デジタルベースの関係人口づくり e-県民制度で移住につなぐ

人口減少に危機感を抱いた兵庫県は、兵庫にゆかりのある人々の将来的なUIJターンを促進するため、e-県民制度を立ち上げ、デジタルベースの関係人口づくりを開始。楽天IDの活用によって、関係人口づくり、特産品の販売と移住促進を一気に実施する。

兵庫県企画県民部地域創生局の藤原 篤実氏、中井 寛之氏

瀬戸内海から日本海まで、本州を帯のように占める兵庫県。大都市・神戸を抱え、世界遺産・姫路城を持つ同県でも、人口減少は深刻な課題だ。特に20代~30代の若者の流出が心配されている。兵庫県は大学の数で全国5番目にランクインしているが、大卒後の若者の多くは、力を発揮する場を求めて他地域へ羽ばたいていく。

各界で活躍する兵庫県出身者、あるいは県内で学生時代を過ごした人たちとのつながりを維持しつつ、いずれは戻ってきてもらうこと。兵庫県はこれを目指し、デジタルデータを活用した取り組みを進めているところだ。兵庫県企画県民部地域創生局の藤原篤実氏、中井寛之氏に話を聞いた。

デジタルデータを活用し
関係人口を目標の1.5倍に

兵庫ゆかりの人々にコンタクトを取る方法は、近年まで限られていた。各地域の県人会や、高校・大学の同窓会にアプローチするか、鉄道広告や新聞広告で多くの対象に訴える。しかし、これらの手法では本当に必要な情報が届く人数は限定され、情報発信の効果を測定することは難しい。

そこで兵庫県では2018年、「ひょうごe-県民制度」作りと登録者募集に着手した。居住地は別の場所でも、e-県民証を取得することで、兵庫県のファンとして県とのつながりが維持できる。同事業を楽天と進め、e-県民証には楽天Edyカードの機能も付与された。県民証は、買物の際にEdyを電子マネーとして使用できる。利用額の一部は兵庫県に寄付され、e-県民として地元に貢献するしくみだ。

e-県民募集にも、デジタルの新しい手法を導入した。楽天会員の分析データを用いてターゲットを絞り、兵庫県と関係のありそうなユーザーに楽天サービスを活用して重点的に情報発信した。2019年度にe-県民制度の広報を担当した中井氏は「まずはe-県民登録者数を増やすために、対象を絞り、楽天会員向けに告知を行いました。その結果、登録者は3万1000人と、令和元年度目標の1.5倍を達成しました」と話す。

登録者を増やすにあたっては、楽天の幅広いサービス利用者から、それぞれの特性を考慮してターゲットを設定。例えば、「楽天トラベル」で兵庫県の温泉地をたびたび訪問する層は、既に県のファンである可能性が高く、e-県民として有望な可能性が高い。ゴルフ場予約サービス「楽天GORA」を使い、県内のゴルフ場を頻繁に訪問している層にアプローチできれば、引退後の移住先として県に目を向けさせることができるかもしれない。藤原氏は「楽天は幅広いチャネルを持つ分、登録者とのつながりを維持しやすい。今後はより絆を深めるマーケティングを、登録者を対象に実施したい」と語った。

e-県民は、そうでない人よりも県に対する思いが強いことは、データからも明らかになっている。楽天は、2019年度末に、兵庫県の関係人口の中でe-県民登録者とそうでない人を比較する分析を実施した。すると、e-県民登録者の方がそうでない人よりも積極的に兵庫県を旅行で訪問したり、ふるさと納税を含めた兵庫県に関連した商品を楽天市場で買ったりする傾向があったという。

自治体と地元EC企業の連携で
地域の稼ぐ力を強化

さらに、2019年12月には、楽天市場に兵庫県公式アンテナショップ「ひょうごマニア」を立ち上げた。これは人気ネットショップ、イーザッカマニアストアーズを運営するズーティー(神戸市)が運営する、兵庫県産の食品・飲料・雑貨などの特産品100点ほどを販売しているネットショップだ。イーザッカマニアストアーズは、アパレル通販の老舗で、楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーを複数回受賞しており、若い女性に絶大な人気を誇っている。食品などの販売は未知の分野だったが、ECで積み上げてきた実績を見込まれた。

ズーティー取締役の浅野かおり氏(左)は、地元の生産者を訪問・取材してひょうごマニアのコンテンツを制作している

ズーティーが蓄積したノウハウを生かして開店した「ひょうごマニア」は、ECサイトとして顧客の心をとらえ、多くの商品を売れるデザイン・構成を取る。その目標は、ここでショッピングをした人が、県の魅力を再発見し、兵庫県をさらに好きになり、「いつか訪れたい」と考えるようにすること。兵庫産の商品であることを自覚して買ってもらえるよう、生産者へのインタビューなどのコンテンツも豊富に掲載している。

ズーティー取締役の浅野かおり氏は、「神戸市出身者として、『県民』というよりは『市民』の意識の方が強かった。旧五国が集まって1つの県になっている兵庫県は豊かな産品を持つが、県民自身がそれを知らないケースは多いと思う」と振り返る。「ひょうごマニア」を運営するにあたり浅野氏自身も、淡路島の玉ねぎ生産者に取材に行き、身近なはずの玉ねぎの新たな一面に出会ったと言う。今後も兵庫県の産品の良さや、改めて気づいた魅力がつまったECサイトへと育てていく計画だ。

これまで多くの商品を販売してきた地域の有力EC店舗と地域がタッグを組めば、これまでとは異なる視点で地場産品の魅力を紹介し、販売を拡大できる。両者をつなぐことができるのが、幅広いサービスを持つプラットフォーム企業としての楽天の強みだ。

楽天との地域コミュニティづくりが
移住人口の増加施策に直結

2020年度以降の目標として、兵庫県では、e-県民登録者のさらなる増加、スマホアプリの機能追加、そして既にe-県民登録した人との関係の強化を掲げている(図1)。「ひょうごマニア」を活用し、e-県民と兵庫県の生産者の絆をさらに深めることも目標の1つ。2019年度には、e-県民専用クーポンを発行し、「ひょうごマニア」での買物を促す取り組みを試行した。今後はさらに精度を上げ、e-県民と兵庫の接点を増やし、兵庫県への来訪を促す。

図1 兵庫県と楽天が目指すゴール

※楽天サービスを使って県産品の購入や旅行をするユーザーを関係人口層と定義

出典:楽天の資料を基に編集部作成

 

既にe-県民登録者へのイベント告知は、集客の強力な広報チャネルとして機能している。「首都圏在住者向けの移住バスツアーの参加者は、以前は募集してもなかなか席が埋まらなかった。しかしe-県民登録者向けに募集をかけたところ、2時間で満席になりました」(中井氏)。今後も楽天の分析データの活用によって、e-県民のさらなる会員増加、関係強化をおこない、具体的に移住を検討する段階になるように、各個人に合わせたアプローチを推進していく。

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