2021年5月号

ディスカバー農山漁村(むら)の宝

全国の事例から学ぶ農山漁村の未来 地域の宝を発掘し輝く未来に

月刊事業構想編集部

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地域の宝を発掘し、持続可能な農山漁村をつくっていくためには、どのような取り組みが必要になるのか。「農業」「漁業」「まちづくり」などの分野において、新たな切り口で農山漁村を盛り上げ、注目されている若手事業者3人が、オンラインでトークセッションした。

津田 祐樹 フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング COO

齋藤 潤一 特定非営利活動法人まちづくりGIFT 代表理事

山中 大介 ヤマガタデザイン 代表取締役

(司会)
田中 里沙 
事業構想大学院大学 学長

 

田中 里沙 事業構想大学院大学 学長

田中 皆さんは農山漁村に深い関わりを持ち、「自分がやらねば」というビジョンの下、果敢なチャレンジをされていると思います。まずは、皆さんに自己紹介をお願いします。

山中 大介 ヤマガタデザイン 代表取締役

山中 私は地方都市の課題を希望に変える街づくり会社、ヤマガタデザインで代表取締役を務めています。2014年の設立で、これまで約32億円の資金を調達、今年も億単位で調達する予定です。元は地域の方々から投資を募り、地域課題を解決しようと始めましたが、今は全国から投資をいただき、さらに事業を成長させるフェーズです。

現在、6つのカテゴリーで事業を展開しており、最も有名なのは田んぼに浮かぶホテルの「スイデンテラス」です。教育事業もあり、子どもたちの夢中体験を作って個性を伸ばすことに取り組んでいます。さらに、電気代の一部を児童教育施設「キッズドームソライ」の運営費として活用し、教育に投資する新電力プラン「ソライでんき」や、地域の人材を集める事業も行っています。他には、地域の生産者に私たちが作ったブランドを使っていただいたり、農業の学校運営、そして無農薬での米づくりをやりやすくするための、農業用除草ロボットの開発も行っています。

ヤマガタデザインによる、水田に浮かぶホテル。地元産の素材を使った料理を提供する

津田 祐樹 フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング COO

津田 私は、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングのCOOを務めています。元は宮城県石巻市で魚を卸す事業をしていましたが、東日本大震災後、地元の漁師や魚屋の方々と共にフィッシャーマン・ジャパン・グループを立ち上げました。日本の水産業は震災前から、人手不足や国内マーケットの縮小、資源の枯渇、時代遅れの法律など様々な問題を抱えており、私たちは水産業の課題を解決しようとしてきました。

フィッシャーマン・ジャパンは、東日本大震災をきっかけに活動を開始した

震災後に地域を支援してくださったヤフーなどにも協力いただき、2014年に一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを設立しました。活動理念は日本の水産業を、3Kでなく「新3K=カッコいい、稼げる、革新的」に変えるというもの。目標は、2024 年までに三陸で多様な能力をもつ新しい職種「フィッシャーマン」を 1000 人増やすことです。ここでのフィッシャーマンとは、IT企業や広告を手掛ける人々も含む広義の水産従事者です。業界を開かれたものに変え、これらの人々を増やしていきます。現在は株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとの2社体制で、様々な事業を展開しています。

齋藤 潤一 特定非営利活動法人まちづくりGIFT代表理事

齋藤 私はビジネスで地域の課題を解決する起業家として活動してきました。元は米シリコンバレーの、音楽配信のサービスを行うベンチャーで働いていました。2011年の東日本大震災を機に、米国で得た知識や経験を持続可能な地域づくりに役立て、ビジネスで地域の課題を解決したいと思い、活動を始めました。

多い時には全国10カ所のプロジェクトを手掛け、2017年4月から、宮崎県新富町で地域商社「こゆ財団」に関わるようになりました。新富町は人口1万7000人のまちで、現在は1粒1000円のライチをはじめとするブランド化のほか、ふるさと納税の販路開拓では累計50億円の寄付を集め、起業家育成にも投資しています。

新富町は、1粒1000円のライチのブランド化に成功している。AGRISTを通じて、ロボットを活用した農業の省人化にも取り組む

2019年10月には、テクノロジーで農業課題を解決するベンチャー企業AGRIST(アグリスト)も設立しました。AI搭載の自動収穫ロボットを開発し、様々な賞を受賞しています。全国のJAグループと連携し、収穫ロボットの社会実装を目指しています。行政の資金に頼らず、ベンチャーキャピタルや地域金融機関との連携で持続可能なまちづくりを目指します。

