2019年9月号

新規事業開発のための広報視点

広告が炎上しないように 発信者に必要なリテラシー

吉岡 三重子(社会情報大学院大学 助教)

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近年、広告が物議をかもす事態が増えている。急速に変化・多様化する現代において、広告・広報活動を行ううえで必要な力も変化している。情報発信者には、今、新時代のリテラシーが求められている。

情報を発信するものとしての責任

人にインパクトを与える広告づくりは簡単なことではない。CM、新聞広告、駅や電車のポスター、web上のバナー広告と、広告は至るところに溢れている。その中で、対象者に気づかせ、関心を持たせるような言葉を創りださなければならない。

しかし、広告が物議を醸すことも少なくない。東京・銀座の呉服店「銀座いせよし」が2016年に公開した広告「ハーフの子を産みたい方に。」この広告に対し、SNS上で「私達はペットでも人形でもありません。この屈辱を想像出来ますか?もううんざりです」といった声に始まり多くの批判が殺到、結局同店はその広告の掲載を中止した。広告を担当したコピーライターは、東京コピーライターズクラブで新人賞を受賞していた。店側は、「これまで着物にあまり関心を持たなかった方にも目を向けて頂きたいという意図で制作した」と説明した。

たしかに、広告を作成したコピーライターも、それを採用した店側も悪意はなかったのかもしれない。まさかこんな議論を巻き起こすことになるほど批判が殺到するとは思ってもいなかったはずである。受け手が共感する、そして購入に結びつくと考えたから広告を制作したのだろう。

父母どちらかが外国籍の子どもの出生数は、日本ではここ20年で2万人前後で推移しており(厚生労働省「人口動態調査」より)、国内だけでもおよそ84万人いると推計されている。「英語はしゃべれるの?」「日本人らしいですね、日本に来て何年になるんですか?」「うらやましい」「ハーフだから付き合った」こうしたさまざまな言葉により、自分とは何なのか、自らのアイデンティティに悩んでいる人は少なくないそうだ。社会が多様化し、スポーツ選手をはじめ父母どちらかが外国籍の子どもたちの活躍が著しい一方で、「ハーフは日本人ではない」というステレオタイプな眼差しはそれほど変わっていないと言われている。

これまでメディアや広告で創られてきた「ハーフ」のイメージは「モノ」化されている。「かわいい子どもを産みたい」といった外見の良さに偏った価値を置き、その広告を見て共感する人は残念ながらいるかもしれない。しかし、共感する人、すなわち売りたい対象が一定数いれば何をやってもいいわけではない。ましてや、問題が起こったとしても「謝れば済む」ほど世間は甘くない。当事者にとって傷つけるつもりがなかったとしたら、それが問題なのである。この広告を作成し、評価し、使用した当事者たちは、「ハーフ」という言葉が持つ差別性にどのくらい気づけていただろうか。日常生活でよく口にされ、誰もが共感するだろうと考えても、その考えは本当に正しいか、まずその"前提"をよく疑ってみる必要がある。組織の名を背負い、不特定多数の人たちに発信する者としての責任は相当に重い。だからこそ、やりがいのある仕事なのである。

広告・広報に共通するエッセンス

広告と広報は、似て非なるものである。端的に違いを示せば、広告は料金を支払って対象者に自分たちが伝えたいメッセージを送ること、広報は自社を正しく社会に認識してもらい、知名度を上げることである。広報は、メディアなど第三者に取り上げられやすい情報を発信しなければならないため、必ずしも自分たちが伝えたいメッセージを発信できるとは限らない。すなわちメディアの選択や判断に委ねられるわけだが、第三者により伝えられる情報は自ら発信する情報よりも信憑性が高くなる。

他方、広告においても、従来の一方的な宣伝広告では効果が出にくくなっている中で、受け手に自然な形で周知してもらえるような広告を配信することが主流となっている。たとえばインターネット上の記事には本文とそっくりな広告も多く、本文を読んでいたらいつの間にか広告を読んでいたということも少なくない。

広告・広報どちらにしても、自分の所属する組織や商品、サービスをより多くの人に知ってもらうことを目的としている。そのためにメディアを活用して情報を発信するのである。最近では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やオウンドメディア(自社運営メディア)を通じて自ら情報を発信することもできるようになっている。情報も媒体もその方法も多様化している中で、誰に、どのように、そしてどんなメッセージを発すればよいか、ということは慎重に検討しなければならない。モノがあふれ、価値観が多様化し、また急速に変化していく現代において、安易な発想で情報を発信するのはあまりにもリスクが大きい。自分たちが打ち出したい"もの"の良さを伝えるために何ができるか。変化の速い今の時代だからこそ、入念な計画と準備が必要である。

点ではなく線で見る

より多くの人の注意を惹き、関心を持たせ、注目を集める。広告作成や広報活動において、自由な表現や奇抜なアイデアを生み出す「創造力」は欠かせないものだろう。

しかし、それと同じくらい重要なのが「想像力」である。自分たちの発するメッセージが社会においてどのように捉えられるか、その意味をどのくらい真剣に考えただろうか。自分たちの発信したメッセージが不特定多数の誰かを傷つけるかもしれない、社会問題に発展するかもしれない。そのイメージをどれくらい持てただろうか。

社会が多様化し、以前よりも配慮しなければならないことは確実に増えている。また、情報技術の発達、インターネットの普及により、誰でも簡単に声をあげられるようになった。そうした現代において、"組織の看板を背負った情報発信者"である私たちに何ができるだろうか。「そのとき」、「その場かぎり」ではなく、メッセージを発した後に起こりうるあらゆる反響・反応を十分に"想像"しなければならない。「点」ではなく「線」として物事を考えていくことが必要である。

時代の変化をとらえ、「想像力」を鍛える。情報を発信する者として、あらゆることを"想像"する。そのためには幅広い、たくさんの知識や教養が必要である。情報発信者として想像力や専門性を一緒に高めていきませんか?

 

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