政治家を狙ったスクープが絶えない理由 メディアの未来像は?

約30年間にわたり政治に関する取材を担当してきた毎日新聞論説室・専門編集委員の与良正男氏。「時代を読む 日本政治のゆくえ」というテーマで、政治をめぐる報道のあり方などを解説した。(10月25日、社会情報大学院大学の講義から抜粋)

与良 正男(毎日新聞 論説室 専門編集委員)

講義当日(10月25日)の毎日新聞一面トップは、内戦下のシリアで拘束され、3年4カ月ぶりに解放されたジャーナリスト・安田純平さんに関する記事。与良氏によると、イラク戦争以降多発している日本人の人質事件をめぐって、日本国内の世論も変化してきた。

初の事例が2004年にイラクで発生した日本人3人の拘束事件。国内では、3人が解放される前から「危険な国に勝手に行った人が悪い」とした"自己責任論"が叫ばれるなど、バッシングが起きた。報道によって被害者宅が特定され、嫌がらせの手紙や電話が多数届くなど、報道被害もあった。安田さんの件では、この時の教訓や安倍政権の影響で、かつてのような過度なバッシングはなかった。「時代の流れを感じる」と振り返った。

ジャーナリストとしては、フリージャーナリストに負い目があるという。「新聞やテレビは組織であり、何かあったら幹部の責任問題になるため、命の危険がある"最前線"で取材することは極力避けざるを得ません。その穴を埋めてくれているのがフリージャーナリスト。安田さんのような方がいるからこそ知り得る情報があるのです」。

ニュースに適した発信媒体に

このところ、政治家を狙ったスクープが目立つ。週刊誌がひとたびスクープ記事を書けば、翌朝には各民放テレビ局を中心に大きく取り上げられ、ネットでも拡散される。そんな現象が日常となった背景とともに、具体例を交えながら、なぜ政治家を狙ったスクープが絶えないのかを解説した。

理由のひとつに、民放による視聴率競争がある。視聴率は刻々と変化し、放送内容によっても変動する。当然、視聴率が下がれば、収入にも影響しメディア経営の収益基盤を揺るがすことになる。

収益先行型の報道に揺れるメディアだが、与良氏は「"どういう報道をしていきたいのか"を明確にしてコンテンツを制作し、そのニュースに適した発信媒体を使い分けることが重要になる」と指摘する。新聞社も同様で、「紙」を主たる媒体としつつも発信媒体は多様化している。新聞社もネットへ進出したり、デジタル関連の企業との連携や協業をしたりと新たな動きが盛んになりつつある。

メディアが問われていること

今後のジャーナリズムにおいてさらに重要な点として、与良氏は「ニーズは少ないものの、人やお金といったコストをかけてでも伝える必要のある"ダウントレンド"をいかに報道していくか。メディアは今、報道と向き合う姿勢を問われている」と説明する。

視聴率になぞらえて言えば、「重要性は高いが、視聴率がとれない。それでも報道すべきこと」をいかに伝えるかが問われている。なおかつメディアの姿勢だけでなく、着実に収益を上げられる新たなビジネスモデルの確立が急務となっている現状があるのだ。

メディアとのリレーション
どのように築くべきか

社会情報大学院大学には、4マス媒体の新聞・テレビ・雑誌・ラジオのほか、ネットメデイアや各種専門メディアの幹部・編集長をゲスト講師として招聘して行う講義がある。履修している院生は、企業や自治体の広報・マーケティング・宣伝や経営企画など、コミュニケーションをデザインし、実行を担う人である。

メディア・リレーションシップは、院生にとって、非常に重要な課題となっているが、そのためには、まず、メディアがどのような考え方をして情報を発信しているか、直面している課題は何かを理解する必要がある。大学院では、理論を学ぶとともに、メディアの現役キーパーソンに直接講義していただき、肌感覚でも理解できるようにカリキュラムを構成している。

実践と広報計画書策定に生かす

講義は、少人数で行われているため、院生は、質問や意見交換を存分にできる。多忙なメディア幹部や編集長と接点を持てる機会自体が貴重であり、自身の業務に落とし込めるヒントを探す場にもなっている。

2年間の修士課程では、最終的に学術論文を書き上げるのではなく、自身の組織でのコミュニケーションの基本設計書とも言える「広報計画書」を策定する。実践を重視した講義はその礎にもなっている。

講義風景

 

 

与良 正男(よら・まさお)
毎日新聞 論説室 専門編集委員