IoTを農業へ応用 水やり・施肥の自動化でハウス農家の効率改善

IoTの技術メーカーが開発した、中小農家向け土壌環境制御システム「ゼロアグリ」。水やりと施肥を自動化し、農家の負担を軽減するとともに、データに基づいた栽培ノウハウの確立を可能にする。日本だけでなく、水不足や環境汚染の問題を抱えるアジアの農家への拡大も視野に入れる。

佐々木 伸一(ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長)

2017年の農業就業人口は、181万6000人。2010年から2017年の間に約80万人減少した。日本の農業を維持するためには、年6万人の新規就農者をさらに増やし、そして新規参入者でも堅実な収穫と収入が得られるしくみを確立する必要がある。

ルートレック・ネットワークス(以下ルートレック、神奈川県川崎市)は、「養液土耕」もしくは「点滴灌漑」と呼ばれる農法とICTを組み合わせた、「ゼロアグリ」を農家に販売している企業。ゼロアグリは、日本の大多数を占める家族経営の農家において活用できるスマート農業システムで、2018年2月には、日本ベンチャー大賞農林水産部門を受賞している。

IoTを農業へ応用

2005年に創業したルートレックは、当初は「M2M(マシン・トゥー・マシン)」技術を研究し、開発したプラットフォームを企業向けに提供していた。M2Mとは、様々な産業用の機械を無線ネットワークで接続するもので、現在はIoTと呼ばれている概念を先んじて実用化したもの。燃料電池や、産業用車両、ヘルスケア機器等、様々な業界にサービス提供していた。

同社が農業システムに参入したきっかけは、リーマンショックだ。「60社あった取引先が数社にまで落ち込むという厳しい経験をしました。この時に、エンドユーザーと直接、やり取りができるビジネスをしたいと考えました」と、同社社長の佐々木伸一氏は話す。

2011年には、総務省の広域連携事業に採択され、自社技術を農業分野に転用する機会を掴んだ。これは「ICTを利活用した食の安心・安全構築事業」プロジェクトで、ITを使って収集したデータで「農業の見える化」に取り組んだ。このプロジェクトを通じて、農業システム市場にブルーオーシャンを発見したと佐々木氏は言う。

「普通のハウス農家が年間の設備投資に使える金額は、数百万円です。農業大手の企業は、この価格帯の商品を販売しても旨味がありません。ルートレックのようなベンチャー企業向けの市場だと思いました」

そこで、農家が数年で投資を回収できる価格で、収量や品質の向上に貢献でき、各種のデータを収集して次の栽培に生かせるシステムとして、ゼロアグリを開発した。センサーで取得した日射量と土壌環境のデータを元に、最適な水と肥料の量を計算し、作物の苗に沿って這わせたチューブから自動で水やりと施肥を行うもの。水資源が限られるイスラエルで開発された点滴灌漑を、ICTとAIで自動化した。同社と提携しているイスラエルの農業資材メーカー、ネタフィム社の調査では、点滴灌漑により、水・肥料ともに50%ほど節約できるという。

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