イオンモールの地域活性 本学で「コミュニティカフェ構想」育む

「イオンモールは、地域とともに『暮らしの未来』をつくるLife Design Developerです」が経営理念。野口氏は「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」イオンの基本理念を踏まえながら、地域に根ざした店舗運営を構想し続けている。

野口 耕司(イオンモール高崎 ゼネラル・マネージャー)東京校2期生(2013年入学)

野口氏はイオンモール本社に勤務しながら事業構想大学院大学に通い修士号を取得した。

元々社内には経営管理学修士(MBA)への派遣制度もあるなか、地域社会と関わった事業の展開、地域活性化に資する事業のあり方を学びたいと、本学の門戸を叩いたという。

「事業運営に行き詰まったときは、今も当時の講義ノートを見返しています。アカデミックな視座とビジネス的な見方の双方を養うため、岩田修一先生の技術革新と経済論、江端浩人先生のデジタルマーケティング、酒井穣先生の人的資源管理論、天明先生のファイナンスは今でも大いに役立っています。また理事長・総長である東英弥先生の『事業に臨む精神』や、修士課程の修了要件である事業構想計画書の執筆では、論理的思考の展開に苦労しましたが、次のステップを見定めるときに大きな支えになっています」(野口氏)。

野口氏は2015年からイオンモール高崎で店舗運営を統括する。店舗は開店12年目を迎え、地域のニーズを汲んだ大型活性化を考えている。

イオンモール高崎の店舗外観。背景に長野県域の山々を望む

「群馬県高崎市は北関東の代表的なベッドタウンで、人口増加地域です。モール内ではお買い物を楽しむばかりでなく、避暑などのため涼む高齢者が多数おられ、遊園エリアは子どもの遊び場となっています。

これは自然発生的に出来上がった、結果としての『まちづくり』です。だからこそ弊社は『社会的な公器』として事業を永続的に発展させる使命があると考えています。

そもそもイオンモールの目指す理念は『ハピネス・モール』です。リアル店舗の魅力は、ネット通販での購買と異なり、買った品物を相手にプレゼントするときの感動、そして喜ぶ相手のために選ぶ楽しみが根底にあります。対面での接客から、小さな感動のきっかけを日々いくつも生み出していくことが、地域に不可欠な存在として根づくことにつながると考えています」(野口氏)。

店舗入口に集合した従業員一同と地域住民

店舗10周年を記念した「ゆるキャラ」と共に

小売業を通じたコミュニティ形成

修了時の論文として提出した「コミュニティカフェ構想」は、イオンモールが目指す「地域社会との共存」にも共通点を持っていた。

「イオンの基本理念は『お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する』というものです。あらゆる活動の原点は『お客さま』であり、『平和』であるからこそ産業が成り立つ。弊社は、日本や中国、アセアンなどに約200のショッピングモールを展開し、新たなお買い物体験の価値創造に加え、雇用機会の創出、事業機会の提供などを通じ、地域経済の一翼を担ってきました。

一方で、少子高齢化の進展や地域社会の変化の中で、『地域を今一度元気にする』草の根コミュニティに対して、イオンモールならではの取り組みも求められていくものと考えています」(野口氏)。

とは言え、大企業の中で現状に落ち着くことなく新しい事業を提案し続けることは容易ではない。野口氏は、構想とその模索を通じて経営陣に提案し続けるタフネスが身についたと語る。特に「アイデアの萌芽を見出し、周りを巻き込んで進化させる力」は事業構想大学院大学の演習の中で培われたと振り返る。

「人は理論により説得こそされますが、実際に行動へ移すきっかけとなるのは『感情』だと言われます」。どのように経営陣の了解を得、お客さまの共感を得るのか。論理は短時間でも相手に伝わるが、共感を得るには時間と手間が掛かる。度重なる社内会議でのプレゼンテーションに登壇したほか、仮説を立て、店舗を往訪する顧客に対して実際に質問することも、繰り返し試したという。

「サラリーマン」として所属企業と
社会に貢献する事業を

事業構想大学院大学に通う大学院生は、誰もが自身が経営を主導する立場にある人材ばかりではない。野口氏のように大手企業に所属し、社内の新規事業担当として派遣される場合もある。

「サラリーマンは異動までの期間がありますので、最初から最後まで自身でサイクルを決めて事業をやりきる事が難しい事情はあります。在学時から、日々の業務では、営業上のタイムスパンに沿って物事を考え、期間ごとの成果を出すように心がけてきました。

3カ月先の企画から、3年先・10年先を見越してアイデアを出して『計画・実行・チェック・改善(PDCA)』を繰り返していく。それを実現するために社内外のタスクを組んで進めることも『サラリーマン型』事業構想修士の一つのあり方ではないかと思います」(野口氏)。

イオンモール高崎は、かつて軍用機の飛行場であった敷地の一端に店舗を構えている。2018年7月にはドキュメンタリー映画『陸軍前橋飛行場』試写会を店舗内の映画館で開催した。商業施設の屋上で高齢者に往時を語っていただくカットも撮影したという。「イオンの基本理念にもある通り、『平和』だからこそ田畑と私どもの商業施設が存在している。その大切さを振り返り、将来の事業を推進していきたいと考えています」(野口氏)。