2016年1月号

人間会議

あたらしいアタマの使い方―絶体絶命を楽しみ、マイナスを価値に

梅原 真(デザイナー、梅原デザイン事務所 主宰)

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森林率84%、平地が少なく中山間地域の多い高知県。条件不利地域と思われがちなこの地で、「しまんと地栗」や「しまんと緑茶」など、数々の商品を手がけるローカル・デザインの第一人者、梅原真氏。一見「絶体絶命」の危機的状況から、その土地らしい商品をデザインしていく。地域に新たな価値を生み出す秘訣は、「ナニガユタカナコトナノカ」を知ることだという。

四万十地域の栗山を再生し、栗の生産量を回復させている。

梅原氏は、高知県出身のデザイナー。デザインを一次産業再生のために使いたいと、1980年より梅原デザイン事務所を主宰。88年、佐賀町のかつお一本釣り漁業を再生するため「一本釣り・藁焼きたたき」をプロデュースし、8年間で年商20億円の産業を創出。また、高知県大方町で、4㎞の砂浜を巨大なミュージアムに見たてる「砂浜美術館」をプロデュースするなど、独創的な発想で、新しい価値を生み出している。

「ローカル・デザインにおいて最も重要なのは、地域のアイデンティティをしっかり持つことです。それには、『ナニガユタカナコトナノカ』を知る必要があります」

地方はどうしても「本土並みになりたい」「都会のようになりたい」という思考に陥りがちだ。しかし、自身の地域に対し、誇りを持つことが重要だ。

南米の小国ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領のスピーチに「貧乏な人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」という名言がある。

都会と同じものを求め続けるのではなく、本当に豊かなこととは何か、自身の地域を見直すことが、価値の発見に繋がる。

梅原 真(デザイナー、梅原デザイン事務所 主宰)

引き算で田舎らしい商品を

山しかないのなら、山で何かするしかない。そんな発想から生まれたのが「しまんと地栗」。四万十地域では、昔、大きな栗畑が多くあった。それが、中国産の安い栗に押されて、壊滅状態になっていた。

「僕は、『絶対絶命』が好きなんです。絶対絶命の危機を見ると何とかしたくなる。栗山の再生もその一つでした」

手がけ始めたのは3年前。長く整備されずセイタカアワダチソウだらけになっていた山に入り、下草を刈るところから始めた。岐阜から剪定師を呼び、栗の木を剪定して枝を横に広げ、間隔のあいた所には新しい栗の木を植える。そうした作業をコツコツと続け、3年で1万5千本を植樹し、栗の生産量を回復させる取り組みも進めている。

栗の木は健康に育てば、虫に食べられないよう自ら苦い物質を出す。そうした栗本来の性質を利用し、生産する栗は全て無農薬だ。また、急傾斜地で太陽の光をたっぷり浴びて育った栗は大きくて甘い。その自然の甘味を活かし、渋皮煮やきんとんなど、加工には砂糖をほとんど使わない。特にきんとんは栗90%、砂糖10%と栗の味を目いっぱい楽しめる。

「中山間地域は条件不利地域だからといって、農薬をたくさん使って大量生産に走れば、他との差別化ができず、売れないでしょう。農薬をやめる、不必要な量の砂糖をやめる。田舎ならではの引き算の法則で、この土地らしい商品を作ることが重要なのです」

四万十の栗を活かした商品開発を行った。「ジグリキントン」(上)と「栗山」(下)。

コミュニケーションに繋がるデザインとは

田舎ならではの商品の良さを分かりやすく表現し、販売に繋げるのがデザインの力。

「この場合、デザインはデザイナーのためのものではありません。何か賞を取るようなテクニックは必要ないのです。商品の情報をいかに消費者、生活者に読み取ってもらい、購買意欲に繋げるかが重要です」

消費者、生活者とコミュニケーションの取れるデザインをする。そのために、デザイナーがローカルに住んで、現場を知り、よく理解していることも重要な要素だ。

地栗を使った商品は、モンブランやロールケーキ、ジャム、ようかんなど広がりを見せている。

首都圏の伊勢丹から新商品の依頼があり、今年10月21日から期間限定で新商品「栗山」を伊勢丹新宿店で販売した。「1週間の販売で430万円の売上をあげました。中山間の価値を首都圏のデパートの地下にダイレクトで届けることができたのは、素晴らしいことです」

栗山を整備し始めて3年。桃栗三年というが、来年からようやく潤沢に栗が収穫できるようになる。3年越しのプロジェクトはいま、大きな実を結ぼうとしている。

「アタマの使い方」は公平

梅原氏は、2009年から高知県で「84プロジェクト」を展開している。84とは、高知県の森林率である84%からきている。日本一の森林率を、山ばかりで不利と考えるのではなく、84%もCO2を吸収する装置があると価値観を切り替え、これを活かそうというプロジェクトだ。

プロジェクトでは出版事業とライセンス事業を展開。高地県は製品出荷額では最下位だが、それは自然の豊かさの裏返しとも言える。豊かさの軸が分かりにくい現代、出版事業では「こんな豊かさもある」といった情報を発信する。

ライセンス事業は、様々なモノ・コトに84のロゴを付け、84の考え方を広める取り組み。県内の杉材を使ったキット型ハウス「84はちよんハコハウス」など、ライセンス商品を増やしている。

「山をどれだけ面白がれるか、絶対絶命をどれだけ楽しめるかがカギ。84%も森林、だからダメ、ではないのです」

「山しかない」「栗しかない」というマイナス思考を、「山があって栗があれば何かできる」というプラス思考に転換する。そして、何ができるのかを考えるのが、「新しいアタマの使い方」だ。

パリであろうがロンドンであろうが、日本の中山間地であろうが、「頭の条件は同じ」と梅原氏。その頭で何を考えるのか。頭の使い方は公平で、東京だからいいものができるわけではない。

ローカルだからと言って、国の補助ばかりを見てつま先立っていては、頭は回らない。「かかとを地面につけ、自分たちで、この村が何なのか、この地域が何なのか、じっくりと自分の村や町を見てほしい」

2005年に「四万十川流域で販売するものは全て古新聞で包もう!」をコンセプトに、「しまんと新聞バッグ」をプロデュースした。

仕組みづくりもデザイン

梅原氏は2005年、「四万十川流域で販売するものは全て古新聞で包もう!」をコンセプトに、「しまんと新聞バッグ」をプロデュース。ベルギーをはじめ世界に展開している。

現在は、「東北しんぶんバッグプロジェクト」を進行中。これは、仮設住宅に住んでいる人たちが新聞バッグを作り、それを売ってお金にすることで、「つくる仕事をつくる」プロジェクトだ。

高知銀行に話を繋ぎ、預貯金をした人のノベルティとして大量に買ってもらう。この仕組みであれば、銀行が他の大手企業に代わっても問題ない。

パッケージや表面的なデザインだけでなく、考え方や仕組みを作っていくことも、ローカル・デザインの一つと言える。

「デザイナーの仕事はモンダイカイケツ」と梅原氏。マイナス思考をプラスに転換し、絶体絶命を楽しむ発想が、様々な問題を解決し、ローカルの新たな価値を生み出していく。

「84プロジェクト」は、高知県の森林率84%を活かすプロジェクトとして2009年にスタートした。

梅原 真(うめばら・まこと)
デザイナー
梅原デザイン事務所 主宰

 

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