アフターコロナのDXに不可欠 「社内クリエイター」の育成

コロナによって様々な商取引が「対面からオンライン」へとシフトしているなか、「社内クリエイター」の役割が重要性を増している。彼らはこれまで独学でクリエイティブを習得するケースが多かったが、文部科学省の大学リカレント教育推進プログラムとして、いち早く実施された養成講座の例を紹介する。

事業構想大学院大学福岡校で実施された「社内クリエイター養成プログラム」の様子。対面とオンラインのハイブリッド講座で、全国から受講が可能

アフターコロナに必須の存在、「社内クリエイター」とは

「社内クリエイター」とは、企業内において、ホームページやSNSの日常的な更新、SNSに投稿する写真の撮影やアップロード、簡単なプレゼン動画の撮影や編集などに迅速に対応できる人材のことを指す。一般的企業では、ホームページのリニューアルやテレビコマーシャルの制作、商品カタログやパッケージのデザインなどを行う場合、予算を組んでWeb制作会社や広告代理店に発注(外注)し、Webデザイナー、CMプランナー、コピーライター、アートディレクターなどのクリエイターと呼ばれるプロフェッショナルがその制作を行う。

一方、社内では、そのようなプロに依頼するような本格的制作物ではなくても、日々対応が必要で煩雑なメディアなどの更新業務が発生している。広報部やマーケティング部、営業部、情報システム部など、業務を担当する部署は会社によって様々だが、多くの企業では「ITに詳しそうだから」「若手でセンスがありそうだから」などの理由で、「何となくできそう」な社員が指名され、担当することが多い。しかし、コロナ禍によって様々な商取引が「対面からオンライン」へとシフトしている今、社内クリエイターは多くの企業にとって、なくてはならない必須の存在となりつつある。企業は、その育成方法をしっかりと検討すべき段階にきていると言えるだろう。

文科省プログラムでも特に人気
社内クリエイター養成講座

文部科学省では、2021年度に「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」として、全国40以上の大学で63プログラムを実施しているが、事業構想大学院大学福岡校で実施された「社内クリエイター養成プログラム」は、その中で最も人気を博した講座の1つだ。プロのクリエイター育成で約70年の実績がある宣伝会議との連携で、2カ月間にわたってプログラムを実施。定員30名のところ、全国から2倍以上の応募があり、1分間の自己PR動画などでの選考を経て、受講生が選抜された。

受講生の応募動機は様々で、「コロナ禍で急激に売上が減少するなかで、ホームページやSNSで自社商品やサービスの魅力を発信するコンテンツ制作のノウハウを学びたい」(観光業・女性)、「人材採用活動をする上で、公式サイトだけでなく、手作り感のある生の情報発信する方法を学びたい」(コールセンター・女性)などの声があった。また、出産・育児で休職中にスキルアップを図りたいという受講生もいた。

動画編集の技術よりも
マーケティング思考が重要

プログラムは、事業構想大学院大学のマーケティング担当の教授陣と、宣伝会議のクリエイター教育に精通した講師陣、約20名が担当した。講師たちは、「動画の編集の仕方やアップの仕方は、YouTubeを見ればいくらでも教えてもらえる。それより、お客様が本当に求めているものは何か、という視点で発想するようになることこそが重要」だと強調する。

マーケティング担当教授や宣伝会議の講師陣、第一線で活躍するクリエイターなど、約20名が授業を行った

受講生もプログラム受講を通じて、社内クリエイターとしての手応えを感じている。

例えば、久留米大学職員で広報担当の青木加奈さんは、「コロナ禍で、学生募集広報の形が対面からオンラインへ、紙からWebへと変化してきたことをきっかけに、新しい技術を身につけたいと思い受講を決めました。これまではライティング、写真撮影、動画編集、Webページの運用などをほとんど独学で行っていましたが、2カ月間の講座を通して基礎からしっかり学ぶことができました。自分のスキルが日々アップデートされる感覚は、とても新鮮かつ刺激的で、あっという間の2カ月間でした」と語る。

自然光を活かした写真撮影を学ぶ。特別な機械がなくても、見栄えのよい写真を撮ることができる

また、山梨県在住の大和田晴香さんは、「業界トップレベルの講師の方から実務に近いレベルのお話やノウハウを教えていただくことができました。また、講師の方からだけでなく、全国から受講していた他の受講生の方からも様々な刺激をいただくことができ、これこそ様々な職業・年代が集まるリカレント教育ならではの強みだと感じました。この講座がきっかけとなり、これまでは何となくクリエイティブな仕事がしたいという考え方でした『言葉やコピーによって、人の心を動かせる仕事をしてみたい』に変わっていきました」と感想を寄せる。

プログラム受講後に、就職や転職につながった受講生も多い。社内クリエイターが活躍する場面は、今後ますます広がっていくだろう。