5分でできるSF事業構想 斜め上の未来ストーリーをつくる
奇妙なアイデアも、物語にすると事業の検討材料に変わる。SFは「未来社会・困りごと・解決」という物語の型で未来を考える道具といえる。3回のワークショップを通じて、飛ぶ・舞う・降りる で事業を構想するプロセスを体験してみよう。
【取り組み方】
穴埋め式のワークシートを用意した。右側のSFプロトタイピングの“コツ”を読みながら、⬜︎を自分の言葉で埋めてみよう。出発点は、思いつきの「予想外の未来社会」ひとつで十分だ。あとは、その社会で「何に困るか」「どう解決するか」を一行ずつ書くだけで、物語の骨組みができあがる。うまく思いつかなければ、仕事に関する言葉と趣味に関する言葉を掛け合わせてみよう。仕上げにプロンプトで、その骨組みをAIに一つの場面として書いてもらおう。
【ワークシート】

【プロンプト】
【SFプロトタイピングの“コツ”】
「三幕構成」のビジネス版
▼脚本術では、物語を「設定・対立・解決」の三幕で組み立てることが多い。SFに当てはめると、「予想外の未来社会」・「そこで生じる困りごと」・「その解決」になる。アイザック・アシモフの『はだかの太陽』(1957年)には、感染症が過去に広がった星で、人々が広大な邸宅に一人ずつ暮らし、直接会うことを生理的に嫌い、交流を立体映像で済ませる惑星が出てくる。
米3M社は、箇条書きの事業計画をやめ、この型に近い物語として計画を書く方式を取り入れた。同社で計画部門を率いたゴードン・ショウらが1998年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌で紹介した書き方は現状という舞台を示し、乗り越えるべき課題を対立として描き、自社がどう勝つかで締めくくるものだ。箇条書きでは、因果関係や前提が書かれずに済んでしまうからだ。SFの三幕も、市場環境・顧客の課題・自社の提供価値と対応している。違いは、出発点を現実の制約ではなく、予想外の未来に置くことにある。
投資家も物語で判断する
▼株式公開の場面でも、物語は数字の添え物ではないらしい。マーテンスらは2007年、『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』誌に、ハイテク3業種の新規株式公開の目論見書を調べた研究を発表した。自社が何者か、どういう筋道で機会をものにするのか、それが社会のより大きな動きとどうつながるのか。目論見書でのこうした語り方の違いは、他の要因の影響を除いても、資金調達の成果に表れていた。新規事業の提案でも、資金や人を呼び込むのは数字の細かさだけではなく、筋が一本通っているかどうかなのだろう。
他人が追体験できる未来
▼心理学者のメラニー・グリーンとティモシー・ブロックは2000年の研究で、読み手が物語の世界に入り込む度合いを「移入(トランスポーテーション)」と名づけた。複数の実験で、深く入り込んだ人ほど、物語に沿った考え方や登場人物への評価を受け入れやすかった。注意も感情も頭に浮かぶ映像も、一つの場面に集まるためだという。
SFと事業の接点もここにある。デヴィッド・カービーは2010年の論文で、映画のなかで 未来の技術がごく普通に使われている場面を「ダイエジェティック・プロトタイプ(物語内の試作品)」と呼び、それが技術の必要性や実現性を観客に納得させ、現実の開発を後押ししてきたと論じた。一枚の企画書では動かない人が、一つの場面で動くことがある。人類の未来を語るより、ある町の窓口で客が料金表を見て眉をひそめる場面を一つ書いてみてほしい。料金や苦情、得をする人と損をする人が、ずっと具体的に出てくる。
【まとめ】
物語の骨組みはできただろうか。この段階でもまだ「実現できるか」は問わないでほしい。派手な未来より、生活感のある未来のほうが、事業のヒントは多く落ちている。
次回 降りる では、この物語から現在へ逆算し、「明日やること」を決める方法を扱う。
- 宮本 道人(みやもと・みちと)
- 事業構想大学院大学 准教授
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