2017年1月号

人間会議

アマゾンの先住民から学ぶ 自然と共存し、生き抜く力

関野 吉晴(探検家、武蔵野美術大学教授)

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医師であり、探検家・関野吉晴氏。「カレーライスを一から作る」という課外ゼミを武蔵野美術大学で行い、物の原点を知ること、そして自分で問いを作り、答えを出すことを伝える。

探検家、武蔵野美術大学教授 関野 吉晴

自分で問いを作り、答えを出すことの重要性

―映画「カレーライスを一から作る」を見ると、自分で体験するのが一番であることを実感でき、考えることは素晴らしいと感じます。この取り組みは、どのようにして始まりましたか。

私が大事にしているのは物の原点を知ること、そして自分で問いを作り、答えを出していくことです。

現在は武蔵野美術大学で授業をしていますが、学生たちにはこれらをやってほしいと思っています。汗をかき、筋肉を動かし、自分でやることによって様々な気づきがあります。

例えば、自分が飲んでいる紅茶がどのようにできているか、考えたことはありますか。調べると、多くのことがわかります。茶葉は国産なのか、インドから来ているのか、複数の種類が混ざっているのかと、問いを自分で作り、考えていきます。また、茶葉を摘んでいる人たちはどのような暮らしをしているのか、それによって豊かになり、幸福になっているのか、紅茶はどのように日本へ運ばれているのかと様々な問いを作ることによって世界が見えてきます。

また廃棄することまで考えます。廃棄されるとどこへ行き、どのように処理されるのか、あるいはリサイクルされて、次はどこへ行くのかと考えることもできます。そのように考えていくと、人間は元々どこから来て、どこへ行くのかという問いもあるでしょう。私は、人類が誕生した地から世界に広がっていった道を遡る旅「グレートジャーニー」を行いましたが、この問いを作る考えから来ているのです。

ものを一から作ってみることにも、多くの発見があります。私は8年前、大学の課外ゼミで「自然から直接採取した材料だけで、手作りのカヌーを作ろう」と学生たちに呼びかけ、カヌー作りに挑戦しました。

木を切り倒すための鉄器作りは、砂鉄を砂から集め、製鉄して作りました。まさに一からカヌーを作ったのです。武蔵野美術大学だけでなく、他大学からも含めて200人ぐらいの学生が集まり、このプロジェクトは熱気がありました。

そして昨年の課外ゼミでは、「食べ物を一から作る」という案が出て、カレーライスを作ることになりました。

学生たちには、与えられた問題を解くのは得意ですが、自分で何をすれば良いかはわからないという人が多いようです。今の優等生は与えられた問題を解き、学校の先生や問題集の答えに合わせられる人たちだからです。自分で創造する美大生であっても同様で、なかなか自分で問いが作れません。

カレーライスを一から作ることには多くの学生が関心を持って集まりました。材料となる肉や野菜、米、香辛料、塩のほか、カレーを食べるときに使う土器やスプーンも自分たちで作るのです。

有機栽培の野菜作りでは、最初の種まきの段階では、多くの学生が来ました。しかし、有機農業は雑草との戦いで、草取りは重労働です。学生たちは大学の課題やアルバイトで忙しく、参加者は次第に減って最後は30人ぐらいになりました。常時、来ているのは10人程度だったと思います。私は「来るものは拒まず、去るものは追わず」という対応をしていますが、それが現状です。

私たちは自然がなければ、生きていくことはできません。そして、自然への見方や植物、生き物についての考え方は、自然と接してみなければわかりません。例えば、カレーに入れる鶏肉を得るには、育てた鳥を殺すことも必要です。動物だけでなく、植物も生き物です。人間はそれらの命を食べなければ、生きていくことができないのです。そのことを真に理解できるので、今年も同じ課外ゼミを続けています。

