2015年2月号
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事業構想家の哲学

関東大震災から東京を復興させた 「国家の医師」後藤新平

池内 治彦(ノンフィクションライター)

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100年先の未来を見すえた“近代日本の羅針盤”。政治家であり、医師でもある後藤新平による人の生命と健康を公共の中心に据えた「都市づくり」構想とは。

国家を「生命体」ととらえ、政治を行った後藤新平。人間中心の「都市づくり」はいま再評価されている(写真提供:後藤新平記念館)

「わたしのような老人は、こういう時にいささかなりと働いてこそ、生きている申し訳がたつというものだ」。“日本資本主義の父”渋沢栄一(1840-1931)は、17歳年下のひとりの政治家から協力要請を受けるや、ともに関東大震災後の救済と復興をにない、まさに八面六臂の活躍をした。この「民」と「官」を代表する先見性にひいでた“無私のコンビ”は絶妙だった。それにしても83歳になる渋沢翁を、そこまで突き動かした政治家とはだれか。

いまから100年前に、時代をこえた事業構想力をもって、東京を世界に通用する偉大な都市に改造しようと“見果てぬ夢”を追いかけた男がいた。かれは、それまでだれもおもいもつかなかった「人の生命と健康を守る」人間中心の機能をそなえた「都市づくり」をこのときすでに構想していた。この日本人離れした壮大なビジョンから“大風呂敷”と批評された後藤新平(1857-1929)である。

いまだ記憶に新しい「3・11」東日本大震災で、不幸だったのは、天災と人災とがかさなったことである。さらに残念なのは、関東大震災のときのような斬新な復興計画が国からも地方からも出てこないし、それを実行する「自ら泥をかぶれる」リーダーが現れないことであろう。いま後藤新平という人物に、時代のスポットライトがあたろうとしている。

この医師兼政治家が、どのような教育と訓練を受け、また経験を積むことで、時代をこえた事業構想案をもつようになったのか、抵抗勢力による猛反発にひるむことなく実現せんとしたエネルギーはどこからきているのか、またそれらの背景について迫ってみたい。

生物学の原則でやる

日清戦争(1894-1895)の勝利で割譲された台湾の新総督・児玉源太郎(1852-1906)の右腕として、新平は民生長官の任についた。当時、日本による台湾経営は危機的状態だった。地元有力者とつながった抗日ゲリラの跳梁跋扈はやむことなく、軍隊による治安維持も全く機能していない。そして深刻な阿片吸飲の習慣......。財政は破綻状態だった。

「台湾はいま病人としてよこたわっている。これを健康体にしなければ......」「民心の安定なくして統治なし」。この厳しい状況のもと、新平はおもいきった政策をつぎつぎにうちだしていった。かれは、台湾の風土、風習、風俗などを十分に理解し、現地住民を尊重したうえで、それまでの軍人統治とはまったく違うやり方で台湾をよみがえらせようとした。「生物学の原則でやる」。新平は“科学的な政治家”と称された。

当時日本は、薩長を中心とした藩閥政治だった。“朝敵”だった東北の小藩出身者の協力要請など相手にされるはずもない。そこで新平のとった行動は、自ら使えるとおもった人材を強引にスカウトし、勢力を結集するというものだった。「一に人、二に人、三に人」それがかれの信念だった。

“謀反人の子”と蔑まれて

関東大震災後、復興された東京・昭和通り江戸橋付近。新平の震災復興構想は、100年先の日本を見すえた壮大なプロジェクトだった(写真提供:後藤新平記念館)

新平は、1857年(安政4年)、陸中国肝沢郡塩釜村(現岩手県水沢市)の水沢藩士の家に生まれる。後藤家は、代々仙台藩の出城のある岩手県水沢市で、城主留守氏の家臣だった。

ところが、大叔父にあたる蘭学者・高野長英(1804-1850)が幕府の鎖国政策を批判したことから謀叛人として捕らえられ、脱獄して逃亡し、自刃する事件がおこる。この長英と容貌も性格もそっくりだった新平は、幼いころから“謀反人の子”と蔑まれて育つ。悲運は追い討ちをかける。水沢藩などの奥州越列藩同盟は、戊辰戦争(1868-1869)で薩長を中心とした官軍にやぶれると後藤家も“朝敵”の汚名をきせられ、平民に落とされる。そして帰農したまま明治をむかえる。新平の人生はまさに敗北から始まった。

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