『コトラー、アームストロング、バラスブラマニアン、恩藏のマーケティング原理』

日本マーケティング協会は2024年1月、マーケティングの定義を34年ぶりに刷新した。新たな定義は、「(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」とある。こうした定義の刷新は、製品・サービスの販売促進から社会的価値・ステークホルダーとの関係づくりへと、マーケティングの役割が変化していることを示している。

そこで大いに参考になるのが本書である。世界的なマーケティングの権威であるフィリップ・コトラー教授らによる代表的著作『Principles of Marketing, 19th ed.』をもとに、日本の読者向けに大幅な加筆・修正が施されている。顧客価値、エンゲージメント、リレーションシップといった、デジタル時代のマーケティングに影響を与える大きなトレンドや変化を反映。朝日酒造、星野リゾート、東横イン、任天堂など日本企業の最新事例が随所に盛り込まれ、マーケティング理論に精通していない読者にとっても非常にわかりやすい。

顧客価値と顧客エンゲージメントに関する5大テーマを掲げる本書では、まず、今日のマーケターは、顧客価値の創造、顧客満足、顧客リレーションシップのマネージメントに長けていなければならないと説く。ブランドと顧客が継続的に関与するためのフレームワークを提示しながら、単なる購買促進ではなく、ブランド経験やブランド・コミュニティの形成を重視した実践事例を豊富に紹介している。

デジタルメディアやソーシャルメディアが、ブランドによる顧客エンゲージメント、顧客同士のつながりを劇的に変化させたのは周知の通りだ。本書でもブランドが顧客をより深く把握するために役立つデジタル技術を徹底的に探求している。

デジタル・マーケティング論については1章を設け、従来の「プロモーション・ミックスの一部」としてではなく、「独立した戦略領域」として論じている。デジタル・マーケティングの理解、デジタル・マーケティング・キャンペーンの準備、オムニチャネル戦略におけるデジタル・チャネル活用という3段階プロセスが詳細に解説されている。

本書ではまた、世界的なCOVID- 19パンデミックの余波、環境、社会、政治的な動きまでを視野に、様々な重要課題への企業の対応について、議論や事例を紹介する。マーケティング原理の射程は思いのほか広いが、本書が一貫して訴えるのは「顧客価値を軸にした進化」である。混迷の時代にあって、マーケティングはもはや単なる販売の技術ではなく、社会と顧客の変化を捉え続ける知的営みであることを本書は改めて教えてくれる。

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