「里山十帖」が旅人を魅了する理由 宿をメディアに地域を表現

世界中の旅人を魅了してやまない温泉宿「里山十帖」。古民家をリノベーションし、地域を発信する場として蘇らせた。「宿はメディア」という発想にもとづく宿泊業のあり方を体現している。

里山十帖のレセプション棟は元庄屋の建物。20数年前に隣町から移築したものだ

岩佐 十良(自遊人CEO、クリエイティブ・ディレクター)

雑誌編集から旅館経営へ

築150年の建物をリノベーションした館内は、風情と心地よさが同居する空間。料理には新潟の伝統野菜がふんだんに使われ、大切にしたい日本の食文化を教えてくれる。宿の中で出会う発見と体験の1つひとつが、地域の魅力を語り、暮らしへの問いを投げかけてくる。里山十帖は、そんなライフスタイル提案型の宿泊施設だ。

2014年5月にオープンした里山十帖はすぐに国内外の旅行者から支持され、同年度のグッドデザイン賞を受賞。地域を表現する新しい宿泊業のスタイルを確立させた。

そもそもの始まりは一本の電話。雑誌「自遊人」の岩佐十良編集長のもとに、廃業する旅館を譲り受けないかという相談が舞い込む。雑誌編集と宿泊施設の経営。全く異なる分野のビジネスだが、「雑誌と同じく、宿もひとつのメディアです」と岩佐氏は語る。

「何かを伝えようという意思を持ったものは全てメディアだと、私は考えます。例えば食べ物ひとつ取ってみても、単なるモノとして販売すればメディアにはなりませんが、どういうストーリーを伝えたいのか、どんな人に食べてもらいたいのかと考え始めると、その食べ物がメディアに変わるのです」。

メディアは時代とともに、その形を変化させてきた歴史がある。今や数多くのインターネットメディアが存在するが、インターネットが普及し始めたのは約20年前。雑誌も、国内にカラー印刷が普及したのは30~40年前である。いつの時代もメディアは目まぐるしく変化しているのだ。

「新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・インターネットをまとめて5媒体と呼びますが、私はそこに『リアルメディア』という6つ目の媒体を加えたい。味覚や匂いといったネットでは絶対に届けられない情報を伝えるリアルメディアに注目することは、むしろ時流に合った動きだと考えています」。

「何かを伝えようとすることでメディアになる」という岩佐氏の言葉の通り、里山十帖のホームページには「食」「住」「衣」といった10のテーマ別に綴られた「さとやまから始まる十の物語」という文章が掲載されている。細部にまで込められた思いやこだわりを読むと、里山十帖を実際に体験してみたいという気持ちが膨らんでくるのだ。

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