経済合理性から見捨てられた
地域の宝に光を当てる

田中 皆さんが見つけた地域の宝や、その魅力の広げ方について教えてください。

津田 私たちの宝は、豊富な水産資源です。日本のように多種多様な魚が水揚げされる地域は世界的に珍しく、三陸は特に恵まれています。世界には魚が欲しくても手に入りにくい地域が多く、今後はそのような地域への輸出を増やしていくべきだと思います。

齋藤 これまで色々な地域づくりを見てきましたが、どの地域にもきらりと輝く何かがあります。私たちの1粒1000円ライチは、試行錯誤を重ねて見つけたものです。それ以前は失敗したり、途中でやめたプロジェクトもありました。地域で売れる、光るものは、試行錯誤の中でなければ見つけにくいと感じます。

また、百発百中はほぼなく、チャレンジを繰り返して見つけることが大事です。では、そこまでやれば売れるかというとそうでもありません。私たちのライチでは当初、クーラーボックスを持って銀座のカフェへの飛び込み営業もしました。「1個だけ食べて、味わって欲しい」とお願いし、ようやく1軒で受け入れられ、広がっていきました。情報発信も頑張り、多くのメディアに取り上げられました。SNSでも、どんどん発信していくのが良いです。

山中 経済合理性から見捨てられたものには本質的なものが多く、そこに光を当てて経済をつくる方が面白い社会になると思います。地方はその点で、捨てられたものばかりです。例えば、私たちは有機農業をしていますが、化学肥料や農薬を使う方が計画的に生産でき、収量も増えます。しかし、社会は有機の農産物に適切な値段を付けてくれるようになっています。日本の伝統工芸品も同様で、世界から見るとアートとして高く売れるはずです。

楽しそうなところに
人が集まり協力が得られる

田中 外からの協力を得たり、中で盛り上げ、関係者の気持ちを1つにしていくためには何が必要でしょうか。

津田 まず重要なのは、楽しそうにやることです。実際は楽しくなくても良いのですが、楽しそうにやった方が良い結果につながりやすいと思います。笑いながら面白くやれば、人も寄ってきます。もう1つ大事なのは、人の力を借りまくることです。情報発信をして楽しそうにやり、寄ってきた人たちを仲間に入れて、皆で頑張ることです。

また、理念のようなものも、しっかり作った方が良いでしょう。私たちは当初、皆でとりあえず何かやろうと集まりましたが、1年後には崩壊の危機に瀕しました。どこに向かうべきかが定まらず、色々なことをして疲れ果て、周囲からも批判されました。そこで1年後に皆で集まり、ゼロからもう一度考えて議論し、半年かけて「新3K」という言葉にたどり着いたのです。

この言葉を掲げることで、やらなければいけないことが明確になりました。その結果、辞めた人もいましたが、加わったメンバーもいて、そこからうまく動き出しました。

齋藤 よく「どのように地域の人を巻き込むのか」と聞かれるのですが、私は「巻き込まない」と答えます。無理に巻き込もうとすれば、そこにパワーを使い、コミュニケーションに疲れてしまいます。まずはやって見せる以外になく、私たちは数字で結果を出そうとしています。

津田さんのお話のように、楽しくなくても楽しそうにやるのも良いと思います。楽しそうにやって自分が熱狂してくると、色々な人が集まってきます。それらの人たちと組んでやっていくことが、1つのポイントでしょう。また、地元の方々とのコミュニケーションも非常に重要です。

地方創生では従来、自己犠牲が多かったように感じますが、今後はウェルビーイング、自己実現の地方創生が農林水産業でも1つのテーマになると思います。

山中 「巻き込まない」ということは、私も意識しています。当初は私も地域に住んでいるので、地域の人たちの事業に加わるというスタンスでいたのですが、三世代住まないと認められないような地域なので、ある時、自分の薄っぺらさに気づきました。そこで異端である自分を認め、「異端でもこの地域に愛着があり、やるのだ」と自分なりの割り切りができました。そういうコミュニケーションができるようになってから、地域の方々の信頼を得られるようになったと感じます。

津田 私たちのところには、UIターンや漁師になりたい人、異なる職種から来た人など様々な人が来ます。また、漁業者には人を雇ったことがなく、雇い方がわからないという人も多くいます。さらに水産業の現場と市場や流通の人々では、思想や使う言語、生き方や考え方が大きく異なります。

そこで私たちが「翻訳家」になり、漁業者の気持ちを流通側に、流通側の気持ちを漁業者や生産側に伝えていきます。私たちの役割はリーダーとなって引っ張るのではなく、翻訳を土台にしてプラットフォームを作ることです。

