「体験」が心を動かし、消費に導く

近年、小売業界では、体験を通して消費者のニーズを喚起する手法に注目が集まっている。消費者は「体験」の何に惹きつけられるのか。2つの施設にその魅力を探った。

日本人だけでなく、今や世界中の人々からも大人気の観光スポット「築地市場」。世界最大とされる市場規模のほか、都心部にあるアクセスの良さや、場内深部にまで一般客の入場を受け入れている門戸の広さも起因し、2009年の東京都の調査では平日で1万3000人超、休日には3万3000人超が観光・購買を目的に訪れる。

築地ツアーで味わう「中の人」の気分

「非日常的な体験こそが築地市場の最大の魅力」と語る築地市場飲食業協議会会長の川島進一氏

なかでも好評なのが、各ツアー会社や料亭などが独自に行なう築地市場ツアーだ。築地市場をよく知る関係者の案内のもと、卸売業者と仲卸業者の間で行われる活気あふれる競りや、競り落とした魚をその場で手際よくさばく姿などをつぶさに見て回ることができる。築地の裏話や魚介の目利きなどの情報を得ながら、気に入った魚介をその場で仲卸業者から購入したり、市場で働くプロたちの食事処として市場内にある商店街「魚がし横丁」で、今見てきたばかりの新鮮な食材を手頃な値段で味わえる点も大きなポイントだろう。

「一般の人にとっては、中の人になった気分が味わえる非日常的な体験こそが築地市場の最大の魅力ではないでしょうか」。そう語るのは、魚がし横丁を束ねる築地市場飲食業協議会会長の川島進一氏である。

魚がし横丁は、寿司屋をはじめとする39の飲食店と、刃物や乾物、缶詰屋などの約100の物販店で構成される、9つの建物からなる商店街だ。築地市場とは、市場がまだ日本橋魚河岸にあった頃からの切っても切れない関係で、3~4世代にわたって家族ぐるみの付き合いが続く店も多い。となれば、市場で働くプロたちからの指摘が鋭くなるのも必然で、「こんなネタじゃだめだ。あれを使ってみろ」「もっとうまいものを早く食わせろ」と、叱咤激励を受けて店として成長してきた。それだけに「味」には絶対の自信がある。

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