポートする価値を見出したと振り返る。

多様な人材が集まる広報組織
理系出身者の自発的な挑戦

当社の広報部門の大きな特徴は、ジョブローテーションによって社内の多様な部署から人材が集まってくる点にあります。多様な視点が交わることは組織の強みですが、広報という専門領域において、体系的な知識や理論を共通言語として持っている人材は決して多くありません。現場の「経験と勘」という属人的なスキルに頼る部分も多く、組織全体の広報に関する専門性をいかに底上げし、標準化していくか、組織長として課題を感じていました。

そんな中、私自身がまず社会構想大学院大学に通ってみて、学ぶことの楽しさ、実務に必要な理論を学び、このプログラムが部員の育成に有効であると考えました。当時の上司にかけあい、会社として学費の一部をサポートしてくれるよう、交渉しました。なぜなら、人事部から提供されるプログラムだけでは、広報の専門人財は育たないので、これは組織のための投資だと考えたからです。

さらにその後、自分と同様に技術系のバックグラウンドの石川から、「広報を今後の自分のキャリアの軸とするために、実務の経験だけでなく理論をしっかりと学びたい」という申し出を受けました。

専門職としてのキャリアを真剣に見据え、自らアカデミアの門を叩こうとする彼女の熱意は本物でした。社内での実務経験だけでは到底得られない「社会構想の前提となる考え方」や「哲学的な理論」を学んで持ち帰ってくれることは、彼女個人の成長にとどまらず、多様な人材が集まる私たちの組織にとって非常に大きな価値がある。私自身が本学の修了生であり、学びとその還元の意義を実感してきたため、彼女の決断を全面的に後押しすることにしました。

味の素 グローバルコミュニケーション部 メディアグループ シニアマネージャーの石川有紀子氏。社会構想大学院大学の学位授与式で

学術的な裏付けがもたらした
「説得力」の向上と客観的な視座

彼女が大学院で学び始めてから、日々の業務におけるコミュニケーションの質が明確に変化していくのを実感しました。修了後の彼女に最も顕著に表れているのは、発言における「説得力」が非常に増したことです。

彼女はもともと仕事に対して積極的で、責任感の強い人材でしたが、以前は実務の現場で起きている事象に対するリアクションが中心でした。しかし、大学院で実務家教員や多様な同級生たちと議論を交わし、体系的な理論を修得したことで、物事を高い次元から俯瞰して捉える力が備わりました。

今では、日々の会議においても「この施策の背後にある学術的な根拠はこうです」「社会的な文脈から見ると、このような見方ができます」と、明確な裏付けを持って意見を提示してくれます。長年社内で広報に携わってきた人間が気付かないような客観的な視点から、ビシッと意見を言ってくれるため、上長としても非常に頼もしく感じています。単なる情報発信の担当者という枠組みを超え、強い責任感を持ってコミュニケーション戦略を牽引する。アカデミアでの学びは、彼女をさらに一回り大きなプロフェッショナルへと成長させてくれました。

「広報人材育成プログラム」の実装
後進に連鎖する学びの循環

この教育投資の成果は、彼女個人のスキルアップだけにとどまりません。私が今、最も価値を感じているのは、彼女の学びが「循環モデル」として組織全体へ波及し始めていることです。

彼女の大学院での研究テーマは「人材育成」でした。広報人材をどう育てていくかは、当部にとっても解決すべき課題です。彼女は現在、大学院での研究成果と持ち帰った体系的な知識をベースにして、「社内広報担当者の育成プログラム」の立ち上げを自ら牽引してくれています。自分が学んだ理論や知見を自分の中だけで完結させるのではなく、部内に発信し、後進を育成するための仕組みづくりに取り組んでくれているのです。

この動きは、組織に確実に良い連鎖を生み出しています。彼女が論理的に物事を進める姿に刺激を受け、実際に彼女に続いて部内の別のメンバーも新たに同大学院へ入学しました。一人の自発的な学びへの投資が、次世代の広報人材を育てるプログラムを生み、さらには新たな学び手を生むという「学びの連鎖」が起きているのです。ジョブローテーションで多様な人材が集まる当社の広報部門において、この循環モデルが定着すれば、組織全体の底上げに繋がります。大学院への派遣から、組織を強くする確かな投資対効果を得られたと実感しています。

客観的な視座を持つ石川氏と、その提案を信頼する小笠原氏。日々の対話から新たな「学びの連鎖」が生まれる。

 


人材開発支援助成金「人への投資促進コース」について」

企業(事業主)の学費負担で従業員を広報コミュニケーション研究科(2027年4月にコミュニケーションデザイン研究科から名称変更予定)に派遣いただく場合、厚生労働省「人材開発支援助成金:人への投資促進コース・成長分野等人材訓練」を活用すると、2年間の学費のうち最大約9割が助成されます。
※支給には条件がございます。 ※個人向けの助成制度は、教育訓練給付金が利用できます。 ※教育訓練給付金との併用はできません。
TEL:03-3207-0005   E-Mail:office@socialdesign.ac.jp

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