情報クラウド化とRPA活用で改革推進 市民に行政サービス還元

民間企業で導入が進んでいる先端ICTは、まだ公共サービスでは導入が進んでいない状況だ。情報システムの共同化や、RPAを活用した事務作業の自動化を実現している三条市やつくば市の実践から、全国に先駆けた業務改革の実態を探った。

住民サービスの向上にむけたICT活用のあり方につき、改革の最先端が報告された。

住民の血税を使う意識があれば
共有化をやらない理由はない

新潟県下5つの自治体による情報システムの共同化が実現し、コスト削減や住民サービス向上、さらには庁内の働き方改革にもつながる効果を上げている。

プロジェクトを先導した三条市の國定勇人市長は、「自治体事務の多くは、法定受託業務など、市町村ごとのやり方に遜色ない定型業務であり、システムを統一できます。実際、5つの自治体が10年間(2015年~24年)個別にシステムを利用すると93億円のコストがかかりますが、共同クラウド化で47億円と約50%に削減できます。他の分野でこれだけの削減効果を得るのは難しいはずですが、県内の少なからぬ自治体でその可能性が看過されています」と語る。

國定 勇人 三条市長

システム共同化の壁となったのは、現場の職員の意識だった。今まで自分たちが携わってきた事務が変化することへの戸惑いや新システム導入への不安感が根強く存在していた。参画を決めた5つの自治体は、人口335人の粟島浦村から人口28万人の長岡市まで、全国一の業務規模、人口格差を含んでいる。國定市長が日頃から課題を共有し、実現に向けて歩調を合わせ、プロジエクトを前進させていった。

「首長同士のネットワークも後押しになりました。結果的には、規模にバラつきがあっても問題なく運用できることの証明になり、良かったと思います」(國定市長)。NTT東日本によれば、「たとえば、災害時に他の自治体から応援に入った職員でも共同クラウド化されていれば罹災証明の発行などがスムーズに行える」という。

「住民の血税を使っているという共通認識があれば、共同化をやらない理由はありません。最終的には、首長の覚悟にかかっています」(國定市長)。

失敗を恐れず始める
発想の転換で共創をスタート

国レベルの研究機関が集積する学術研究都市・つくば市。23.8万人の人口のうち約2万人が研究従事者、約1万人が外国人と、進取の気風と多様性に富んだまちだ。

8年前にセグウェイでの公道走行を許される「モビリティロボット実験特区」となったことを皮切りに、医療相談アプリを使って医師が市販薬についてアドバイスする遠隔医療相談の実証実験、視覚障碍者に地図情報を"聞こえる情報"として提供する音響型サイネージの開発、ブロックチェーンとマイナンバーカードを活用したネット投票など全国初となる試みも多く、「世界のあしたが見えるまち」という未来ヴィジョンを描いている。

つくば市が今、力を注いでいるのが、RPA導入による業務の自動化だ。定型業務の自動化にフォーカスし、作業時間の短縮とミスのない的確な処理を効率的に行えるよう改善し、市役所の働き方改革にもつなげることを目指している。

五十嵐立青市長は、「新しいことをやろうとすれば、必ず抵抗が出るものです。そこで実証実験に際しては、事業の拡大期に予算化するという前提でテクノロジー導入時は無料化を基本方針として、失敗を恐れず取り組もうと、職員たちに働きかけました」と語る。

五十嵐 立青 つくば市長

実践のキーワードは「スイッチ」だ。2017年10月からスタートした公共サービス共創事業は、イノベーションを始動するボタンを押すという意味と、新しい発想に切り替えると意味を込めて、「つくばイノベーションスイッチ」と命名した。公募型の共同研究という"お金ではなく知恵を出し合う仕組み"の官民連携で実証実験を進めている。提案があれば議会承認を待たずに年度中からでも始められ、スピーディな運用ができるという利点もあるという。

たとえば、NTT-ATのRPAツール『WinActor®』は、既存の業務プロセスに則して"シナリオ"をつくれば、複数のアプリをまたいで作業を自動処理するシステムを組むことができる。ベンダーに相談しなくても、現場をわかっている職員が自らシナリオをチューニングできる点が高く評価されているという。「市民税課での実証実験では、424時間かかっていた処理がRPAなら166時間で済み、約8割の時間削減になりました」(五十嵐市長)。

現在、5課25業務(令和元年5月22日時点)でRPAツールの運用を進めている。さらに、他の自治体と一緒にAI-OCRの活用も検討中で、削減できた時間は「人間にしかできない業務」に充てることで、より価値のある市民サービスの提供を目指すという。

デジタル人材を語る前に
アナログ段階での業務見直しを

講演後のセッションでは、ICT活用を推し進めるための人材や組織体制に議論が及んだ。

國定市長は、「ICTの活用や人材を語る前に、できるだけアナログの世界で業務内容や手順を見直し効率化を図れないか、その作業が本当に必要なのかを問い直すことが大切です。安易に『情報部門』に頼らず、首長が牽引して横串を刺せるプロセスを立ち上げることが肝心だと思います」と述べた。

一方、つくば市について、司会を務めた事業構想大学院大学の織田竜輔から、同市はもともとITスキルを持った人材が多いという基盤があるために、RPA導入や公募型の共創事業がスムーズに進んだのではとの問いがあった。

織田竜輔 事業構想大学院大学/社会情報大学院大学 産官学連携本部 本部長 兼 出版部長

それに対し、五十嵐市長は「つくば市で採用したRPAツールなら、ビジネス系のソフトが使える若い職員なら問題なく使いこなせます。むしろ大切だったのは、職員のワークライフバランス推進という文脈で取り組んでもらった点だと思います。技術に関しては、新しい=良いとは限らないので、持ち込まれた案件のリスクを見極める目利きのプロセスを丁寧にすることが大事だと考えています」と答えた。NTT東日本ビジネスイノベーション本部副本部長(当時)の原田清志氏からは、「自治体内の業務見直しや人材強化だけでなく、産官学連携でスマートシティづくりに取り組む事例も増えてきています」とのコメントがあった。

最後に國定市長が、「財政に余裕があるまちや比較的規模の大きな都市しかICTの活用を進められなくなる状況は、公共サービスの本旨に沿いません。アナログ過信にもデジタル過信にも陥らず、両者のバランスをうまく捉えていくことが市町村に与えられたミッションなのではないでしょうか」と述べ、セッションを締めくくった。

 

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