コロナ禍のエステー 空気を軸に、新領域での事業を開拓

大気汚染やウイルスなど、世界的に空気に関する健康問題がクローズアップされる中、企業スローガンに「空気をかえよう」を掲げるエステーがコロナ禍でも好調に売上を延ばしている。空気を軸に新製品を開発する同社の取り組みについて、鈴木貴子社長に話を聞いた。

防虫剤「ムシューダ」、消臭芳香剤「消臭力」、脱臭剤「脱臭炭」など、ニッチ市場で独自ブランドを数多く展開するエステー。終戦後、着物の虫食いの悩みを解決するために防虫剤の生産から始まったが、社会変化に対応する中、近年はエアケア(消臭芳香剤・脱臭剤)事業が売上構成比の4割を超え主軸に成長。2020年3月期上期決算は新型コロナによる需要変化もあり、売上が伸長し、増収増益となった。

ニューノーマル時代を迎え、経営環境だけでなく個人の生活にも大きな変化が起こったが、「生活者の意識が家に回帰し、絶好のチャンスが到来しています」と語る鈴木社長。巣ごもり時間の増加で、衣類ケアの防虫剤、トイレの消臭芳香剤、冷蔵庫の脱臭炭などの需要が拡大。除菌・衛生意識の高まりから掃除や料理に使う使い捨て手袋、特に極薄タイプも伸長している。

顧客起点で主力ブランドを深化

創業者の三女である鈴木社長は、2013年に社長に就任。LVJグループ(現・ルイ・ヴィトン・ジャパン株式会社)でマーケティングを手掛けてきた経験を活かし、トップとして最初に掲げた方針は「ブランド価値経営」だった。

鈴木 貴子(エステー 取締役兼代表執行役社長)

「日用品業界の価格競争から脱却するには、高単価・高付加価値品の商品作りが重要と考えました。商品開発において大事にしているのは、『聞いてわかる、見てわかる、使ってわかる』をキーワードとした顧客起点での洞察です。お客様が日常生活でどのような商品を欲しいと思うのかを考え、常に新しい価値を提供することを考えてきました。その上で現在は身近な主力ブランドを使って、"隣接するカテゴリー"に進出する戦略を進めています」

その戦略が見事に機能したのが、寝具用ダニよけスプレー「ムシューダ ダニよけ」だ。衣類用防虫剤ブランドとして知名度の高い「ムシューダ」の信頼性に、除虫菊から抽出したダニよけ成分天然100%の安全性が加わったことで、アレル物質を気にする子育て世帯などから支持を獲得。2020年2月の発売から半年で、年間目標の38万個以上を販売した。

「新しい価値の本質を一目で伝えるため、パッケージデザインにもこだわりました。これまで、ダニよけ商品は殺虫剤メーカーが主で、殺傷力を想起させるインパクトの強いデザインが多かったのです。本製品は淡い水色と白の優しい配色と花の絵が入ったシンプルなデザインで、効き目の強さよりも安全性を前面に出しました。これにより、防虫剤売り場にしか置けなかったムシューダブランドが、布団やソファーなどの家具売り場やペットケア売り場などでも展開できるようになりました」

技術転用でBtoB市場に参入

主力ブランドの深化を図る一方、独自の技術力を活かして新市場の探索にも注力している。コロナ禍でまず取り組んだのが、ウイルス不活化だった。

「1日1回のひと拭きで1ヵ月間の除菌効果が持続する除菌スプレー「Dr.CLEAN+(ドクタークリーン)」を、2020年8月より学校や病院、介護施設などの業務向けに販売しています。お客様目線で考えると、プロの使用に耐えられる高品質の商品であれば、自分も使いたいと思うはず。業務用で価値を確立した上で、再度BtoCに戻すという戦略もありえます。BtoB市場への本格参入は以前から構想していましたが、新型コロナウイルス感染拡大を契機に2020年9月から業務用販売会社をエステーPRO株式会社に社名変更し、より細分化されたニーズに応える体制を整えました」

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