欧州の地域づくりにみる、市民の「暮らしの意志」

地域の持続可能性という観点から欧州のまちづくり・制度を紹介してきた本連載。「持続可能な地域づくり」に最も必要な要素は、その土地に暮らす住民の「意識」だ。藤山氏は地域のあり方に対する住民の価値観の醸成が持続可能な地域の生命線だと指摘する。

ここまでの3回、ドイツ・オーストリアでの視察成果を基に、金融から始まりバイオマス利用、専門家活用といった多角的な視点から、エネルギーシフトと地域エコシステム再構築を促す仕組みを紹介してきた。最終回は、まちづくり全体にかかわる共通の基盤や制度、価値観に踏み込んで、持続可能な地域を支えるエコシステムのあり方を考えていく。

分散かつ分権的な地域構造が土台

日本では、エネルギーシフトを論議すると、とかく太陽光発電やバイオマス利用といった要素技術に焦点が当たってしまうことが多い。視察にしても、自らの専門性に合致する個別事例だけを見て帰り、「あれはすごい! 日本でも導入しよう」と主張しがちだ。もちろん、それぞれの技術的効率は重要であるが、個別最適を並べても、地域全体の持続可能性が向上するとは限らない。野球に例えれば、4番バッターばかり9人並べても、よいチームにはならないのだ。肝心なことは、地域内での相互組み合わせであり、そうした全体最適に向けて進化していく基盤をその地域が育てているか、否かである。

ドイツ・オーストリアを訪ねて気づくのは、日本のような東京への一極集中や地方の過疎化が進行しておらず、地方分散と地方分権が徹底していることだ。例えばドイツにおいて、人口100万人を超える大都市は、首都ベルリン(361万人)、ハンブルク(183万人)、ミュンヘン(145万人)、ケルン(108万人)とわずか4つしかない。「平成の大合併」のような集権化も行われず、人口数百から数万の小規模自治体が多く存在し、落ち着いた美しい暮らしの舞台となっている。このような分散的な居住形態と分権的な自治方式が、分散的かつ多様な形態の再生可能エネルギー活用の基盤となっている。自己決定権が保証されていない地域で、自分たちに適合するエネルギー選択を長期的な視点で行うことは、きわめて難しい。

2017年時点のドイツで、再生可能エネルギーが電源構成の30.5%を占めるまでに至ったエネルギーシフト(日本は同年8.1%)の土台は、こうした分散的かつ分権的な地域構造にある。

まちづくりを担う「暮らしの意志」

ドイツ・オーストリアの自治体で、日本のように郊外へ野放図に大型店が進出し、中心市街地が「シャッター街」となっているところは、まず見当たらない。

例えば、オーストリア西部の山間の自治体、クフシュタイン(人口1万9000人)も、伝統ある中心部の素敵な街並みが賑わっている(下写真)。こうしたまちづくりを根底で支えている共同精神は、街の主人公が他ならぬ住民自身であるという自覚であり、美しい日々を自ら実現していく「暮らしの意志」だ。

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