2018年2月号

地域×デザイン2018

5年で参拝客5倍の神社 理由は境内のマタニティーカフェ

高井 俊一郎(山名八幡宮27代目神職)

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群馬県高崎市にある山名八幡宮の境内にはカフェとパン屋があり、施設内では英会話教室や放課後デイサービスが開かれている。取り組みを始めて参拝者は5倍に。異色の神社が目指すのは「地域のより所」だ。

高井 俊一郎(山名八幡宮27代目神職)

公共施設としての神社

神社、という場所にどういうイメージを持っているだろうか。安産や受験合格などの祈願、七五三やお宮参り、初詣といった特別な目的、特別なお祝い事のために行く場所という印象を持っている方も多いだろう。

しかし過去、特に第二次世界大戦より前の時代には集会所や子どもたちの学び舎としても使われ、地域の公共の場としての機能を持っていた。当時のこうした機能を取り戻そうと様々なユニークな取り組みを行っているのが、群馬県高崎市にある山名八幡宮だ。

山名八幡宮は840年以上の歴史を持ち、子育て・安産の神社として有名

平安時代後期に創建され、2025年には850周年を迎える山名八幡宮。室町時代、後醍醐天皇の孫が山名城に滞在していた際に、城主の娘との間にできた子の安産を祈願したことから、古くより安産と子育ての神社として知られるが、一般的な神社とは雰囲気が異なる。境内には現代的なデザインのカフェやパン屋があり、平日の15時過ぎには、子どもたちのにぎやかな声と英語が響き渡るのだ。

山名八幡宮境内のキッズマタニティーカフェ「ミコカフェ」。近隣の母親たちが子連れで気軽に立ち寄り、お喋りを楽しむ

きっかけは育児の悩み相談

固定概念に縛られない神社の運営を行っているのは、山名八幡宮の27代目神職、高井俊一郎氏。根底には、危機感があった。

「少子高齢化や核家族化が進むなかで、神社に足を運ぶ人が少なくなっているという実感がありました。祖父の時代は春と秋の大祭には長い行列ができましたが、私が25歳で家に戻った時には、どうやって生活していくのかと悩むほどの状態でした」

高井氏が直面したのは全国、特に地方のそれほど規模が大きくない神社の共通の悩みで、ひとつの神社の収入では食べていけなくなり、会社勤めをしながら神主をする兼業神主、複数の神社の神主を担当する兼務神主も少なくないという。ここで高井氏は兼業、兼務の道を選ばず、まずはやれることをやろうと始めたのが、「地域に出る」ことだった。

28歳の時、地域の身近な相談相手である民生委員に全国最年少で就任。青年会議所にも顔を出すようになった。こうした地域に密着した活動を始めると、町の人が神社に来てくれるようになり、ますます積極的に地域の人とかかわるようになった。その姿勢が評価されたのだろう。高井氏は31歳から39歳まで高崎市議会議員を務めることになったが、地域の住民と顔の見える関係を作り始めると、ひとつの大きな課題が見えてきた。

「民生委員だったとき、神社で安産、子育ての祈祷をした後に、お母さん方から悩み相談を受けていました。その時に泣いてしまう方もいて、核家族化のなかで育児に疲れてノイローゼになってしまう女性がこんなにたくさんいるのかと驚きました」

常々「一人で話を聞くだけでは限界がある」と感じていたという高井氏は、2011年、東日本大震災をきっかけに「なにややらなければ」と背中を押されて、具体的に行動を始めた。

境内で結婚式場として使っていたスペースを貸し出し、ベビーマッサージやマタニティダンスなどを開催。終わった後にはお茶を出し、母親同士が話をする「場」を作ったのだ。

最初は月に1回の開催だったが予想以上に好評だったため、2014年にカフェを作った。それが妊娠中や子育て中の女性をターゲットにした「ミコカフェ」だ。カフェのなかにキッズスペースも作り、子どもたちを遊ばせながらお母さんがくつろげる場所にした。

「カフェのスタッフもお母さんたちで、11時から15時まで営業しています。ランチだけなのでビジネスとして成り立ちませんが、神社としての社会的役割だと思っています」

収益は5年で2~3倍に

妊婦さんや母親たちの反応を見て手ごたえを感じた高井氏は、知人が運営するNPO法人に声をかけ、「100人を超えたら家賃を出して」と子ども向けの英会話教室にもスペースを貸した。これも盛況になり、現在では未就学児から中学3年生まで125人の子どもが平日の午後、神社に楽しく通う。

神社に隣接する耕作放棄地を、子どもたちがDIYで公園に再生する「あそびばプロジェクト」

神社に隣接する耕作放棄地を借り受けて、月に1回、スイカ割りや餅つきなども企画。毎回約100人が参加するイベントになった。

高井氏が予想しない流れでパン屋もできた。

「最初は、食育をしたくてカフェで天然酵母のパンを出そうと思っていました。高知県に天然酵母のパン作りで有名な職人さんがいると知り、お弟子さんを紹介してもらおうと訪問しました。すると偶然にも職人さん夫婦も高崎市出身で、ご自身がここにパン屋を開くことになりました」

境内の無添加・天然酵母パン屋「PICCOLINO」では、地元住民3人が修行中

2015年4月に開店したパン屋「PICCOLINO(ピッコリーノ)」では群馬産の小麦を使った無添加、天然酵母のパンを販売。すぐに地元で話題の店になり、現在は3人が修行中で地域の雇用にも貢献している。

こうして次々と地域の人が集う場を作っていくなかで、神社も活気を取り戻した。「長い目で『おらが神社だ』と思ってもらえる仕掛けを作ろうと取り組んできました。その結果、参拝者は5年前の5倍、収益は2~3倍になっています」

一度、人が集まりだすとそれが加速するのだろう。最近では、神社の母屋に発達障がい児のための放課後デイサービスも入居した。神社から最寄り駅までの道には、開業準備中の店舗もいくつか見られる。地域は確実に変わり始めている。

それでもまだ高井氏にとっては「成長段階」。次は地域の六次産業化支援として、境内に作った工房でスープとコロッケを作り、移動販売車での販売を計画しているという。

高井氏の理想は「山名八幡宮が毎日一度、地域の人に手を合わせてもらう存在になること」。そのために、まだまだ挑戦は続く。

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