持続可能な企業へ、かどや製油の戦略 挑戦する風土をつくる

ごま油で知られるかどや製油は、160年以上にわたって、ごま一筋の事業を展開してきた。家庭で使用されるごま油やごま製品のリーディングカンパニーとしてゆるぎない地位を占める同社では、未来に投資し、伝統を守りつつ新しいビジネスに挑戦する社風をつくろうとしている

かどや製油は江戸時代末期の1858年に香川県小豆島で加登屋製油所として創業、ごま油の製造販売を開始した。その後は160年以上にわたって、ごま一筋の事業を展開し、国内シェアトップのごま油メーカーとなっている。

江戸時代に創業、国内
トップのごま油メーカーに

「160年以上の歴史で、ターニングポイントとなった出来事は2つあります。第1に、1957(昭和32)年、事業拡大のため関東で油の代理店などをしていた現小澤物産に出資を仰ぎ、組織を株式会社化しました。第二に、ごま油は従来、てんぷら店などで業務用に使われるものでしたが、1967(昭和42)年には家庭用に進出、その後、皆様にご支持頂き、高いシェアで今日に至っています」。

久米 敦司(かどや製油 代表取締役社長)

かどや製油代表取締役社長の久米敦司氏は、その歴史を振り返る。久米氏は三井物産勤務を経て、2018年にかどや製油に入社。副社長を務めた後、2019年には社長に就任した。「入社当時、かどや製油は伝統を受け継ぎ安定した事業を営む一方で、そのビジネスは昔から守ってきたものを承継し、継続する形でした。世の中が変化しても、現状維持が中心になっているという印象を持ちました」。

そこで久米氏は社長就任の際、①今後も伝統をしっかり守り、引き継いでいく、②足下を見つめ直し、変えるべきことはスピード感をもって変える、③新しいことに挑戦して欲しい、という3つのメッセージを社員に伝えた。「特に2つ目と3つ目のメッセージの背景には、時代が変化する中、変わっていかなければ、長期的に緩慢な衰退に陥るという危機意識がありました」。

2022年には自由が丘でカフェ
「goma to」もオープン

かどや製油ではそれまで、長期ビジョンや中期経営計画が作られていなかった。このため、久米氏は社長就任後、社内の各部門から集めた中堅社員7人に、中期経営計画の策定に向けた軸を考える議論を重ねさせ、検討を実施した。

「まずは長期ビジョンを策定し、時間はかかるかもしれませんが、働き方や考え方、企業風土を変えていきたいと思いました。そしてできあがったのが、『変革と挑戦! 健康と笑顔を届けるNo 1を目指す!』という長期ビジョンです。さらに、これをベースに5カ年の中期経営計画 『ONE Kadoya 2025』を作り、2020年5月に発表しました」。

中期経営計画では5つの事業戦略として、①かどやファンの着実な底上げ、②海外事業強化、③販売マーケティング強化・商品開発強化、④販売チャネルの拡充、⑤カタギ食品との連携強化(統合効果の具現化)を挙げた。

「国内では今後、人口減少が進みます。働き手が減る中、機械化できる部分は機械化し、人はより付加価値を高める仕事に集中しなければいけません。また、人口が減っても製品を買っていただけるよう、味や風味のみならず、例えば健康という切り口などで様々な商品を開発していくことが大切です」。

事業戦略の1つに掲げた「かどやファンの着実な底上げ」では、かどやブランドを強化し、ファンを増やすことを目指す。2022年6月には東京・自由が丘で、かどや製油初のカフェ「goma to(ゴマト)」もオープンした。goma toは「NEW STANDARD」をコンセプトに、ごまを使ったメニューを楽しめるカフェだ。

自由が丘のgoma toでは、ごまを使った様々なメニューを楽しめる

「次の世代の方々に、ごまの魅力をしっかり伝えていく必要があるということでgoma toをオープンさせました。他にはSNSやファンのコミュニティサイトを通じて、ごまの魅力を伝える取り組みも強化しています。また顧客との接点を大切にする為、Eコマースの商品拡充等、ダイレクトマーケティングを強化しています」。

新商品の開発では、2021年に特定保健用食品(トクホ)の「健やかごま油」が完成、ごま油業界で初めてトクホの許可を得た製品となった。健やかごま油は、ごまの特徴的な成分であるリグナン類のセサミン・セサモリンの働きによって、毎日大さじ一杯(14g)の摂取を通じ、血清LDLコレステロールを減らすことを助ける。

2021年2月に発売した「健やかごま油」は、
ごま油では初の特定保健用食品(トクホ)

一方、経営基盤の強化に向けては、人事制度改革や生産体制の最適化などを進めている。2020年2月には、千葉県袖ケ浦市で新工場を立ち上げた。同社には他、創業の地の香川県の小豆島工場と、2017年に買収した、ごまの老舗メーカー・カタギ食品の大阪・寝屋川工場があり、これら3工場で生産効率を高めていく。

このほか、SDGsへの取り組みを進めて「持続可能な社会と事業成長の両立」を図ることも、中期経営計画の柱の1つとなっている。CO2排出量削減のための太陽光発電の導入検討や、ごま粕のアップサイクルの強化などだ。

タンザニアなどでごま農家
の支援プロジェクトを実施

日本のごま油の原材料であるごまは、そのほとんどで輸入に頼っている。新興国の需要増や燃料価格の高騰に伴い、市場におけるその価格は上昇している。このため、ごま油も商品価格を上げざるをえない状況にある。しかし、「今の事業環境を否定的に捉える必要はないと思います」と久米氏は言う。「原材料価格の上昇は所与のものとして捉え、それにどう付加価値を付けていくかが大切です。そして、ごまの魅力や健康に良いことをお客様に伝え、今後も製品を選んでいただけるよう努めます」。

特に搾油用のごまは、ほとんどがアフリカ産だ。健康志向の高まりもあり、世界的にはごまの需要はさらに伸びると見られることから、かどや製油では原料を安定的に確保する方法を模索している。

その1つが、海外のごま農家の生産性向上と収入アップだ。2021年にはタンザニアとナイジェリア、パラグアイで小規模なごま農家を対象とする支援プロジェクトを開始した。 パートナー企業やごまのサプライヤーを通じ、栽培指導やごまの品質の改善に取り組み、生産者の収入増を目指す。

「ごまは手間がかかる作物ですが、製品に付加価値が付けば、農家に還元できる価値も増します。また現在、アフリカでは小規模農家が多いですが、将来はより規模を拡大し、効率よく作業できる農家が増えればよいと思います」。2022年には新たに、「ごまで、世界をしあわせに。」というブランドコンセプトも作った。世界のごまでつながる人々を幸せにして、社会を豊かにする持続可能な事業の展開を目指している。

 

久米 敦司(くめ・あつし)
かどや製油株式会社 代表取締役社長