Made in Franceの鰹節が誕生へ 枕崎水産事業者の挑戦

鰹節生産日本一の枕崎の水産加工会社らが、フランス進出を目指している。それも輸出ではなく、現地生産という大胆な試みだ。和食の根幹を支える鰹節を広めるため、地域一丸となった挑戦が始まる。

枕崎市は日本一の鰹節生産量を誇る

枕崎市の港湾と市街地

「体験」から「買い物」へ誘導

新鮮な食材の味を引き出し、健康にも優しい和食は、欧州を中心に世界的なブームとなっている。2013年にはユネスコ無形文化遺産に和食が認定され、いまや世界中の国で日本食レストランを楽しめるようになった。

和食の味の基本、出汁を形成する大切な要素には、ご存知の通り鰹節や昆布がある。鹿児島県枕崎市は、日本一の鰹節生産量を誇るエリアだ。豊かな海はもちろん、煮熟に欠かせない良質な水、温暖な気候といった枕崎の特色を活かして、1707年に紀州(和歌山)から鰹節製法が伝わって以来、高品質な鰹節を作り続けてきた。

そんな枕崎で、フランスへ鰹節製造工場を建設するプロジェクトが動き出している。枕崎水産加工業協同組合の組合員企業数社が出資し、2014年4月に株式会社枕崎フランス鰹節を設立、今年夏頃からの現地生産に向けて、着々と準備が進められている。

「出汁のことを海外ではジャパニーズ・スープなどと呼んでいましたが、最近ではそのまま『dashi』という呼称を使い始めているようです。和食が広まるとともに、出汁もまた認知されてきたのでしょう。鰹節もまた、『Katsuobushi』として少しずつ知られてきています」と、枕崎水産加工業協同組合の小湊芳洋参事は話す。

水産加工の盛んなフランス・コンカルノー市に工場を立地 Photo by Kestrel29

フランスの和食への危機感

そもそも、フランス進出プロジェクトが始まったのは2013年。財団法人・食品産業センターが地域食品ブランドを認定する「本場の本物」の枕崎鰹節の本枯節が、同年5月に飛騨・高原山椒や奥久慈凍こんにゃくなど日本を代表する5品目のひとつとして、フランスの食の祭典「Rencontres de Cambremer」へ招待を受けた。

このフランスの食の祭典に参加したのは、枕崎水産加工業協同組合の西村協組合長と今回新しく設立された株式会社枕崎フランス鰹節の代表を務める大石克彦氏。その地で2人はショックを受けることとなる。

ひとつは厳しい輸出環境。食品衛生基準が世界で最も厳しい欧州において、300年変わらない製造工程を守り続けている鰹節は輸出することもままならない。現地へ行った2人はフランスにある和食店を視察してみたが、そこで味わった料理も、出汁の効いていない味気ないものだったという。

「和食店なのに鰹節が使われていない。この現実に直面し、『輸出できないのなら、いっそのこと現地に工場を作ってしまおう』といったアイデアがフランスからの帰りの飛行機で生まれました」。出汁の効いていない和食が広まることへの大きな危機感が2人の胸にあった。

枕崎一丸でプロジェクト推進
今夏、いよいよ生産開始へ

日本へ帰ると早速、組合員に向けてフランス工場への参画を募ったところ、共感した約20社が名乗りを上げ準備委員会を設立するに至る。国からからは地方創生関連の支援を受けるなどのサポートもありつつ、現地調査を実施。ブルターニュ地方のコンカルノーの工業団地の一角に約3,400平方mの工場用地が見つかった。建設費用は地元金融機関らで協調融資を組むなど、まさしく枕崎一丸となったプロジェクトである。

「コンカルノーに決めたのは、港が近く枕崎と同じように水産加工業の盛んな土地というのがありました。肝心の原料となるカツオも、コンカルノーの漁船会社でインド洋にカツオ漁へ行く漁船が7隻あり、そこから仕入れる手はずがつきました」

枕崎市では鰹節に関してフランス人への研修なども行う

最終的な出資者は加工組合はじめ組合員8社など計10社となり、工場建設への感触を得てから株式会社枕崎フランス鰹節を設立。去年7月にはコンカルノー市があるブルターニュ地方の行政担当者9名が枕崎市を訪れ交流を深めたほか、今は現地採用したフランス人が同市に研修へ来ている。

工場竣工は5月末を予定し、現地採用の5名に日本からの指導員2名を加えた計7名が夏からの生産開始を目指す。もちろんEUの衛生管理基準をクリアした設備を備えており、生産量は毎日200kgが可能となる。

「販売先としては、まずは欧州にある日本料理店への出荷があります。また、枕崎市では鰹節を原料とする大手メーカーへの出荷が中心となっていますが、フランス工場では6次化を目指し、削り節をパックにして小売店への販売も行う予定です。EUにある様々な国の料理に鰹節は合うと思っています。鰹節がEUに住む人々の食卓に並ぶように、料理教室や学校などとも連携して広めていきたいですね」

将来的には「香りがまろやかで高級品とされるカビ付の鰹節などもフランス工場で製造し、付加価値を出していきたい」と、次の段階まで構想は膨らんでいる。

和食だけでなく洋食にも使える新たなスパイスとして、鰹節が受け入れられるか。枕崎の世界へ向けた挑戦は、今年本格的なスタートを切る。

建設中の工場。16年夏に生産を始める

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

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