裾野を広げた広報の役割 コミュニケーションをデザインする人材へ

経営と広報の結びつきはより一層重要視され、より広義での広報の教養・スキルが求められている。広報・コミュニケーション戦略のプロフェッショナルを育成する、社会情報大学院大学 吉國浩二学長に、2022年度に予定している名称変更の理由やその背景にある変化を聞いた。

 (右から) 社会情報大学院大学 吉國 浩二 学長、橋本 純次 専任講師

「社会情報」から「社会構想」へ

橋本 社会情報大学院大学は2022年度から名称変更を予定しています。これまでの大学の沿革とあわせて趣旨を教えてください。

吉國 本学は2017年に広報・情報の専門家を育成する日本唯一の専門職大学院として設置されました。

同時に、時代の変化に伴い「リカレント教育(社会人の学び直し)」の重要性が高まっているにもかかわらず、それを担う人材が不足している問題意識から、2018年10月に「実務家教員養成課程」を、2021年度には2つ目の研究科として「実務教育研究科」を設置し、リカレント教育のカリキュラムや手法を開発・実装するための学びを提供しています。その意味で、本学の役割は当初想定されていた「社会情報大学院大学」としてのイメージを超えたと考えました。そこで2022年度からは、コミュニケーションや教育を通じてサステナブルな社会を支える人材を育成する「社会構想大学院大学」に名称を改めることになりました。

橋本 2つの研究科のうち「広報・情報研究科」も「コミュニケーションデザイン研究科」に名称が変更されます。

吉國 これまで我々は「経営と広報は一体のものである」ことを前提として、「組織の経営理念に基づく広報」に関する教育・研究活動に取り組んできました。例えば、いまや必須の視点である「サステナビリティ経営」についても、本学は開学時から先駆けてそれを学ぶためのカリキュラムを提供していました。

一方で研究科の名称に「広報」という言葉がついていると、どうしても宣伝やメディア対応といった狭いテクニックを教えているように思われがちでした。我々が目指すのはより「広義の広報」ですので、その意識をより明確化できればと考えています。いずれにせよ「性格や内容を変更するのではなく、さらに進化する」ことを目的とした名称変更とお考えいただければと思います。

図 広報からコミュニケーションデザインへ

 

リカレント教育の現状と課題

橋本 リカレント教育の意義や効果をどのようにお考えでしょうか。

吉國 現代社会はデジタル化、グローバル化とそれに伴う環境の急激な変化に直面しています。こうした劇的な変化の中では、これまで依存してきた「組織内の知見」だけでは立ちゆかなくなる恐れがあります。こうした状況では、社会人学習者の視点で設計された「実践に活用するための学問」を提供し、すべての社会人に必要な「学問的支柱」をつくっていくリカレント教育、ひいては専門職大学院の役割がますます高まると考えられます。

橋本 リカレント教育に向いている社会人はどういった方でしょうか。

吉國 ひとつは自身の社会での役割を認識している人。そして、向上心のある人でしょうか。最近は社会のなかで大きな役割を果たそうとする人が不足していると思います。組織に安住し、与えられた役割をこなすだけではなく、問題意識を持ち、社会に貢献していきたいと考える方は、リカレント教育のの必要性をしっかり理解していると思います。一方で、日々の業務に追われるなかで社会の大きな動きに関心を持つことができない方もいらっしゃると思います。本学としては、そうした方への呼びかけも継続して行っていきたいと思います。

橋本 組織のトップがリカレント教育の効果に懐疑的である場合も少なからずありそうです。

吉國 社会的役割意識をもつ若者は、これまでのように「与えられるだけ」の研修やOJTでは満足できませんので、結果として組織が見捨てられることになります。経営者としては、組織の枠を超えて成長したいと考える従業員をどのように育てるべきか、真剣に考える時期がきていると思います。

年功序列や終身雇用が限界を迎えるなかで「その組織でなにを学べるか」はますます就職先を決めるための大きな要素になっていくでしょう。

広報担当者はなにを学ぶべきか

橋本 授業や研究を通じて、広報の高度専門職業人を目指す学生にどのようなことを身に付けてほしいと考えていらっしゃいますか。

吉國 まずはこれまでに蓄積されてきた理論を学んでみて実践にどう活かせるか考えてみる。そして「正解」のない領域で研究活動に取り組むなかで、筋道を立てて課題解決や社会貢献を実現するための知見を身に付けてほしいと思っています。

こうした経験や能力は、大学院の2年間だけではなく、それ以降の社会人生活、ひいては人生を支える基盤になるはずです。場合によっては修了後に改めて大学に戻ってくることもあるかもしれませんが、それを繰り返すなかで社会を牽引する人材になっていくのだと考えています。

橋本 吉國先生のお考えになる「広報のプロフェッショナル」とはどのような人材でしょうか。

吉國 現在の広報担当者は、情報を一方的に発信するのではなく、多様なステークホルダーの理解と協力を得る必要があるわけです。そうだとすると、まずは社会に対する洞察力が求められますし、なにより経営と広報を一体的に考えるための視点が必要不可欠です。個人的なスキルで経営者に近い「ご意見番」のような役割を担い、記者などに指針を示すことができる方はこれまでにもいらっしゃいましたが、あらゆるステークホルダーと経営者の間に立つことのできるコミュニケーションデザイン人材こそが、いま求められる広報のプロといえるでしょう。

 

吉國 浩二 (よしくに・こうじ)
社会情報大学院大学 学長

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会情報大学院大学 専任講師

 

社会情報大学院大学 広報・情報研究科は2022年4月より、社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科に名称変更予定です。
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