中国人、「爆買い」のメカニズム 口コミの喚起に成功する方法

中国では、ソーシャルメディアの口コミが「爆買い」を呼ぶ。口コミを喚起するためには、どのような施策が必要になるのか。Find Japan・西山代表が、中国人向けのマーケティング戦略を解説する。

近年、日本には数多くの中国人観光客が訪れ、大量に商品を購入する動きが起きている(写真はイメージ)Photo by tonnoro

中国人観光客による「爆買い」が注目されています。なぜ「爆買い」が起きるのかを理解するには、中国人の日常的な消費行動を知る必要があります。

まず前提として、中国市場には、さまざまな特殊性があります。単純化して言えば、アメリカがつくり上げたインターネットの概念は性善説で動いていますが、中国のそれは性悪説に基づいています。ですから、中国では企業が発信する情報は信用されず、口コミ情報が消費行動の指針となります。

また、中国では広告のルールが、日本とは異なります。例えば日本では、広告代理店にマーケティングのナレッジが蓄積されています。しかし、中国に有力な広告代理店は存在せず、ナレッジが集積するような組織もありません。

従来、日本の大企業は、広告代理店と組んでマーケティングを展開してきました。しかし中国では、その方法が通用しません。一方、欧米や韓国勢は、社内に強力なマーケティング・チームを持っており、それが中国戦略でも先行した要因になっています。

中国では、メディアの規制もあります。そうした中で、大きな影響力を持つのがソーシャルメディアです。中国最大のSNS「微博(weibo、ウェイボー)」が、口コミ喚起のための有力なツールになっています。

西山高志(Find Japan 代表取締役社長)

「爆買い」の背景にあるトレンド

中国人による「爆買い」の背景には、2つのトレンドがあります。

一つ目として、今、中国では、空前の海外旅行ブームが起きています。日本に数多くの中国人が訪れているように見えますが、全体から見れば、それは一部にすぎません。2014年には、1億1600万人の中国人が海外旅行をしましたが、そのうち訪日数はたったの240万人です。世界各国が、中国人向けのプロモーションを強化しており、日本はむしろ遅れをとっています。

もう一つが、「海淘(ハイタオ)ブーム」です。「海淘」とは、海外の商品を日常的に購入する消費行動です。メイド・イン・ジャパンの商品だけが、特別に評価されているわけではありません。

「海淘族」とは個人消費者であり、彼らは海外サイトで販売されている商品情報をインターネットで検索し、直接、またはソーシャルバイヤーに代理で購入依頼して輸入します。海外サイトで購入するわけですから、アリババグループが運営する中国本土向けECサイト「Tモール・グローバル」などは利用する頻度が少ないです。日本メーカーが「Tモール・グローバル」に出店しても、あまり効果は見込めないと思います。

日本での大量購入は節約のため

中国人は多種多様ですから、マーケティングを考えるうえで必要なのは、セグメントを絞ることです。

大きく分けると、旅行には団体と個人があります。団体旅行者は、あまり情報を持たない内陸部の人たちがメインです。一方、個人旅行者は沿海部や北京の人たちで、情報の感度が高く、中間所得層がメインです。この人たちが「爆買い」の一番のボリュームゾーンです。

今後、個人旅行者はどんどん増えていきます。中国人観光客は、とにかく大量に商品を買うので、購入するものを事前にリストアップしています。また、それらをどの店で買うのかを事前に計画し、綿密なスケジュールを作成しています。ですから旅行前の段階で、彼らに商品の情報が届いていなくては意味がありません。

日本で何を買うのかといえば、薬や美容関連などの日用品・消耗品です。例えば、日本で買えば200円の歯磨き粉が、中国では800円します。しかも円安、免税というメリットもある。要は、節約のために「爆買い」が起きているのです。

それでは、購入する商品は、どのように決まるのか。そこで影響力を持つのが「weibo」など、ソーシャルメディアの口コミです。

口コミの起点を押さえる

前述の「海淘族」は、自ら買い物をするだけでなく、ソーシャルバイヤーに代理での購入を依頼します。ソーシャルバイヤーは何十万人と存在し、「淘宝(タオバオ)」というサイトに店を開き、自分が購入した商品を販売して、手数料を得ています。中国で圧倒的に強いのは、CtoC(個人間取引)なのです。

ソーシャルバイヤーは商品情報の感度が高く、一般の消費者に対して強い影響力を持っています。口コミの情報は、「メディア・キーオピニオンリーダー(影響力があるブロガーなど)」→「海淘」→「ソーシャルバイヤー→「一般の観光客」といった順番で流れていきます。ソーシャルバイヤーが自身のサイトで取り上げた商品は、瞬く間に多くの人に伝わり、日本を訪れる一般の中国人観光客も同じ商品を大量に買うようになります。

口コミを生み出すためには、ソーシャルバイヤーへのアプローチが重要で、そのためのツールが「weibo」です。

「weibo」を使って提供すべき情報は、例えば「日本で絶対に買うべき神薬10」といった“お題”です。“お題”があれば、それをネタにしてソーシャルバイヤーや「海淘族」が自発的に議論を始め、商品の体験談など口コミ量が増加し、結果的に商品の購入にもつながるのです。

中国における海外旅行の背景

 

西山高志(にしやま・たかし)
Find Japan 代表取締役社長

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