「医療機器」参入の高い壁を突破

工作機械などの製造・販売で発展を遂げてきた中小企業、山科精器。2000年代半ば、社長の医療機器分野への参入宣言に、多くの社員は耳を疑った。それから十数年。医工連携で成果を上げ、今後は海外への展開も見据えている。

医療機器の開発・製造に不可欠なクリーンルーム。山科精器は大手出身の経験者を採用し、導入にこぎつけた

琵琶湖の南東部、近くにはJRA(日本中央競馬会)のトレーニングセンターやゴルフ場が点在する、緑豊かな山間の工業団地の一角に社屋を構える山科精器。ここで製造されているのは、船舶や自動車等の製造に関わる重厚長大な機械と、それとは全く対照的なナノレベルの技術を要する繊細な医療関連機器だ。

トップダウンで医療参入を決断

山科精器の創業は1939年。当初は、マイクロメーターのような小さな製品をつくっていた。工作機械をはじめ、注油器、熱交換器等の製造に取り組むようになったのは、戦後になってからだ。

そんな山科精器が医療分野に参入したのは、2004年、滋賀県で医療のイノベーション特区が計画され(都市エリア産学官連携促進事業)、これに参画したことがきっかけだ。

大日常男社長は、こう振り返る。

「医療分野への参入は、社員たちにとっては寝耳に水でした。しかし私は以前から、立命館大学にできた『SR(シンクロトロン放射光)センター』のセミナーに参加したりして、その分野に興味を持っていたのです。とはいえ、私は文系。医療の技術には、ちんぷんかんぷんです。そこで理系の優秀な学生を雇い、“通訳”のような形で活躍してもらい、医療用マイクロ・ロボットの製造に乗り出しました」

大日常男(おおくさ・つねお)山科精器 代表取締役社長兼CEO

こうして最初に大学と共同特許を取ったのが、内視鏡の先端の汚れを落とす『涙目レンズ』である。これは現場のドクターの「内視鏡の先端のレンズの汚れを落とすワイパーのようなものができないか」という要望に対し、ワイパーではなく、酸化チタンを使ったレンズを付けることを提案したものである。

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