川を起点に地域・行政・企業を繋ぐ 共創で実現する水辺の魅力づくり

公共空間である"川"を活かした魅力づくりが近年注目を集めている。こうした中、日本屈指のクリエイティブな都市「横浜」にて、地域・行政・企業が一体となった、他都市では見られない、クリエティビティあふれる新しい水辺空間が生み出されている。

都市において、身近にある川の利用は利水・治水が中心であり、日常生活を営む中で意識される機会は少ない。かつて、「まち」と「ひと」をつなぐ存在だった川は、いつしか存在感を失いつつあるばかりか、地域活性化の観点に立つと、むしろまちとまちを分断していると捉えられてしまうことすらある。しかし、地域を盛り上げるためには、来訪者が回遊するよう、点と点ではなく、面で取り組みを行う必要がある。最近では、改めて川の価値を見出し、川を起点に地域を繋ぐことで、新しい魅力を作ろうとする動きが全国的に活発になりつつあり、そうした川を活用した魅力づくりの先進地域の一つが横浜市である。

横浜市と事業構想大学院大学は、「川」と「まち」と「ひと」の関係を編み直し、新しい価値・魅力を創出すべく、「横浜の水辺を活かした新たな魅力創出事業に関する基本協定」を2017年12月に締結。約3年にわたって、地域や事業者の皆様と、地元で愛される地域資源である川を最大限に活用したクリエイティブな取組みを生み、新たな賑わいを創出することを目指してきた。

横浜・日ノ出町から開始

プロジェクトは、関内地区とみなとみらい21地区の結節点に位置する横浜市の新市庁舎から徒歩で約10分の位置にある、地図を見てもわからないので、プロットから開始することとなった。かつて違法風俗店が200店舗以上立ち並んでいたエリアではあるが、アートによる負の課題解決に取り組んできた結果、地域は浄化され、地域資源である"大岡川"を生かした地域活性化に挑戦する土壌ができつつあったからだ。

大岡川・中村川の位置関係

プロジェクトを開始した当初は、多様なステークホルダーが存在する地域において、地域の主体が思い描く「活性化」の形が様々であり、ベクトルが1つではないという課題につき当たった。そこで、横浜市と事業構想大学院大学では地域のビジョン画づくりを実施。町内会やNPO、行政、企業など、地域の主体一つひとつは点だとしても、同じビジョンに向かい、線となり、さらに面となることで、経営資源を共有し、より大きな成果を生み出すことを可能とすることをまずは目指した。

その際、キーワードとしたのは、「川」「自走」「クリエイティブ」の3つだ。「自走」を掲げているのは、地域の賑わいを創出する上で、かつてのような補助金頼りの取り組みは継続性が見込めないこと。そして、世界中が同質化する中、地域のアイデンティティにもなりうる新しい魅力をつくるためには、行政がどの地域でもできる施策を実行するのではなく、地域に思い入れのある方々が主体となり、「民」ならではの柔軟な行動と思考で、地域資源をいかした新しいクリエイティビティあふれる水辺空間を生み出すことが求められているからだ。

地域関係者に共有されているビジョン

実施した新たな魅力づくり

地域のステークホルダーが共有できるビジョンを作成した後は、賑わいを生む象徴(エンジン)となる事業として、川そのものに着目したこの地域ならではの話題づくりをライトアップを通じて行い、その後、食やSUP・船といったアクティビティも活用していくことになった。

2018年はライトアップイベント「大岡川ひかりの川辺」を開催。地域内外の方に、水辺の新しい魅力を感じていただくために、ムービング照明と、レーザーを使い日常と変わりないように見えるいつもの川が突然輝きだす演出を行った。来場者数は約24000名にのぼり、地域内外の関係者に川の魅力について考えていただく機会となり、地域が主体的にライトアップを実施する機運を醸成した。

2019年は"川" のライトアップから"エリア"のライトアップへ。地域の将来の担い手である横浜美術大学の学生とコラボレーションしながら、川を輝かせるだけではなく、音楽による演出でエリア全体を輝かせることで、域外からのまち全体に対する認知・関心を高めるイベント「大岡川ひかりの川辺2019」を開催。同時に、キッチンカーなどによる食事を楽しめる水辺空間づくりを実施。地域が発展していくためには、エリアとして収益を稼げるようにする必要があり、その第一歩を踏み出した形となった。