「カレーライスを一から作る」ための課外ゼミでは、有機栽培で野菜を栽培し、雛から烏骨鶏とほろほろ鳥を育てた。

素材が見えるアマゾンの家

―自分でやってみることの重要性を教えるきっかけを得た経験について、お聞かせください。

私が最初に探検で訪れたのは、南米のアマゾンでした。アマゾンの奥地へ行き、先住民の家に泊まって彼らと同じものを食べさせてもらう生活をしました。そこでは家の中を見渡すと、素材のわからないものはありませんでした。家を支える柱や屋根、火を起こすための木、籠や弓矢、転がっているリンゴやバナナの皮、狩りの獲物など、すべて素材が見えるものでした。

しかし、私たちの社会は逆で、身の回りに素材がわかるものはほとんどありません。アマゾンの人たちは自然から素材をとり、自分たちで作るので、素材が見えるのです。私たちは、そのようなことは滅多にしません。例えば、自分でセーターを編む場合でも、毛糸は店で買うのが普通です。羊から毛糸をとって作る人はいないでしょう。アマゾンの先住民は自然の一部となって暮らしてきましたが、私たちはそれだけ自然から離れてしまったのです。

現在の文明は世界文明で、スマートフォンなども世界中に広がっています。しかし、その中で様々な壁に突き当たり、負の側面も出てきています。その解決策を考える道は、1つは歴史から学ぶことで、もう1つは地球上の異なる価値観で生きている人々から学ぶことだと思います。

特に、伝統社会の人々から学ぶことは多いと感じます。アマゾンの先住民は、私たちにないものをたくさん持っています。例えば、彼らの欲望には限りがあり、必要以上に欲しがりません。私たちの世界では、必要のないものまで販売したり、買うのが当たり前で欲望が肥大化しています。

正月の時期にラオスのメコン川流域を訪れ、金を掘っている人たちに出会ったことがあります。彼らが金を掘るのは正月用の食べ物や服などを買うためで、それ以外の時期には掘らないということでした。優しくつつましくゆったりと、というのが彼らの生き方です。

アマゾンの先住民が普段、利用している資源はいずれも生物資源で、地下資源はありません。人間の生活が大きく変化したのは、地下資源を使うようになってからです。産業革命は、地下資源を使わなければ成り立ちませんでした。また、その前に起きた農業革命では、人間が穀類を作り始め、蓄える人と蓄えられない人が生じて平等が崩れました。

天敵も多く、厳しい自然の中で生き抜くため、人間はその進化の過程でコミュニティを形成し、食べ物を分け合うようになりました。伝統社会では、一番の悪徳は独り占めをすることでした。

医師でもある関野氏は、アマゾンで医療活動も行っていた。

人間の基本的な部分はどこでも同じ

―アマゾンの人々の生活と日本の生活には共通する部分もありますか。

日本ではよく「アマゾンの人たちはその日暮らしで、何を楽しみにしているのか」と聞かれます。私はそう聞かれると、「では、あなたは何を楽しみにしているのですか」と問い返します。すぐに答えるのは難しいですが、皆、しばらく考えて答えを出します。

その答えは大体いつも同じです。自分が家族と仲良くし、家族も自分も健康で、近所の人たちや仕事仲間とうまく付き合い、仕事がうまく行くことです。そして時々、コンサートや演劇、映画、旅行に行ったり、本を読んだりすることです。テレビも、楽しみの1つかもしれません。

その答えはアマゾンの人々と同じなのです。健康、家族や仕事の人々との関係、仕事がうまくいくことを望んでいます。太鼓や笛を使い、コンサートは自分で開催していますし、酒も自分たちで作ります。テレビはありませんが、テレビはほとんどの人たちにとって最も大切なものではありません。人間の基本的な部分は、どんな生活でも同じなのです。

日本では、私たちの世代はとにかくものが欲しく、物質系の豊かさや便利な生活を求めてきました。しかし、今の若者たちの価値観はそうではなく、少しずつ変化してきたと感じます。ものを買うときは良いものを買って、大切に使うのが良いでしょう。自分で作れるなら、それが一番で、食べ物はまさにそうです。自分で作れなくても、地産地消なら輸送コストがかからず、近くで作っていれば安全性も自分の目で確認できます。

