長野県諏訪圏 官民連携の自立化モデル構築がカギ

長野県諏訪地域のとっておきの一品逸品を集めた地域ブランド「SUWAプレミアム」。本ブランドの推進委員会の一員である宮本総子氏は、諏訪地域が工業技術に優れた土地であることを活かし、ドイツの若者を対象に、日本の"KAIZEN"と諏訪のモノづくりのルーツを伝える旅行商品の開発を進めている。

登壇者は右から、寺島和雄(諏訪市経済部産業連携推進室産業連携推進係)、岩波太佐衛門尚宏(信州諏訪ガラスの里代表取締役社長、SUWAブランド推進委員長)、宮本総子(クローバーデザイン代表取締役)、山本聖(ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業事務局)

地域が一体となり、情報発信・販路開拓

 長野県下の諏訪湖を囲む6市町村からなる諏訪圏は、古くはシルク業が盛んな地域であったが、現在は切削・プレス・電子・金型など、独自の微細加工技術を有した特徴ある企業が揃った工業集積地となっている。時計やオルゴールなどの工芸品から、光学系の技術を生かした航空、宇宙系部品や医療機器まで、その技術力はモノづくり大国・日本の中でも秀でたものだ。実際、諏訪市では、「超微細加工を中心とする高度な技術を用いた高精度・高品質な工業製品群」をふるさと名物として応援している。

こうした諏訪圏の高い技術力を地域資源として活用し、工業と観光業との連携によって旅行商品の開発につなげる構想を考えているのが、諏訪でデザイン会社、クローバーデザインを経営する宮本氏だ。メインターゲットは、世界のモノづくりを牽引してきたドイツの若者たち。日本の"KAIZEN"と諏訪のモノづくりのルーツを伝えることを軸に、夏野菜やジビエといった諏訪ならではの食を盛り込むなど、諏訪の観光資源を生かしたコンテンツに仕上げる計画だ。

工業と観光の連携を実現するためには、関係者との連携が不可欠であるというハードルがあるが、すでに宮本氏は持ち前の行動力で巻き込みを開始している。

まず、工業については、諏訪圏のとっておきの品を集めた地域ブランド「SUWAプレミアム」を推進する諏訪SUWAブランド推進委員会や、諏訪市役所やアンテナショップ「信州諏訪ガラスの里」などと協力関係を築けている。一方の観光業については、諏訪を中心とした8市町村から成る信州諏訪温泉泊覧会ズーラ実行委員会に協力を呼びかける。7年間で300もの旅行商品をつくってきたズーラのノウハウを生かし、日本の"KAIZEN"と諏訪のモノづくりのルーツに触れてもらえる海外向け商品の提供を目指している。

フォーラムには「諏訪ブランド推進委員会」の委員長である岩波太佐衛門尚宏氏や、諏訪市経済部産業連携推進室産業連携推進係の寺島和雄氏が登壇。岩波氏は、東洋のスイスをイメージした大人ゴコロをくすぐる「澄み切った繊細さ」がブランドコンセプトであると説明。「プレミアムショップをつくったことで、340万人の目に触れる場ができた。さらにギフトショーへの出品などで世界の人にも広く知ってもらい、諏訪のモノづくり技術を見る工場見学から商品を買っていただくという流れをつくっていきたい」と語った。

また、寺島氏は、地域連携で行政が果たした役割について、「まず、ショップという交流拠点を設け、クリエイティブネットワーク事業で人脈を、SUWAデザインプロジェクトで首都圏からの情報の流れをつくっていきました。また、展示会、ラジオ、ネットTV等あらゆる媒体を効果的に使い、自画自賛に終わらない情報発信をしてきました」と降り返り、これからも官民連携の自立化モデルとして活動を広げていくと誓うなど、関係者も宮本氏の構想を好意的に受け止めている。

ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業の研修を終えて、将来の運営イメージについて再検討したという宮本氏は、「行政からの負担金に頼ったままでは継続が難しいので、有志からの出資を募って運転資金に充てたい。旅行商品やブランド認定品の販売手数料を収益源に、必要なら国からの補助金も活用して、より多くの人材に関わってもらえる事業に育てていきたい」と、今後に向けた課題と抱負を語った。

「SUWAプレミアム」では、澄み切った繊細さというブランドコンセプトに則り、大人心をくすぐる魅力あるストーリーのある商品をセレクトして認定している。上はSUWAプレミアム立ち上げのきっかけとなった砂のサイズを均一にした特殊金属粉末を使った「砂時計」

外部専門家が突破口に

これまで順調に歩んできた「SUWAプレミアム」事業だが、食品など工業以外の地域資源の生かし方やアピールの方法、大都市に比べて海外での知名度が低いことなど、いくつかの弱点も見つかっている。そこで、フォーラムに参加していたふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業に協力する専門家からは、豊富な体験に基づくさまざまなアドバイスが寄せられた。世界10カ国に向けて日本文化を発信している和テンションの鈴木康子氏は、「外国人観光客には、長野と岐阜の違いはおろか、新潟や北海道との違いがわからない人も多いのが現実。だからこそ、いま諏訪に来ているリピーターにターゲットを絞ることを勧めたい」とアドバイス。SHOPGlobal(Thailand)Co.,Ltdの橋本憲枝氏は、「買う側の顔が見えない商品は絶対に売れない。同じ工芸品でも特定のアイテムだけが売れるとしたら、それがその国の生活に組み込めるもので、価格的にも見合っているから。現地で販売するチャンスがあれば、なぜ欲しいのかを聞いてみるべき。『ショップチャンネル』で年4~5回行っている"ディスカバリー・ジャパン"に、地域ぐるみで名乗りを上げてくれれば受けて立つ」と歓迎モード。リバースプロジェクトトレーディングの河合崇氏も、「諏訪にもシルクがあると思うので、我々の手がけている愛媛シルクと地域を越えた横串をさして、ジャパンシルクを世界に打ち出すことができるかも」と、ネットワーク構築を得意とする同社らしい提案をした。インドネシア進出で実績のあるTYSTOREHOUSE(寺田倉庫)の蓑田俊之氏は、「今年、弊社は"技術"をテーマにしている。インドネシアはモノを持っていこうとすると鎖国に近い状態だが、石鹸やコスメなどの製造技術は求められるかもしれない」と可能性を示唆した。

具体的なアドバイスの連続に、グローバルプロデューサーたちの経験値や情報量の大きさ、発想力やネットワーク力を感じる時間となった。