紙・プラスチックを代替 世界が注目する革命的新素材

世界各地にほぼ無尽蔵に存在する石灰石を主成分としながら、紙やプラスチックの代わりとなる新素材「LIMEX」が注目を集めている。それは、水や木材の使用量を大幅に削減し、世界の持続可能性のあり方を、根本から変えていく可能性を秘める。

LIMEX名刺は、すでに1400社以上が採用。食品容器など、プラスチックの代替製品としての用途も期待されている

EUは、2021年までにプラスチックの容器や包装に対する課税の導入を検討している。これに先立ち、フランスは2020年までに使い捨てのプラスチック食器などの使用を全面的に禁止することを表明した。また、ケニアでは、2017年8月よりビニール袋の使用を禁じる法律が施行されている。

プラスチックのような環境負荷が高い素材の製造・使用が、世界的に見直されている中で、今、日本発の革新的な新素材が注目を集めている。2011年設立のベンチャー、TBMが開発したLIMEX(ライメックス)だ。

TBMのもとには、北米、欧州、中東などから問い合わせが絶えない。LIMEXは、世界各地にほぼ無尽蔵に存在する石灰石が主成分であり、しかも、水や木材をほぼ使用することなく製造ができ、紙やプラスチックの代替製品となる可能性を秘めているからだ。

笹木隆之 TBM 執行役員(コーポーレート・コミュニケーション担当)

20億円を投資、自社工場を建設

TBMの代表、山﨑敦義氏は中学を卒業後、大工、中古車販売での起業を経て、石灰石の活用に目覚めたという異色のキャリアを持つ。TBMの執行役員、笹木隆之氏によると、LIMEX開発のきっかけは同じ石灰石を使った「ストーンペーパー」だった。

「ストーンペーパーは、台湾で生まれた石灰石を主成分とする紙です。代表の山﨑は、2008年にストーンペーパーの輸入代理店を始めました。しかし、重さ・品質・コストなどの面で課題があり、販売は伸びませんでした」

山﨑代表は、ストーンペーパーが抱えている課題を乗り越えるため、独自の方法で、石灰石を主成分とする新素材の開発に乗り出した。石灰石の国内自給率は、鉱物資源の中で唯一、100%超。それを主成分にして紙やプラスチックの代わりとなる新素材を開発すれば、それは大きな価値を持つ。さらには、水、木材、石油の使用量を大幅に削減することができる。

起業当初は、資金的にも苦労したそうだが、2013年、経産省のイノベーション補助金に採択されたことで、徐々に風向きが変わってきた。研究開発に弾みをつけ、2015年には20億円を投じ、宮城県白石市に自社プラントを設立。そして2016年、LIMEX製品の本格販売をスタートした。

すでに1400社以上が導入

LIMEXシートは、従来の紙製品の水の消費量を98%削減し、なおかつ耐水性・耐久性が高い。現在、主に名刺や飲食店のメニュー表などの用途で導入が進められている。

「LIMEX名刺は、紙の名刺とそれほど変わらない価格を実現しており、すでに1400社以上に採用されています。また、2017年8月に東京都のトライアル発注制度の認定を受けたこともあり、東京マラソンウィークのマップにも使われました」

LIMEXは、プラスチックの代替製品としても期待されている。

日本では、プラスチック製の食品容器等を使用する場合、企業は「容器包装リサイクル法」に従って、リサイクル委託金として1kg当たり45円(2016年の基準)を支払っている。この負担は決して小さくなく、例えば大手コンビニ・チェーンは年間15億円以上を支払っていると見込まれる。

しかし、この法律では、炭酸カルシウム(=石灰石)を50%以上使用した容器は対象外。つまり、LIMEXでつくられたプラスチックの代替製品を食品容器等に採用すれば、大幅なコスト削減が可能になるのだ。

LIMEXの革新性は、高いリサイクル効率のほか、元の製品よりも価値が高いものを生み出す"アップサイクル"にもある。

「紙やプラスチックもリサイクルは行われていますが、その際には大量の水が使用されています。その点、LIMEXは回収したLIMEX製品を再ペレット化するだけなので、ほとんど水を使う必要がありません。さらに、回収したLIMEX製品を別のものに生まれ変わらせることもできます。例えば、LIMEXシートでつくられた服飾タグを回収し、ハンガーにしたり、使わなくなった名刺を集めてスマホケースにすることもできます」

世界で新たな産業と雇用を創出

従来の紙やプラスチックに比べて、経済効率が高く、環境負荷は低い。「エコノミーとエコロジーを両立できる」(笹木氏)という画期的な新素材は、世界で使われるポテンシャルを秘めている。

2016年、アメリカの3大アクセラレーターの1つ「plug and play」による「ソーシャルインパクトアワード」を受賞。さらに2017年は、過去にテスラやメルカリなどが受賞している「日米イノベーションアワード」でイノベーション・ショーケースの受賞企業に選出された。

TBM、日揮、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁の3者は、2017年3月、同国におけるLIMEXの事業展開の可能性を検討するための基本合意を締結。左が日揮・川名浩一社長(当時、現・副会長)、右がTBM・山﨑敦義代表

すでに海外展開も進んでいる。2017年3月、サウジアラビアの国王が来日した際に、同国におけるLIMEX事業のフィジビリティスタディ(事業化調査)に関する覚書を締結。現在、大手プラントメーカーの日揮と組んでプラントの設立に動いており、技術輸出を目指している。他にも、300社超の海外企業から問い合わせがきているという。

TBMは2015年、宮城県白石市に自社プラントを建設。被災地に雇用を創出している

TBMは宮城県白石市にプラントを建設して被災地に雇用を生み出しているが、LIMEXは水資源に乏しい新興国・途上国でも製造が可能であり、今後、世界中で雇用を創出していくことが目指されている。

さらに、LIMEX自体も進化を続けている。

「石灰石と混ぜている樹脂を植物性樹脂に変えられないか、研究を進めています。それが実現すれば、生分解性の素材になって、地面に埋めれば土の栄養になり、海に捨てればサンゴにもなる。世界に求められる素材を目指して、これからも研究開発を続けます」

TBMは、世界の持続可能性のあり方を根本から変えようとしている。