夢を実現するリーダーに必要な「事業をデザインする力」

パンデミックのなか企業価値が急上昇したテスラ。事業構想大学院大学 プロボスト・特別招聘教授の一條和生氏は、VUCAの時代に「計画に基づく未来創造」は機能しないと指摘する。いま求められるのは、夢の実現に向けて事業をデザインし、実現させる力をもつリーダーだ。

2020年3月、米ワシントンで開催された衛星産業関連のイベント・SATELLITE Conference and Exhibitionで講演したテスラモーターズCEOのイーロン・マスク氏

テスラの驚異的な時価総額

コロナ禍の企業界で世界的に注目を集めているのは、テスラの企業価値の急上昇である。新型コロナの感染拡大の中でテスラの株価は上がり続け、12月4日の段階で既に5500億ドルを超えている。テスラのCEOイーロン・マスク氏は1年半前に投資家に対し、テスラの時価総額は5000億ドルを超えることになると予想して投資家を煙に巻いていたが、まさにマスク氏の言った通りになった。テスラの時価総額はトヨタ、フォルクスワーゲン、GMの時価総額を足した総額よりも大きく、世界がどれだけモビリティの未来をテスラに期待しているのか、この事実からわかる。

2003年にイーロン・マスク氏がテスラを創立し、「世界の自動車を電気自動車にする」と語ったとき、この発言を信じる人は必ずしも多くはなかった。しかし今やテスラのフラッグシップ・モデルであるモデルSは社会的問題意識の高い富裕層の間で人気の高級車である。メルセデス、BMW、トヨタレクサス、ポルシェなど既存の自動車メーカーも、うかうかしていられないと、高級車の電動化を急いでいる。2019年のテスラの世界販売台数は37万台程度と、971万台のトヨタの足元にも及ばないが、その影響力は存在台数を遥かに上回る。

しかしマスク氏の活躍はモビリティの世界だけに止まらない。2020年11月15日、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗した新型宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げが成功した。クルードラゴンを手掛けたのは、これまたイーロン・マスク氏が2002年に設立したスペースXである。スペースXは2020年5月に新型宇宙船の試験飛行に成功し、今回の打ち上げ成功から正式運用の段階に入る。アメリカは有人宇宙輸送の開発と運用主体をNASAからスペースXら民間企業に移してコスト削減を目指し、新たな有人宇宙開発の時代に入った。イーロン・マスク氏がこの20年近く語り続けてきた「火星に移住する」という夢もついに実現するような雰囲気だ。マスク氏は12月1日に有人火星面着陸のターゲットを2024年から2026年に定めたと発言して注目を集めた。

夢を実現するデザインの力

イーロン・マスク氏の「世界の自動車を電気自動車にする」、「火星に移住する」といった無謀とも思える夢はなぜ実現するのか。そもそもテスラ以前から電気自動車のコンセプトはあったのだが、商業上の成功を伴う事業化にはなかなか至らなかったのである。もちろん、テクノロジーの進化は見逃せない。パナソニックなどパートナー企業と共に磨き上げたコンパクトで軽量なリチウムイオン・バッテリーは長い走行距離を実現し、モデルSなどテスラの売り上げ向上に大きく貢献した。走行中にソフトウェアのアップグレードを可能とするテスラ独自の「オーバー・ザ・エアー」技術は、電気自動車の世界をスマートフォンの世界に変えた。フルモデルチェンジはハードウェアが変わった時、マイナーチェンジはソフトウェアを通じて常時という、「ソフトウェア・ファースト」の世界にモビリティの世界は変わりつつある。しかしどんなに素晴らしいテクノロジーがあっても、それだけで事業が成功するわけではない。自分の思いに基づいて魅力的なビジョンを描き出し、それに共感する仲間を集め、彼らが一体となった強力な組織を作り上げる。ビジョンを効果的にコミュニケートして社会を魅了する。利害関係者に働きかけて、抵抗勢力、障害を克服し、政治力を発揮しながら社会を動かす。こうしたことができなければ、夢は実現しない。それこそ、事業成功に不可欠な構想力、つまり事業デザインの力とその実行の産物なのである。

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