捨てられる靴を次の靴へ アシックスのNIMBUS MIRAIが変える製品設計と資源循環

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年10月1日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

サーキュラーエコノミーの「いま」を知る ― Rethink Design Journal Vol.5 アシックスの挑戦 ― 「捨てられる靴」を次の靴へ。NIMBUS MIRAIが再設計した製品と循環の仕組み

こんにちは。近畿経済産業局 環境・資源循環経済課です。

「サーキュラーエコノミーの「いま」を知る ― Rethink Design Journal」では、現場で生まれている実践をたどり、サーキュラーエコノミー(CE)を少しでも「自分ごと」として捉えるためのヒントをお届けしています。

Rethink Designとは、モノのあり方や、つくり方・使い方を見直し(Rethink)、廃棄を前提としない形へ再設計(Design)することで、CEの実現を目指す考え方です。

本企画では、これまで当局のウェブサイトで紹介してきた実践事例を取り上げ、その取組を動かしてきたキーパーソンへのインタビューをお届けします。

今回取り上げるのは、アシックス株式会社の「NIMBUS MIRAI」です。同社のランニングシューズシリーズ「NIMBUS」を土台に、履き終えた後の回収・再資源化までを見据えて設計されたモデルです。走行性能を保ちながら、「靴から靴へ」の循環を目指しています。

初代NIMBUS MIRAIの開発責任者を務めた、サステナブルプロダクト推進部 部長の上福元 史隆さんに、お話を伺いました。

―誕生秘話|ゼロ・ウェイストの町で突き付けられた現実

「シューズというプロダクトをもとに、何かサステナビリティに寄与できないか。靴から靴へ戻すことはできるのか」

この問いこそ、取組の出発点でした。

世界では年間約239億足のシューズが生産され、その約95%が焼却または埋立てによって廃棄されています。これは、一社だけでは解決できない、シューズ業界全体の構造的な課題です。

開発チームが向かったのは、ごみ処理の現場でした。廃棄物を出さない「ゼロ・ウェイスト」を掲げる徳島県上勝町を訪れ、使い終えた製品が、実際にはどこで行き詰まるのかを確かめようとしたのです。

上勝町では、家庭から出るごみを13種類43分別に細かく分け、約80%を再使用・再生利用につなげています。それでも、複数の素材が接着されたシューズは分解が難しく、紙おむつと並ぶ「リサイクルしにくいもの」だと説明されました。

上福元さんたちは、一参加者として現場の声を聞こうと、社名を明かさず施設見学ツアーに参加していました。ところが冒頭から、シューズは特にリサイクルが難しいと指摘されます。メーカーであることを名乗り出せないほど、重い言葉だったといいます。

「自分たちがつくっているものが、現場を困らせている」。

その事実を突き付けられた上勝町での体験は、開発の方向を決める転機になりました。

上勝町訪問時の様子 「シューズのリサイクルが難しいことを痛感した」と語る上福元さん
上勝町訪問時の様子 「シューズのリサイクルが難しいことを痛感した」と語る上福元さん

―Rethink|シューズづくりを問い直す

課題は、大きく3つに整理されました。なお、足を包む上側の部分を「アッパー」、地面に接する底の部分を「ソール」と呼びます。

  • アッパーとソールが強固に接着され、分けにくいこと。
  • アッパーだけでも、ポリエステル、ナイロン、ウレタン、皮革、金属など、多くの素材が混在していること。
  • 使用済みシューズを回収し、再資源化する社会的・事業的な仕組みがほぼ存在しないこと。

この3つを根本から見直せば、履き終えた後も資源として循環できるのではないか。チームはそう考えました。

NIMBUS MIRAIの構成パーツと主なテクノロジー
NIMBUS MIRAIの構成パーツと主なテクノロジー

ただし、履き心地や走行性能を損なうわけにはいきません。「NIMBUS」は、やわらかなクッション性と快適な履き心地を重視した、同社を代表する高機能ランニングシューズシリーズです。

その名を冠する以上、通常のランニングシューズと同等の性能基準を満たすことを前提に、循環性との両立を追求しました。

目指したのは、「作って売れば終わり」からの転換です。

購入、使用、回収、再資源化、次の製品への活用までを、一つの流れとして設計する挑戦が始まりました。

―Design|循環を実現する3つの設計革新

では、3つの課題をどのように乗り越えたのでしょうか。構想開始から2024年4月の発売まで約3年7か月。開発は決して一筋縄では進みませんでした。

まず見直したのは、アッパーとソールをつなぐ接着剤です。接着剤の中に、熱を加えると膨らむ微細な粒を混ぜました。履いている間はしっかり接着し、回収後に加熱すると粒が膨らみ、上下を分けやすくなる仕組みです。

技術の原型は、2006年に権利化された社内技術でした。もともとは革靴などのかかとを交換しやすくするための研究でしたが、当時は事業化に至りませんでした。

眠っていた技術を、シューズの循環設計に転用できるのではないか。何気ない社内の会話から、可能性が見えてきました。

協力工場と100パターン以上を試し、熱のかけ方や材料の配合などを調整しました。こうして、「走っている間は剥がれず、回収後は分けられる」という条件を確立しました。

接着技術の仕組み
接着技術の仕組み

2つ目は、アッパーをできるだけポリエステル一種類でつくることです。

通常シューズは足を守るために硬質な部分と、フィット性を向上させる為の柔らかい部分があります。例えば、かかと部分は足首にフィットするようにクッション性のあるウレタン素材などを使用します。

