オーストラリアの量子コンピュータ企業誘致 成功のカギは人材確保か

(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年4月30日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

オーストラリア政府は4月末、シリコンバレーに拠点を置く量子コンピューティングのスタートアップ企業であるPsiQuantumに対して、合計約9億4,000万豪ドル(6億1,700万米ドル)の投資・資金提供を発表した

この資金の半分はクイーンズランド州政府から提供され、その見返りとしてPsiQuantumは計画中の量子コンピュータをブリスベンに設置し、拠点をブリスベン空港近くに置く予定である。

PsiQuantumは、世界初の「実用規模」の量子コンピュータを構築することを目指している。この装置は、暗号の解読や、新素材や新薬の発見、気候や天候のモデリング、その他の困難な計算問題の解決において、非常に役立つ可能性がある。

世界中の企業、そしていくつかの国の政府は、量子コンピュータのパズルを最初に解こうと競い合っている。オーストラリアがPsiQuantumに賭けることは、どの程度の勝算があるのだろうか?

量子コンピューティングの基礎知識

量子コンピュータは、物質を構成する原子や電子などの「量子」の持つ性質を利用した量子アルゴリズムを実行するコンピュータである。量子アルゴリズムは量子ビットと呼ばれる、量子情報を使ってデータを処理する手順のセットで、量子力学の原理を利用することで特定の計算問題を非常に効率的に解決することができる。(従来のコンピューターは、デジタルアルゴリズムを実行する。)

従来のデジタルコンピュータは情報を1と0の長い列として逐次的に表現する。量子コンピュータは情報を長い配列として、重ね合わせやもつれ、干渉を利用して並行して表現する。過去1世紀にわたり、科学者たちは量子コンピュータが情報を表現するために使用する数が、エネルギーと物質の微細な細部に自然にエンコードされていることを発見してきた。

量子コンピューティングは従来のコンピュータ処理とは根本的に異なる原理で動作する。量子物理学の原理を利用し、デジタルコンピュータでは実現不可能な計算ができるようになる可能性がある。

量子アルゴリズムがデジタルアルゴリズムよりもはるかに少ない手順でいくつかの問題を解決できることは判っている。しかし、今日まで、量子アルゴリズムを信頼性の高い方法で実行できる量子コンピュータを作った者はいない。

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