9億人の下沈市場の衝撃 『2030年中国ビジネスの未来地図』
人口14億人を擁し、「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌しつつある中国。最近では訪日インバウンドが復活し、中国人の旺盛な消費・購買力が日本でも改めて注目を集めている。
ただ、中国社会・経済の変化はあまりにも速く、米中対立やコロナ禍による経済減速、人口減少、格差問題などの多くの課題を中国が抱えているのも事実だろう。本書はわかりにくい中国ビジネスの現在と未来を、中国遼寧省瀋陽市出身の気鋭の研究者、趙瑋琳(チョウ・イーリン)氏が詳細に解説している。
趙氏は2002年に来日し、東京工業大学で技術経済学の博士号を取得、複数のシンクタンクを経て現在は伊藤忠総研の主任研究員として、中国の経済・産業動向、特にデジタルイノベーションの影響に関する研究に従事している。趙氏は「2030年代の中国は様々な課題を抱えながらも、巨大市場としての魅力が全面的に開花する」と力強く予言する。
3つの発展戦略のインパクトと
急成長する「下沈市場」
そして後半では、学校教育、自治体、医療機関におけるeスポーツ活用を分析している。
まず第1章では、2021年に公布された「第14次5カ年計画・2035年長期目標」にフォーカスし、新たに掲げられた3つの発展戦略「双循環(外需と内需の双方の好循環)」「数字中国(デジタルチャイナ)」「緑色成長(脱炭素・グリーン成長)」について、その内容と影響を解説する。
第2章は、現在の中国で多くの企業がこぞって参入しようとしている「下沈市場」の魅力や特徴、成長可能性、成功例を紹介した。下沈市場は3級都市以下の地方都市・農村地域を指し、デジタルインフラの整備に伴い9億人超のマーケットとして浮かび上がってきた。趙氏は、日本企業は下沈市場の顧客層に接近するための戦略を練り直すべきだと説く。
そして第3章では、注目すべき消費者層として「デジタル世代」「下沈層」「愛国消費主義者」の3つを挙げ、それぞれの消費者像を詳細に解説、その特徴を理解するヒントを提示した。また、成長可能性の高い消費分野とトレンドを考察し、中国市場を攻略する糸口を探っている。
第4章では、中国ブランドがどのように成長を遂げ、どのような戦略を持っているのかを具体的な事例を用いて解説。異業種連携による相乗効果の拡大、知名度を生かした異分野参入、健康や安心・安全をコンセプトにした食品ブランドの成長、徹底したデジタル戦略による市場開拓など、多くのヒントが得られる内容だ。第5章は「中国市場の魅力と攻略」と題して、中国事業への投資とビジネスを強化する外資企業の動きに焦点を当てながら、中国市場攻略の留意点を示した。
中国の新たな消費動向やブランド、市場を明快に解説した本書は、中国ビジネスの拡大・参入を目指すすべての企業の羅針盤になるだろう。
『2030年中国ビジネスの未来地図』
- 趙 瑋琳 著
- 本体2,000円+税
- 東洋経済新報社
- 2023年8月
今月の注目の3冊
サステナブルファイナンス
最前線
- 水口 剛、高田 英樹 著
- 金融財政事情研究会
- 本体3,000円+税
気候変動や格差、人口減少等の社会的課題への対応が急務となる中で、社会的課題の解決に資する資金やアドバイスを提供する金融=サステナブルファイナンスの重要性が高まっている。
本書は、高崎経済大学学長の水口剛氏、金融庁総合政策課長の高田英樹氏などの「金融庁サステナブルファイナンス有識者会議」メンバーらが、その最新の動向や国際的な枠組み、今後の課題などを平易に解説している。
具体的には、国内外で検討が進むサステナビリティ情報の開示、ESG評価やESG債、機関投資家と投資先企業との対話方法、サステナブルファイナンスを巡る地域金融機関の役割と地方創生への影響、生物多様性や自然資源に関する国際的な動向などについて幅広く論じている。本書を読めば、サステナブルファイナンスというパラダイム転換について深く理解し、ビジネスに活用できるだろう。
「女性たちのウェル
ビーイング」マーケティング
- 日野 佳恵子 他 著
- 同文舘出版
- 本体2,400円+税
フェムテックやジェンダード・イノベーションといったキーワードが注目を集める中で、本書は女性の心身に関わる未着手の課題を掘り起こし、女性のウェルビーイング(健康・幸福・福祉)をビジネスで実現するためのヒントを提供している。
著者の日野佳恵子氏(ハー・ストーリィ代表)は1990年の起業以来、一貫して女性生活者の消費行動を分析し、企業向けの女性マーケティング事業を手掛けてきた。近年は「女性のウェルビーイングをビジネスで解決する」ことを目的に異業種研究会を開催。本書は研究会に登壇した産婦人科医や予防医療、ヘルステック開発、ダイバーシティ企業、社会起業家などの専門家が、多様な視点から、フェムマーケット創出やウェルビーイング観点からの商品・サービス開発の手法などについて解説している。特にマーケターや商品開発担当者に勧めたい一冊。
選挙学入門
選挙プランナーが明かす逆算の思考
- 野澤 髙一 著
- 平凡社
- 本体2,400円+税
広告代理店やハウスメーカー勤務という経歴から選挙プランナーに転身し、マーケティング手法を取り入れた選挙術によって数多くの候補者を指南し、当選させてきた野澤髙一氏。そのノウハウを余すところなく披露しているのが本書「選挙学入門」だ。
野澤氏の提唱する「マーケティング選挙」は、顧客(有権者)視点に立ち、彼らに投票所に足を運んでもらうために双方向な関係性の構築やリレーション形成を行う手法だ。
また、地域課題の解決や暮らしやすい地域社会の形成に向けた後援組織づくりや運営方法についても詳細に解説している。
ターゲットを明確にして候補者をブランディングする手法や、後援組織=コミュニティを育てるノウハウ、政治家として自己プロデュースする方法などは、新規事業開発やビジネスにも広く応用できる内容である。