2019年12月号

新規事業開発のための広報視点

人を活かし組織を変える「インターナル・コミュニケーション経営」

柴山 慎一(社会情報大学院大学 教授、日本広報学会 理事長)

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昨今のネット社会の進展とソーシャルメディアの浸透に伴って、個人がメディア化している今。会社のブランドイメージを高めるインターナル・コミュニケーションが注目されている。その重要性を指摘する経営者も多く、企業コミュニケーションのあり方も変化しつつある。

会社とは何をするところでしょうか? ヒト、モノ、カネといった経営資源をインプットし、それらに付加価値をつけてアウトプットするところ、と考えるのが一般的でしょう。ここに他社との差別化を取り込み、具体的に表現したものが「ビジネスモデル」です。

また、社会から人材を預かって育成し、その結果として成長した人材を輩出するところ、と考えることもできます。人材が成長していく途上で、様々なアウトプットがなされ、その成果に対して対価を獲得し、結果として売上や利益を生み出します。この考え方を具体的に表現したものを「人材育成モデル」と呼ぶことができるでしょう。さらには、社会から情報を広聴によってインプットし、その情報に付加価値をつけて広報によってアウトプットするところ、と考えることもできます。ここに他社との差別化を取り込み、具体的に表現したものが「コミュニケーションモデル」です。

この中のひとつのプロセスとして、インプットした情報に社内で加価値をつける活動のことを社内広報活動、いわゆる「インターナル・コミュニケーション」と呼びます。このように考えると、自社ならではの違いを明確にし、強いブランドをつくる上では、どのような対外情報発信をするかよりも、インプットした情報に対して、社内においてどのようにして付加価値向上を図っていくかの方が大切であると気づきます。インターナル・コミュニケーションの成果次第で、会社のブランドイメージを高めることができるわけです。

社員の発信力を有効活用する

多くの会社では、社員一人ひとりが持つ社外との接点を意識し、社員の情報発信力を有効活用するべく、インターナル・コミュニケーションに力を入れ始めています。広報部が唯一の情報発信拠点であった従来型のコミュニケーションモデルはすでに崩壊しています。

また、所有から利用へとビジネスモデルが変化する中、製造業や流通業などの従来型の多くのビジネスモデルがサービス業化してきています。サービスとは、社員である人間が提供するものです。社員の満足なくして顧客の満足は得られません。社員の確かな経験があってこそ、顧客にその経験が伝わるものです。

同じように、しっかりしたインターナル・コミュニケーションが実践されてこそ、対外的な情報発信が機能します。ビジネスモデルの変化に伴って、求められるコミュニケーションモデルも変化してきているわけです。

このような社会の変化に伴って、インターナル・コミュニケーションに対する関心が高まってきています。

経営戦略の効果的な実行へ

多くの経営者がインターナル・コミュニケーションに早くから注目していました。以下に、実際にその重要性について述べている発言をまとめました。

● NTTデータ 山下徹元社長

インターナル・コミュニケーションとは経営そのものである。インターナル・コミュニケーションの活性化によって組織のエントロピーが上昇し、イノベーションにつながる。イノベーションが活発になると組織が活性化して、それにつれてインターナル・コミュニケーションも活性化する。そんな好循環のきっかけをつくるのが経営の役割ではないか。

● 伊藤忠商事 岡藤正広会長

社長室にずっといるのでは、分からないことがたくさんあるので、いろんなところへ行ったり、社員とも一緒に飲んだりしてよく話をするわけです。そこで出てくる話には、なるほどと思うことがたくさんあります。

● 西武ホールディングス 後藤高志社長

経営で一番大切なことは、ビジョンの浸透だといっても過言ではないと本気で思っている。

 

このように、インターナル・コミュニケーションの重要性を経営トップ自身が認識し、経営改革の中核に据えているケースが増えてきています。従来型の社内広報という枠組みを超えた、このような経営が実践されている事例を見聞きすることが増えてきました。そこで、「トップマネジメントがインターナル・コミュニケーション活動を経営の中核的企業行動のひとつとして捉え、日常的な経営の仕組みや仕掛けに組み込み、経営戦略を効果的に実行すること」を「インターナル・コミュニケーション経営」と呼ぶこととし、同じ考えを共有している研究者や実務家とともに、日本企業に対する問題提起を展開しています。

組織課題を解決するには

「インターナル・コミュニケーション経営」ができている会社とはどのようなものでしょうか。そのひとつの事例としては、理念・ビジョンが会社の末端にまで浸透し、社員一人ひとりが「自分ごと」とし、日々の活動の中で実践されているような経営が挙げられます。「理念・ビジョンは、きちんとあります。社長室の額に入れて飾ってあります」というレベルではなく、「理念・ビジョンが日々実践されています。社員の日常の言動にそれが自然と表れています」というレベルに到達するまでには多くのハードルがあります。

理念・ビジョンが浸透し実践されている成功事例の共通点を探ると、それぞれの企業のステージを意識して、トップ自らが一つひとつ丁寧に施策にコミットし、地道に浸透を図っていました。このプロセスでは、前述のように理念・ビジョンを社員一人ひとりの「自分ごと」にするというハードルを乗り越える工夫が重要であることが分かっています。

インターナル・コミュニケーションとは、良い社内報を制作することだけではありません。あらゆる組織には組織課題があり、それを解決するためにインターナル・コミュニケーションが求められているのです。有名な経営学者チャンドラーが「戦略が組織を規定する」という命題を挙げていますが、ここでは「組織課題がインターナル・コミュニケーションを規定する」という命題を掲げておきたいと思います。

 

 

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