横浜美術大学の学生とのワークショップの様子

大岡川ひかりの川辺(2018年実施)

大岡川ひかりの川辺2019(2019年実施)

2020年は残念ながら、新型コロナウィルス感染症拡大・緊急事態宣言の影響により計画を見直すこととなった。次年度以降につながる水辺の魅力づくりとして、密を避けつつ、川の開放感を感じられる、欄干に簡単に設置できる机「mizube bar」の地域への導入促進や、船を活用したライトアップの実証実験「SAMPO_ MAPP over the riverbed ~ミズベノサンポマップ~」を実施した。こうしたプロジェクトの中で、大岡川のポテンシャルの高さと、今後の発展可能性が示された。

設置されたmizube bar

「SAMPO_MAP Poverthe riverbed ~ミズベノサンポマップ~」を実施したソニーPCL荒木悠太氏、デビッドワッツ 竹川潤一氏は、今後の可能性について次のように語る。

SAMPO_MAPP over the riverbed ~ミズベノサンポマップ~の様子 Photo by コハラタケル

「私たちは昨年、横浜の創造的イルミネーション『ヨルノヨ』の中で、コンテンツを通じて人と街の関係を遊びでつなぐ『ヨルノヨ×SAMPO_MAPP』というプログラムをつくりました。

「SAMPO_ MAPP over the riverbed ~ミズベノサンポマップ~」のチラシ

参加者と街を歩きながら、プロジェクターを搭載したMAPP_BIKEで、建物と人の間に物語を照らした非日常の瞬間を体験していただくプログラムです。

今回、このプログラムを水辺で行う実証実験のお話を頂いた際に、私たちは周辺をリサーチするために何度も現地に足を運びました。海に近いところは解放感があるのですが、川に入ってからのエリアにはもう少し「遊び」の要素が必要なのではと感じました。

今回の実験では、子供のころに心の中で一番大きな存在だった自分の心の姿を、人を見ると踊る「NOYO」という赤いモンスターに見立て、護岸に浮かび上がるライティングやアニメーション、生演奏音楽や踊りも、NOYOが導く形で水辺と人の間にある表現として取り入れました。

実際に船に乗り、風を切って船が進むことの高揚感と、高速道路の高架下や護岸に投影した映像や音楽とともに楽しむ街景色の遷移は、日常と非日常に行き来することの重要さを感じさせてくれた貴重な体験となりました。

水辺の特徴を理解しながら、クリエイティブの力で水辺のもつ可能性に貢献できたらと思います。

賑わいを創出するためには、このような取り組みを一過性のものにするのではなく、地域の人々の協力を得ながら持続させていく事が重要と考えています。今後、水辺を生かしたプロジェクト、取り組みが形や手法を変えながらでも続いてゆくことで、地域の人々が川に関心を寄せていただくきっかけとなり、この川と周辺環境が来訪者を含めた様々な人の交流の場所として新たな価値創造に繋がれば幸いです」

今後の課題はエリアマネジメント

これまで横浜市が初黄・日ノ出町地区で推進してきたのは、地域・警察・行政が一体となって特殊飲食店を撲滅し、アートの力で「負の課題の解消」を目指したもので、それは着実に成果をあげてきた。

今回のプロジェクトは、そこからさらに街へ活力や賑わいを作り広げていくという視点で、川という既存の地域資源へ着目し、オンリーワンの魅力を創出するものであった。そして、地域の内外を問わず、様々なリソースやスキルを持った方々による、川を活かした新しいクリエイティブなプロジェクトが次々と創出される環境づくりに貢献してきた。

ただし、大きな課題が残っている。それは、持続可能な形でプロジェクトを展開するために、いかに地域全体として来訪者に満足していただき、お金を落としていただくか、ということだ。そのためには、右岸と左岸の垣根を超え、エリア全体としてお金を出し合い、来訪者が街にお金を落とし、その収益の一部が次の水辺の魅力づくりに投資されるという循環が必要であり、こうしたエリアマネジメントの仕組みを作っていかなければならない。これは行政だけに任せるのではなく、来訪者が増え、地域の魅力が高まることで自らの売上・利益が拡大する民間企業も担うべきである。全国的には交通事業者や不動産会社が担うことが多いが、横浜においても類似の業種がこうした役割を果たすことを期待したい。

 

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