ICT活用で「情報発信日本一」へ 茨城県行方市

常陸国風土記にも詠われる有数の歴史と、美しい自然が息づく茨城県行方市。全市民が情報発信源となる「情報発信で日本一プロジェクト」の宣言から約4年。観光資源の発掘からスポーツツーリズム、スマート農業まで、地域に根ざしたICT活用が進められている。

鈴木 周也(行方市長)

地域密着のメディアを展開

茨城県東南部に位置する行方(なめがた)市は、東は北浦、西は霞ヶ浦という大きな湖に囲まれた地方都市だ。2005年9月に麻生町、北浦町、玉造町の3町が合併して発足以来、地域間で連携しながら、魅力あるまちづくりを行ってきた。

中でも注目されるのが、ICTを活用した取り組みの数々だ。鈴木周也市長は、「行方市の名前や観光資源を一人でも多くの人に知ってほしい。市民にも旧町の他のエリアに対してもっと関心を抱いてもらい、地域の魅力を全市民が共有できるようにしたい。そんな思いからスタートしたのが『情報発信で日本一プロジェクト』です」と話す。

市民の声をつなぐ架け橋となるのが、ICTをフル活用した「なめがたエリアテレビ」だ。地デジの空きチャンネルを利用した地上一般放送であり、全国の自治体で3番目(関東地区初)となるワンセグ・フルセグ両方への対応を実現した。テレビのほか携帯電話やスマートフォン、カーナビでも受信可能で地域密着のコンテンツを提供している。

例えば、災害時の避難情報など緊急速報をいち早く届けるほか、平常時には交通機関や道路状況、商店街の情報、市政ニュース、イベント告知、学校行事などさまざまな番組で構成され、地域のコミュニティを育んでいる。

また、情報通信課程のある大学(専修大学・茨城大学)と連携した番組づくりやCM制作、動画配信を行うなど、市民参加による独自のコンテンツづくりが進められている。

「地元の子どもたちがリポーター役を務めてインタビューする生放送もあれば、子どもたち自らカメラを回すこともあります。まちのユニークな地域資源を掘り起こすため、企画や台本づくり、取材・撮影スタッフも市民から募るなど、『地域メディアプロデューサー』を育成して自分たちの力で情報を発信しています。これらにより、子どもたちの想像力やプレゼン能力も培われます。本当の意味で地域の絆を深め、活性化への原動力になると考えています」

「なめがたエリアテレビ」は、子どもたちがリポーター役を務めたり、カメラを回したりすることも。市民参加による独自のコンテンツづくりが進められている

スポーツツーリズムで地域振興

鈴木市長は「地元の人は、行方市は観光資源が乏しいと言いますが、それは普段目にしている風景の素晴らしさに気づいていないからだと思います」と語る。

「782年建立の古刹、西蓮寺には樹齢1300年のイチョウの木がそびえ立ち、夕刻の天王崎公園に行けば湖面が朱色の幾何学模様に輝く美しい風景が広がります。夏の霞ヶ浦は真っ白な帆に風をはらんだ『帆引き船』が幻想的に浮かび、湖岸にはカメラを持った人たちが集まります」

行方市は観光振興に向けて、ICTを活用したスポーツツーリズムを進めている。既に民間では、走行データからランナーやサイクリストの位置情報を計測し、地図上に表示するアプリが開発されている。

近年、力を入れている観光事業の1つが「行方水辺サイクルネットワーク」の整備だ。市内全域にサイクルステーション、インフォメーションポール(16ヵ所)を設置し、「霞ヶ浦ふれあいランド」を起点に、霞ヶ浦湖畔沿いを走るサイクリングロードを整備した。

昨年はサッカーJ1、鹿島アントラーズのホームタウンである茨城県鹿行(ろっこう)地域で広域の観光戦略を描く「アントラーズホームタウンDMO」の活動も本格的に始まっている。

「昨年、DMOがインバウンドのサッカー合宿を成功させました。外国人観光客だけで2000組以上の宿泊を創出しています。また、今年の1月には、市内でのバスケット合宿も実現しました。今後もICTを活用しながら、DMOと共にスポーツツーリズムによる地域振興を実現させたいと考えています」

そして今年3月には、北浦湖畔1周の100キロマラソン「茨城100kウルトラマラソンin鹿行」が開催される。このイベントは、行方市、鹿嶋市、潮来市、神栖市、鉾田市の鹿行地域5市が協力する大型イベントであり、交流人口増と観光振興が目的だ。

「北は北海道から南は九州まで、海外選手を含めると、予想を超える規模の大会になると思います。コース中には絶景スポットも点在しますので、この機会に市の観光をPRしていきます」

行方市は湖畔沿いを走るサイクリングロードの整備など、スポーツツーリズムを推進しており、そこでもICTが活用されている

ICTを活用したスマート農業

行方市は、観光情報の発信にも力を入れている。

廃校になった小学校をリノベーションして造った体験型農業テーマパーク「なめがたファーマーズヴィレッジ」には、特産品であるサツマイモをメインにしたやきいもミュージアムや、マイナス30度の冷凍庫に入る驚きの体験ができる工場見学などが親子連れに好評だ。

「なめがたファーマーズヴィレッジをはじめ、市を代表する6施設を合わせると、62万人を超える観光入込客数(2017年)を記録しています」

さらに、行方市では、ICTが農業の効率化・活性化にも寄与している。

「農業者の人手不足は年々深刻化しています。農作物の被害を防ぐためのイノシシ対策をはじめ、重機の無人化やロボット技術、ドローンを活用したスマート農業にもこれから取り組んでいきます。ICTは農業の効率化と生産性向上を図るうえで不可欠となっています」

肥沃な土壌を有する行方市だからこそ、これからは経験や勘に頼る手法からデータに基づく農業の生産管理が求められる。その基盤づくりをどう進めていくか。

鈴木市長は、ICTに強みを持つ民間企業やベンチャーと連携しながら、ICTの活用をさらに拡大していく考えだ。