パンフォーユー 冷凍×DXで、新たなパン経済圏を構築
群馬県桐生市で2017年に創業以来、急速に存在感を高めているスタートアップが、独自の事業モデルで冷凍パン市場を広げているパンフォーユーだ。冷凍技術とITの融合により、パン流通の新たなプラットフォームと経済圏の創出に成功した同社の矢野代表に、起業の経緯と事業構想を聞いた。
矢野 健太(株式会社パンフォーユー 代表取締役)
パンを作る・売る・買う
三方よしのプラットフォーム
パン業界で、今急速に存在感を高めている群馬県桐生市のスタートアップ、パンフォーユー。独自技術とITを駆使し、パンを作る・売る・買うの三方よしの新たなプラットフォームを提供して注目されている。同社の主力事業は、個人向け冷凍パンのサブスクリプションサービス「パンスク」。毎月3990円で全国30軒の提携ベーカリーから月替わりで冷凍パン8個前後が届くサービスで、会員登録者数は約8000人にのぼる。
「パンスク」開封時。独自開発のパンを個包装するビニール袋に入っている
見事にパン好きの心を捉えた同社の代表を務めるのは、群馬県太田市出身の矢野健太氏。サラリーマンを経て、2017年に起業した。なぜ、パン業界を選んだのだろうか?
「大学卒業後、広告代理店に入社したのですが、徐々に『起業して自分の力を試したい』と思うようになり、教育系スタートアップなどを経て、桐生市で子育て世代の暮らしと仕事を支援しているNPO法人キッズバレイに転職しました。そこで寄付の法人窓口を担当した際、地元の冷凍パンメーカーと出会ったのが起業のきっかけです」と矢野氏は語る。そのメーカーのパンを食べた時に、想像以上のおいしさに驚くと同時に、冷凍パンを軸にした事業ができるのではと閃いたという。着目したのは、群馬県の店のパンと、都心で人気店と言われるパンとの価格・クオリティのギャップだ。
「そのギャップを冷凍技術というツールで埋められるのではと思い、『新しいパン経済圏をつくり、地域経済に貢献する』をミッションに掲げ、群馬県で起業しました。最初は冷凍パンメーカーの販売会社としてスタートしましたが、間もなく『世の中のいろいろなパン屋のパンを食べたい』というニーズに気づきました。そこで、幅広いパン屋のパンを取り扱うサブスクリプションサービスを提供することにしたのです」
設備投資不要で、品質を
落とさず簡単に冷凍可能
難航したのは、提携するパン屋探しだった。おいしさを前提に、多店舗展開しておらず、全国的には知名度が高くない店を探したが、パンを冷凍にして、店頭以外で配送するということを想定していない店がほとんどだった。そのため、最初は理解してもらうことに苦労したが、店側にとってのメリットや負担の少なさを丁寧に説明し続けた。
「メリットは、新たな設備投資がいらないのが大きなポイントです。当社で開発したパンを個包装するビニール袋を使ってもらえば、家庭用冷凍庫でも冷凍できますし、解凍した時に1日常温で置いたパンよりも品質が高いことが実証されています。実際に食べるとわかりますが、従来の冷凍パンよりも、香りやもちもち度をキープできます。冷凍なので賞味期限が1カ月あり、フードロスの削減にも貢献しますし、当社がサブスクで販売することで売上を固定化できるのもメリットです」
パンフォーユーの冷凍方法で30日間冷凍保存したパンと焼成1日後の常温パンの糊化(α化)度・水分量の比較
少しずつ提携先が増えてきた2018年秋に立ち上げたのは、企業向けの冷凍パン福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」。冷凍パンの購入価格を企業が半額負担し、社員に安く提供するサービスだ。パンフォーユーが提携した全国のパン屋から、月に最大8種のパンが届く。導入にあたり必要なのは冷凍庫だけで、電子レンジで40秒温めるといつでも温かいパンを食べることができる。企業の費用負担は売れた分だけの明朗会計で、社員の決済も専用端末で簡単にできるようにした。
このサービスは、三井不動産、ドコモ、オカムラなどの大企業、サイゲームズなどのベンチャー企業といった幅広い層に支持され、ローンチから約1年半で150社に導入された。
「次に手掛けたのが、現在の主力事業である個人向けサービスの『パンスク』です。日本で新型コロナの感染拡大が本格化する直前の昨年2月末にリリースしました。これが、その後の巣ごもり需要のタイミングにはまり、会員が急増しました。コロナ禍でオフィス向けの売り上げが鈍化、減少しましたが、個人向けはもともと想定していた数字よりもはるかに上回って会員が増えました。おかげで、売り上げは全体としてプラスになりました」
「新しいパン経済圏」を
群馬から全国に拡大
続いて昨年7月、おいしいパンを販売したい企業・個人とパン屋をつなぐOEMプラットフォーム「パンフォーユーBiz」を始動。これは、飲食店・スーパー・宿泊施設などでパンの販売を希望する事業者の要望に合わせて、パンフォーユーが提携するパン屋がオリジナルのパンを作り、冷凍して発送するサービスだ。パン屋の選定、仕入れ管理、物流手配などのサポートも提供する。
さらに昨年12月には、冷凍庫さえあれば冷凍パンを販売できる「ゴーストベーカリー」も始めた。要望に合わせて提携のパン屋がパンを作り、それを仕入れて販売することで、職人や焼成機械などがなくてもパン屋を開店できる。こちらは、昨年8月、東京都北区に実験的にオープンした冷凍パンの専門店「パンフォーユー カジワラ」が好調で、想定の1.5倍の売れ行きだったため、事業化した。今年2月には、大阪の活性化を掲げる大阪メトロの実証事業の1つに選ばれ、梅田駅で冷凍パン専門店「パンフォーユー西梅田」を開いた。
初のゴーストベーカリー「パンフォーユー カジワラ」(東京都北区)で販売されたパン
「現在の4事業のうち、最も注力しているのは『パンスク』です。会員のニーズに合わせて、新たな展開も計画中です。今までは当社でセレクトしたパンをランダムにお届けする形でしたが、会員様からは自分でパンを選びたいという要望も多くいただいていました。そこで、パンの提供の仕方をもう少し柔軟にしていくことを考えています」
今後の同社の目標は、パン屋の提携先を47都道府県に広げていくことだ。「今年2月、5月と立て続けに資金調達も行いました。今後も、群馬発の『新しいパン経済圏』を着実に拡大させていきます。群馬県には自動車産業などの多様な産業が集積していて、食分野にもうどんやパスタなどの多彩なプレイヤーがいます。当社も彼らとともに、群馬県の活性化に貢献していきたいですね」
- 矢野 健太(やの・けんた)
- 株式会社パンフォーユー 代表取締役