NIMBUS MIRAIでは、ポリエステル繊維の並べ方を工夫した不織布を使い、ウレタン素材を使用せずポリエステル素材だけで柔らかさを生み出しました。ポリエステルを選んだのは、衣料品の分野ですでに再び繊維へ戻す技術が使われていたためです。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、回収したウェアを糸に戻し、選手団ウェアやシューズのメッシュ材に活用していました。この経験が発想の土台になりました。

「衣料品からシューズ」ができるなら、「シューズからシューズ」もできるのではないか。さらに将来は、衣料品とシューズをつなぐポリエステルの循環も描けるのではないか。

過去の経験が、新たな構想につながったのです。

NIMBUS MIRAIパーツ図 アッパーをポリエステルの単一素材で構成し、リサイクル可能なシューズ設計を実現
NIMBUS MIRAIパーツ図 アッパーをポリエステルの単一素材で構成し、リサイクル可能なシューズ設計を実現

3つ目は、履き終えたシューズを回収し、再び原料へ戻す仕組みです。

分解しやすい製品をつくっても、回収されなければ循環は成立しません。

そこで、回収・再資源化に知見を持つテラサイクルジャパン合同会社と連携。回収したシューズを分けて原料へ戻す工程と、各国の法制度に応じた回収方法を組み立てました。

回収したシューズを加熱してアッパーとソールに分けたあと、ソールは、細かく砕いてゴムや発泡材の粒状原料にし、スポーツ床材をはじめとする用途への再利用を検討しています。

アッパーは細かく砕き、粒状の原料(ペレット)にした後、再び糸へ戻します。この工程を実証できなければ発売を中止するという判断のもと、発売2か月前まで試験を重ねました。

「再び糸へ戻せた瞬間、チームは歓喜に沸いた」と上福元さんは語ります。

シューズから再生した粒状原料(ペレット)と繊維
シューズから再生した粒状原料(ペレット)と繊維

回収への参加を促す工夫も重ねました。

シューズ本体や靴箱に二次元コードを付け、イラストで回収方法を直感的に伝えながら、各国・各言語の案内ページへつなげています。日本では返却者に2,000円相当のポイントを付与するなど、国ごとにインセンティブを設計しました。

捨てるときの負担感を、循環に参加する喜びや価値へ変える試みです。

靴箱に付された二次元コード 開発ストーリーや回収プロセスにリンク
靴箱に付された二次元コード 開発ストーリーや回収プロセスにリンク

―現在地|NIMBUS MIRAIがもたらした社内外の変化

初代NIMBUS MIRAIの発売から約2年半。挑戦は、一つの製品にとどまらず、社内外に変化をもたらしています。

環境に配慮した材料を選ぶ、製品ごとのCO2排出量を把握するといった、開発現場で考えるべきことが明確になりました。「何をすればよいか」を具体的に考えるモデルケースになったといいます。

ユーザーとの接点にも変化がありました。循環の考え方に共感して初めて同社の商品を購入し、履き心地も評価したという声が寄せられています。循環性が、新たな顧客との接点になったのです。

初代の知見をもとに、軽量化やカーボンフットプリント(※)の観点から改良した「NIMBUS MIRAI 2」は、愛知・名古屋2026アジア・アジアパラ競技大会のTEAM JAPANオフィシャルスポーツウェアのシューズにも採用されました。

(※)カーボンフットプリント…製品の原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまでに排出される温室効果ガスを、CO2の量に換算して示したもの

NIMBUS MIRAI 2 アシックスストライプの約1%に初代「NIMBUS MIRAI」を回収・リサイクルし、 生成された再生ポリエステル素材を使用
NIMBUS MIRAI 2 アシックスストライプの約1%に初代「NIMBUS MIRAI」を回収・リサイクルし、 生成された再生ポリエステル素材を使用

―キーパーソンの想い|「捨てる」を「うれしい」に変える

上福元さんを動かしているのは、「面白いものをつくりたい」という想いです。

サステナビリティを理由に独りよがりなものをつくるのではなく、「お客さまも一緒になって価値を感じられるものにしたい。捨てるときの罪悪感を、うれしいことに変えたい」という考えが、その原動力となっています。

その想いは、製品設計だけでなく、回収方法の伝え方や、参加を促す仕掛けにも表れています。

サーキュラーエコノミーは、製品をつくるだけでは実現しません。販売、回収、再資源化の仕組みを動かし続ける必要があります。

それでも、「捨てる」を「うれしい」に変えるために。シューズづくりの常識を問い直す、同社の挑戦は続きます。

NIMBUS MIRAI2の開発に携わるパフォーマンスランニングフットウエア統括部の松井さん(写真左側)と 上福元さん(写真右側)
NIMBUS MIRAI2の開発に携わるパフォーマンスランニングフットウエア統括部の松井さん(写真左側)と 上福元さん(写真右側)

まとめ|この取組が示すヒント

現場の声から課題を捉え、性能を守りながら、設計・回収・再資源化までを一つの流れとして描くことが重要です。

NIMBUS MIRAIは、「捨てる」を次の価値へつなぐ仕組みが、顧客の共感や新たな選択を生み出すことを示しています。

<関連リンク>
▼近畿経済産業局 CE実現に向けた取組 Rethink Designプロジェクト
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/RethinkDesign/RethinkDesign.html

▼Rethink Designからみるサーキュラーエコノミーの実践知
(NIMBUS MIRAI 該当ページ)
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/RethinkDesign/RDreport2025/RDaction2.pdf

元記事へのリンクはこちら。

近畿経済産業局 公式note
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