福岡県八女市 「差別化」された地域ブランドを創る

日本一をアピールする地域ブランドが乱立し、差別化・販路開拓が難しくなってきた。敏腕バイヤーの下で研修を積んだ松石圭介氏は、地域ブランドを創るうえで、自社だけではなく地域を巻き込んだうえで、尖った企画を創ることが大切であることを学び、実行に移している。

松石圭介 エモリューションクリエイティブ 代表取締役

福岡県八女市は、質の高い農業や伝統工芸に代表される手仕事により発展を遂げてきた人口約6.5万人の地方都市だ。この都市はいま、人口減少や高齢化、後継者不足からくる産業衰退の波に押されて危機的状況に陥りつつある。

このような中、松石氏は「このままではいけない」「八女を元気にしなければ」という情熱を持った八女市の養蜂事業者である鹿野氏から相談を受ける。この出会いをきっかけに、自社の事業拡大のためではなく、八女市全体の活力を取り戻すためにマーケティング・ブランディングを手掛ける自社のノウハウを発揮したいと考えるようになり、「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」に応募した。

「衰退の根本原因は、若者が都会に出ていってしまうこと。八女が若者から見て魅力的な地域になるためのブランディングをしたいと思ったのです」。

国籍・年齢・性格・職業・趣味などまで細かく作り込まれた8人の女性キャラクター。それぞれのパーソナル設定はあえて公表せず、ユーザーの想像力に任せる手法を採る

地域ブランドが抱える3つの課題

研修を通じてバイヤー視点での国内外で売れる商品を企画・選定するポイントを学んだ松石氏は、日本における地域ブランドが抱える3つの課題――①地域ブランドの乱立②作り手志向が強すぎる③個別戦の限界、に気がついたと言う。

まずは、地域ブランドが乱立しているという課題。数年前から、日本全国で地域ブランディングへの取り組みが盛んになった結果、似たような地域ブランドが多数生まれ、それぞれの差別化が困難になっていると松石氏は指摘する。「デザインのいいもの、高品質を謳うものが当たり前になり、マーケットは"日本一"の商品で溢れかえっています。もう、教科書的で平凡なものは見向きもされません。いまから作るなら、もっと尖った企画が重要だと判断し、思い切ってクレイジーな方向に振り切ってしまおうと考えました」。

持ち前の企画力を生かして打ち出したコンセプトは、「地域活性ブランド×エロティック」。地域名である八女にかけて「8girls」という8人の女性キャラクターを設定し、一人ひとりの名前はもちろん、国籍・年齢・性格・職業・好みの服装などまで細かく作り込んだ。ビジュアルデザインは、海外でも評価の高いイラストレーターに依頼。さらに、お互いの人間関係を「相関図」にするなど、高い作家性をプラスすることで、模倣されにくいオリジナリティを出すとともに、今後の商品開発や海外販路拡大に発展させるためのベースとなる共感性の高いストーリーを描きあげた。ブランドの世界観は、ストーリーをじっくり読めるウェブと、タイムリーに会話を流せるTwitterとを併用するストック&フローで拡散させて認知度を上げていく狙いだ。

次に、「作り手志向が強すぎる」という2つめの課題は、徹底したマーケティングリサーチにより解消した。「日本の伝統産業を伝えたいという作り手志向が強すぎると、高品質だから高くても売れるだろう、海外の富裕層なら買ってくれるだろうと、作り手にとって都合のいいペルソナを想定しまいがちです」。とくに伝統産業のリブランドや海外への販路開拓に挑むときは、固定概念にとらわれず、相手の文化を知ること、何が求められているのかを顧客視点から考え直す姿勢が求められる。松石氏は、事業のきっかけをくれた鹿野氏の熱い想いと創業40年という養蜂事業の歴史を尊重しながらも、メインターゲットに据えた18歳~25歳の女性たちの意見を最重視して市場調査を進めた。さらに、ターゲット層も参加する企画会議を催すなど、徹底した顧客志向でフレーバー付き蜂蜜の開発を進めてきた。

3つめの課題である「個別戦の限界」という壁は、ふるさとグローバルプロデューサーに求められる重要な資質である"地域を巻き込む力"で打破していかねばならない。松石氏は、「ひとつの企業だけでは、ヒト・モノ・カネといったリソースが不足してしまいます。また、研修中に小売店やバイヤーの方々から『地域がまとまってくれたほうがありがたい』とか、『売上が◯◯以上ものは、常設展にしてください、といった交渉ができる』といったご意見をいただくこともありました」と、実体験を交えながら、「地域ぐるみの団体戦」が相手側にとってもメリットがある戦い方であるという持論を語った。

今後は、最上位概念である「8 girls'brand」を通して、蜂蜜、八女茶、提灯......などの伝統産品を順次リブランドしていき、統一コンセプトで多数の商品を横展開していく考えだ。「1つの商材について8種類ずつの商品が揃うので、売り場のインパクトが大きくなりますし、揃えたくなるデザインでクロスセルがしやすくなります」と、持ち前の企画力やクリエイティブ力を発揮する松石氏のアイデアに魅かれてか、すでに地元メーカーや大学とのコラボレーションが始まっている。八女商工会議所を中心とした人的ネットワークも広がっており、地元の高校や行政、メディアなども絡んでくれば、さらなる発展が期待できそうだ。

「八女の若者人口を増加させ八女全体の活性化につなげること。8girlsBrandを日本だけでなく世界中の人々から愛される、メイド・イン・ジャパンブランドに育てていきたい」との野望を語る松石氏は、これからも「Stay,Crazy.」の姿勢でプロデュース業に邁進していくだろう。