探検で訪れたアマゾンの奥地では、先住民の家に泊まり、同じものを食べさせてもらう生活をしていた。「家の中にあるものは、すべて素材が見えるものだった」と関野氏は話す。

アマゾンの先住民は自然の中で生きる達人

―アマゾンの先住民の生活にも、変化は起きていますか。

アマゾンの先住民は、自然の中で生きる達人だと思います。しかし、彼らの生活にも変化が生じています。私には、現地で40年間、5世代にわたって付き合っている家族があります。その4世代目は現在、高校性で村を出て寄宿舎生活し、スマートフォンも使っています。

村へ帰ると電波がないので電話は使えませんが、乾電池で充電できるようにしたスマートフォンで音楽を聞いています。そこでジャズやクラシック、ロックなど、たくさんの曲をスマートフォンに入れ、皆で聞いています。しかし、自分たちの伝統的な音楽は、「馬鹿にされるから」と言って録音しようとしません。このようにして、伝統文化が失われていきます。

これから先のスマートフォンの時代には、アマゾンの人々の方が有利かもしれないと考えます。これまでの社会は知識をつけて良い学校に行けば、良い就職ができるというものでした。優等生は学校の先生や問題集に答えを合わせられる子でしたが、今後は変わると思います。

知識はスマートフォンに詰まっているので、試験はスマートフォンを持ってきても良くなるでしょう。

情報を集めるだけでなく、それらを使ってどう生き抜くか、どのように問題解決するかに重点が置かれるようになっていくはずです。

その際、「センス」が重要で、生き抜く力もセンスだと思います。そして、論理立てて物事を考える力が必要になります。アマゾンの先住民は、自然の利用に関して優れた人たちです。植物や動物をよく知っており、地球上で有数の博物学者だと思います。そして、自然の中で生き抜くための力を持っています。その力や考え方は私たちも忘れてはいけないことだと切に思います。

映画「カレーライスを一から作る」

--基本的な営みを見つめ直すドキュメント

武蔵野美術大学の関野吉晴教授の課外ゼミ。2015年4月に始まったのは、「一からカレーライスを作る」プロジェクトだった。米、野菜、肉、香辛料、塩、器、スプーンまで、カレーライスに必要なすべての材料を自分たちの手で育て、創り、食べようというプロジェクト。

関野氏は「物の原点はどうなっているのか、ということをさがしていくと社会が見える」と話す。

学生たちは、有機栽培の野菜作りや米作りにチャレンジし、食べるための鳥も育てていく。

普段は、野菜も肉も香辛料もスーパーマーケットや専門店で購入して料理をするだけだが、約9ヶ月かけて、器も自ら用意し、1皿のカレーライスを作っていく。

生き物を育てることで、その苦労と喜びを知り、慣れないことに戸惑いながらも、自然の中で生きていることを実感することができる。「自分で食べ物を作ることをやった方がいい。何かやる度に疑問が湧いて、それを自分で調べていくことが大事」という関野氏。

最も身近な料理を一から作ることで、人間にとってごく当たり前で基本的な営みを見つめ直すドキュメント映画。ネツゲンが製作・配給、前田亜紀氏が監督・撮影を務めた。2016年11月19日より、ポレポレ東中野を皮切りに全国で公開している。

 

関野 吉晴(せきの・よしはる)
探検家
武蔵野美術大学教授

 

『人間会議2016年冬号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 考える人間、極める機械 人工知能社会の哲学
安西祐一郎(日本学術振興会 理事長)、甘利俊一(理化学研究所)、岡本裕一朗(玉川大学 教授)他
特集2 イノベーティブな経営者が語る 企業の哲学
小林哲也(帝国ホテル 取締役会長)、出口治明(ライフネット生命保険 代表取締役会長)、谷田千里(タニタ代表取締役社長)他
(発売日:12月5日)

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