チームや組織、会社を創り
担い手を育てることも重要

田中 持続可能性のためにも地域経営は重要といわれますが、一般企業のようにうまく経営していくのは難しいことだと思います。この点では、何が必要になるでしょうか。

齋藤 昔のように「考えるな、感じろ、とにかくやってみろ」というのでは、若い人は付いてこないし、ビジネスになりません。一方、農林水産業のデジタル化は、チャンスを生み出すと思います。これをどう活用するかと考え、経営していくのが農林水産業の「経営2.0」になるのではないでしょうか。

山中 1つ、私たちがこだわっているのは、ある種の会社組織を創ることです。それによってできることやインパクトが大きくなり、そこが持続可能性への鍵になると思います。例えば、農業では近く1人70ヘクタールも営農しなければいけない時代が訪れます。デジタルトランスフォーメーション(DX)などで営農効率を上げることも重要ですが、1人で70ヘクタールを営農するのは無理で、10人で700ヘクタールをどう管理するかという考え方が必要です。

私たちが運営している農業経営者育成学校では、農業の技術や経営について、私たちの失敗談や成功談も交えて教えています。特に農業、そして地域全体でチームや組織、会社を創り、それらが担い手になっていくことは重要だと感じます。

デジタルを活用、世界に視野を
広げてチャンスを生み出す

田中 皆さんは今後、地域の未来をどのように作っていこうとしていますか。次なるチャレンジへの考えについて、教えてください。

齋藤 地方活性化や地方創生という言葉があり、私も長らく地域で活動してきましたが、今後はより視野を広げ、視座を高く持つことが重要になるでしょう。今はスマートフォン1つで世界とつながり、1晩でスーパースターが生まれるような時代です。「過疎地域だから難しい」というのでなく、地方からも世界に挑戦する起業家が生まれるという雰囲気を作り、寄付も募っていきたいと思います。

デジタル化が進めば進むほど、農家や漁師の創造性も必要になり、それが育まれるはずです。デジタルを活用して世界に視野を広げ、様々な事業を展開していくことが、農産漁村のチャンスであり、宝になると思います。

山中 一次産業には大きな可能性があり、私たちは将来、漁業、林業、エネルギーのすべてをやりたいと考えています。地域で経済をつくる上で、経済性・環境性・人間性のバランスを取るためにも一次産業の「2.0」は重要で、これに取り組んでいきます。

しかし、私たちが最も力を入れたいのは教育です。地域の教育水準を上げれば、中長期的に見て地域の生産性や国内総生産(GDP)が向上し、課題解決につながり、サステナブルな社会をつくれると思います。日本は先進国の中では教育への公的支出が少なく、親の経済格差が子どもの教育格差につながっているのが実状です。また、地方と都市の間には、大きな格差があります。私たちは、これらの格差を解消させるような力を持つ会社になりたいと思っています。

津田 水産業は日本では「斜陽産業」といわれていますが、世界的に見ると、すごく伸びている産業です。また今後、世界人口は100億人に増え、間違いなく食糧危機が到来するといわれます。その中で、私は日本の水産業が世界の食糧危機を救うと思います。水産物は優秀で、しっかりと資源管理を行えば、勝手に増えていきます。また、日本、とりわけ三陸では多様な魚が沢山獲れ、これは世界的に見て大変な優位性です。

さらに日本の魚に関する食文化は世界一で、長年、養殖技術も培われ、保管の仕方も長けています。今後は水産物を乱獲して日本中で安く売るのではなく、日本の優れた技術や文化もあわせて輸出を増やしていけば、食糧危機の解決にもつながるはずです。ただ、私たちだけこれをやるのは難しく、皆さんに仲間になっていただきたいです。

地域の資源を活かして
世界の課題解決にも貢献

田中 結びに、読者の方々へのメッセージをいただきたいと思います。

津田 私からのメッセージは、「日本の農林水産物で、世界の食糧危機を解決する」というものです。日本のポテンシャルを活かし、食糧危機の解決に貢献していきたいです。

齋藤 私のメッセージは、「地方から世界へ」です。農業ロボットを活用し、国際機関とも協力して、地域に基盤を置きつつ世界の食糧問題を解決していきたいです。また、そこで得られたデータや経験を、日本の農業にも活かしていきます。

山中 私からのメッセージは、「未来志向」です。私たちの会社のテーマは課題解決で、生きている限り、あらゆる課題を解決していきたいと思っています。課題はチャンスでもあり、未来志向で考える人たちと共に、未来志向の様々なプロジェクトを進めていきたいです。

 

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